第382話 超重量級の遠征艦隊
トマスらが修理を完了させるまでの間、俺は一旦イレーネ湾へとグロッサー770を走らせた。
俺がイレーネ湾にて行おうと思っていることは、コアレシアに派遣する艦隊の選定であった。
というのも、コアレシアへの航海は今までの航海とはわけが違うからであった。
今までのイレーネ海軍の行動範囲は大陸の周辺部に限定されていたため、航続距離を特段気にする必要はなかった。
もし足りなかったとしても、給油艦により補給をすればいいだけの話であったのだ。
だが、今回はそういうわけには行かない。
コアレシアはイレーネ島からは随分と離れた位置にあることは、【世界地図】で表示される大陸の位置関係を見れば明白であった。
そこまでの往復は、通常動力艦ではなかなか難しいだろう。
よって、使用できる艦は原則原子力艦か、魔石機関搭載型の艦に限られる。
訪問先の港で給油を受けることができる可能性もあるが、あまり期待しないほうが良いだろう。
もしも給油できると通達されていても、いざ行ってみると給油をしてもらえない可能性もあるわけだ。
そうなった場合、艦隊ごとコアレシアの人質になることになる。
では、逆にイレーネに迫ってきていた敵艦隊はどうしていたのであろうか。
結論から言うと、おそらくあの艦艇たち……少なくともニューコリントは重油による燃焼に頼った推進を行っていない。
厳密には、魔石機関と重油専燃缶による複合推進を採用していると思われる。
というのも、煙突が搭載されている割には船体規模と比べて明らかに小さかったのだ。
そこでニューコリントの調査をした結果、内部に魔石機関らしきものが確認された。
ニューコリントしか検証していない以上その真偽は不明だが、コアレシアのどの艦も基本的にはこの複合型の推進方式を採用しているだろう。
俺はそんな事を考えながら、グロッサー770はイレーネ湾泊地の門をくぐった。
そのまま車を鎮守府本庁舎の前に止め、俺は車から降りた。
その時、鎮守府本庁舎から出てきた誰かが俺に声をかけた。
「司令。鹵獲艦の見学はもう済んだのですかな?」
「ハルゼー海軍元帥か。見学は一旦中断して、今はトマスに通信機器の修理を任せているところだ」
「そうでしたか。で、何かイレーネ湾にご用事で?」
「ああ。おそらく今度、例の艦隊の所属国であるコアレシア連邦共和国に艦隊を派遣することになるだろう。その時に用いる艦艇を選定しにな。だが、少しばかり厄介だぞ」
俺はハルゼー元帥に、考えている懸念について話した。
その点については彼も俺の意見に同調し、やはり原子力推進艦か、魔石機関搭載艦での出撃が望ましいということになった。
だが、砲艦外交という点も考慮して、なんとか戦艦を艦隊に組み込みたいと彼は申し出た。
「艦隊に組み込むのであれば、航続距離に勝るアイオワ級だろうな。それでも往復が可能かどうかは不透明だが」
「復路の途中に給油艦を配備して洋上給油を行うことは可能です。そうすれば戦艦もアイオワ級のようなアメリカ戦艦の運用は十分視野に入るかと」
「そうだな。ならば最早戦艦は組み込めるだけ組み込んでも良いかもしれないな」
「砲艦外交をするのであれば、戦艦という目に見えて強力な艦は威力を発揮します。司令のおっしゃるとおり、戦艦の数が多ければ多いほど良いかもしれませんね」
当初俺が予定していたよりも、随分と艦隊の規模が大きくなりそうだな。
だがいずれはコアレシアと戦争になるであろうことを踏まえ、海軍の増強に踏み切っても良いかもしれない。
その一環として、戦艦を増やすのは手だな。
増やすとすれば……ノースカロライナ級の2隻と、サウスダコタ級の4隻、計6隻だろうか。
これらは航続距離が15000海里を超えており、その数値は大和型の2倍以上である。
コアレシアとの戦争になっても、その航続距離は生かされることであろう。
「よし、ではノースカロライナ級とサウスダコタ級、合わせて6隻を就役させよう。そうなればアイオワ級と合わせて10隻の戦艦でコアレシアに圧力をかけることができる」
「それではまだ随伴艦が足りません。しかし駆逐艦のような艦は燃料搭載量が少なく、航続距離が短い傾向にあります。なので、原子力推進の艦……例えばロングビーチやベインブリッジのような艦を護衛につけることを推奨します」
「原子力推進の随伴艦……キーロフ級ではどうだろうか?」
「ソ連艦ですか……まああの艦級は優秀です。随伴艦としてはうってつけでしょう。後は万が一の時の防空用のニミッツ級と、バージニア級、それにガングート……を織り交ぜた艦隊でどうでしょうか」
そのハルゼー元帥の提案を元に、俺は艦隊の準備に取り掛かった。
まず召喚するのはノースカロライナ級、その次にサウスダコタ級、最後にキーロフ級だ。
湾内に停泊していた艦艇類を一旦湾外へと移動させた後、俺は久方ぶりの【統帥】スキルを発動した。
「スキル【統帥】発動、ノースカロライナ級『ノースカロライナ』『ワシントン』を召喚!」
海面が光り輝き、アメリカ戦艦らしい合理的な艦影をした2隻が、まるで自身に溢れているかのように姿を表した。
「スキル【統帥】発動、続いてサウスダコタ級、『サウスダコタ』『インディアナ』『マサチューセッツ』『ウェストバージニア』を召喚!」
霧島と死闘を繰り広げたことで知られるサウスダコタ……そしてその姉妹艦共に今度は霧島らの味方として、イレーネ湾にその身を浮かべた。
「もう少し! スキル【統帥】発動、キーロフ級、『キーロフ』『フルンゼ』『カリーニン』『アンドロポフ』を召喚!」
一連の召喚により、湾内に波が発生し、俺がいる岸にも海水が乗り上げてきた。
軍靴を海水が濡らすことなど気にせず、俺は目の前に展開された艦艇群を見つめていた。
ああ、江戸の人々を驚かせた黒船、その現代版ともいえる、砲艦外交をするにふさわしい誠に威風堂々とした艦影、艦隊であった。
召喚された艦艇群は、タグボートにより湾外へと運び出されていく。
また、湾内に停泊していたアイオワ級などの、コアレシアに遠征する艦艇もまた出港していった。
艦隊は通信機器の回復を待たず、ガングートと合流するべく西海、ゾルン島へと針路を取るのであった。
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