第356話 和平の兆し
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北方海域に展開するイレーネ帝国海軍。
俺はその旗艦たる武蔵に乗艦し、戦争の行く末を海上から見守っていた。
武蔵艦内に設置されたフリーデン連立王朝の地図を見ながら、俺は盤上の駒を動かす。
現状、イレーネ陸軍は順調に進撃を続けて最初の攻略目標のシュリーフェンの占領に成功していた。
シュリーフェンは港からも近いので、何かあった時に後方から直ぐに援助をするための中継地点、橋頭堡となるであろう。
俺は占領に即して現地の視察に行こうと思ったが、何故か反対されたため行くことは出来なかった。
「山下大佐、なぜ俺はシュリーフェンの視察に行ってはいけないと思うか?」
「私には陸軍の考えることはさっぱり分かりません。ただ、彼らは司令に悲惨な現状を見せないように配慮しているのかもしれませんね」
「別に悲惨であろうとなかろうと、占領地の視察は重要であると思うが……まあ何か事情があるのだろうな」
「ですね。今はこちらの戦線に集中しましょう」
北方海域での艦隊決戦終了後も、連合艦隊は同海域にとどまり続けていた。
海上封鎖を行うことによってフリーデンへの物資の流入を締め上げているのだが、最近は大して輸送船等もやって来ないため、これだけの大艦隊を配置する意義が薄れていた。
そのため、順次艦隊は北方海域を西向きに航行、西海へと移動を開始していた。
これは、前に遭遇した謎の艦隊の対策のためでもある。
すでにかなりの戦力が移動したため、ミトフェーラ沿海の制海権は連合艦隊が万全に確保していた。
「……そういえば、結局あの艦隊はどこからやってきたのだろうな?」
「分かりませんな。なにせ捕虜が一切口を割らないものですから……」
「少しは拷問をしないと情報を吐かないのであろうか……まあ良い、今は捕虜の扱いはそのままでいいだろう」
「了解しました。……しかし、なぜあの艦隊の乗務員の種族が『エルフ』ではなく『ヒト』であったのでしょう? 当然我が国でも三冠王国でもない以上、我々の知らない第三勢力からの干渉ということになりますな……」
山下大佐の言う通り、捕虜はエルフではなくヒトであった。
このことより、フリーデンの港湾に停泊していた敵艦もおそらくは第三の勢力のものであると考えられる。
現在沈没船をサルベージ中であるので、その結果次第では敵の技術力なども知れるであろう。
そしてサルベージ中に、マストに掲揚されていた星条旗のような旗を回収したとの報告が入った。
それを聞いた俺は、かつてルクスタントの秘密文書庫で見つけた本の中に、同様の星条旗が記されていた、また不落宮の最下層にも掲揚されていたことを思い出した。
つまり、敵は古代文明との何らかのつながりを持っている可能性が高いというわけだ。
そうであれば、あのような戦車や対空ミサイル、戦艦を持っていても不思議ではない。
かつての古代文明がアメリカ風の装備を持っていたことはウーラノスから入手したデータからも明らかであり、その遺物、または設計図をもとに再製造したと考えることができるのではないだろうか。
仮にこの考えがあっていた場合……イズンとの約束達成にはまだ超えなければならない壁があることになる。
向こうからこちらに干渉してきている以上、争いは避けられないであろう。
そうなった場合、イレーネ帝国一国で対処できるのであろうか……。
「司令、顔色が悪いようですが……何か心配事でもあるのですか?」
「ああ。この戦争でフリーデン連立王朝に勝利すれば、この世界に安寧が訪れると思っていたのだが……それは甘い考えだったようだと思ってな」
「たしかに、新たなる敵の出現は我々の目的達成にとって支障となるでしょう。ですがそれを乗り越えてこその皇帝、神の使徒ではないですか。大丈夫です、司令はやり遂げることが出来ますよ」
「そうだと良いがな……」
俺は武蔵の艦橋から、青く輝く海を見つめるのであった。
◇
ミトフェーラの王都、フランハイムにそびえ立つ宮殿。
ベアトリーチェはフリーデンとの開戦以降、同地を指揮するためにイレーネ島を離れ、フランハイムに滞在していた。
彼女はミトフェーラの北方で警護につく武装親衛隊の最高司令官として、宮殿から指揮を取っていた。
「……妾が直接出向けば良い気がするのじゃが、如何せん旦那が認めてくれんのじゃ。サーシャ、お主はどう思う?」
「陛下はベアトリーチェ様の身になにかがあってはと思っておられるのでしょう。それだけ愛されているということではないかと」
「そ、そうか? ならば妾はこの宮殿にて、武装親衛隊の指揮を取ろうぞ」
「それでよろしいかと。私は四肢を失っているので何も出来ませんが、ベアトリーチェ様の話し相手ぐらいにはなりますので、何でも話してくださいね」
サーシャはそう言って微笑んだ。
ベアトリーチェはそんな彼女の顔を見ながら、ゆっくりと紅茶を口に含む。
……そして彼女は、サーシャに対して一言言った。
「サーシャ、話すべきことがあるのはお主ではないのか?」
「……え?」
「最近のお主はどうやら、魔導通信珠で誰かと話していたようじゃな。残念ながらSDの連中が嗅ぎつけて報告してきたぞ」
「……SD。なるほど、もう隠しても無駄ということですか」
サーシャはそう言って小さく微笑んだ。
そして一息つくと、彼女はベアトリーチェの顔をじっと見、そして言った。
「ベアトリーチェ様、よく聞いていてください。まずは私、サーシャですが、本名はサーシャ=イル=イラストリアスと申します」
「イラストリアス……フリーデン連立王朝を構成する国のうちの一つのヴィンターホーフ王国の王家……か」
「そうです。私は現国王の娘、王女に当たります。そして私は父よりベアトリーチェ様に伝言を預かっっております」
「……言ってみよ」
『イレーネ=ミトフェーラ二重帝国の共同統治者たるベアトリーチェ=フォン=ミトフェーラ=エスターライヒ陛下。私はフリーデン連立王朝の5つの王国のうちの一つ、ヴェストフリート王国の国王、シュトラスブルガー=イル=イラストリアスというものです。本日娘サーシャを通して陛下にこのように伝言を伝えてもらったのは、以下の提案をするためです。すなわち、我々とイレーネ=ミトフェーラ二重帝国との単独講和の提案です。戦争をする気のない者同士が殺し合うほど無駄なことはないでしょう。もしも受けてくださるのでしたら、サーシャを通してご連絡ください。前向きに検討してくださることを期待しています』
ベアトリーチェはその言葉を聞き、少しの間考えた。
だか彼女はルフレイの許可なしに決めるわけにはいかないため、一旦回答は保留することとした。
そしてその話は、北方海域の武蔵に乗艦するルフレイへと伝えられるのであった。
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