第348話 クロスロードの輝き
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
F-35Bのコックピット内に響き渡る警報音。
その音は明らかに、何らかの異常を表していた。
戸惑うパイロットは、HUD上に警戒メッセージが表示されていることに気がついた。
「なんだこれは……」
『おい、何をしている! すぐにこの空域から退避するぞ!』
「なんだ、何が起こっているんだ!」
『自分のディスプレイを確認するんだ! 赤い丸が見えるだろう、とりあえずはその赤い円の中から離れるんだ!』
敵艦隊に向かっていたF-35たちは機首を反転させ、ディスプレイ上に示された赤い円から脱出していった。
だが一部の者はこの赤い円のことを理解しておらず、声掛けがなければそのまま円の中に留まっていたかもしれなかった。
安全な空域に離脱した彼らは、何が起こっているのかの説明を受ける。
「編隊長、一体何をそんなに焦っていたんだ? 確かにあれだけ警戒音が鳴れば焦るのは分かるが……それにあの赤い円は何なんだ?」
『あの赤い円か。あれはな、端的に言えば単一兵器の加害半径だ』
「単一兵器の? あんな規模ということは……核でも使うつもりか!? たかが艦隊相手に!?」
『いや、あれは核ではない。おそらくあれは魔石爆弾の技術を転用した砲弾だ。サテライトキャノンの軍事転用は司令が嫌っていたはずだが……攻撃されてその反撃、といったところであろうか』
彼らは赤い円の縁から少し離れたところを周回しつつ、砲弾の炸裂の観測を行う。
彼らにとっては魔石反応型の兵器を見るのは初めてであり、その威力も聞きはするものの過小評価していた。
そんな彼らを嘲笑うように、サテライトキャノンからは砲弾が放たれた。
『くっ、さらに警報音が強くなったな……良いか、絶対に爆発する方を見るんじゃないぞ! 視界が奪われて一瞬で操縦不能になるからな!』
「見るなと言われたって、このバブルキャノピーじゃあ光が入ってくる気がするが……ええい、ままよ!」
放たれた砲弾は天高く打ち上がり、敵艦隊の少し後ろをめがけて落下していく。
そんなことも知らずに、艦隊はサテライトキャノンに対して砲撃を続行していた。
だが甲板で見張りを行っていた兵士が、空から落下してくる一筋の光を見つけた。
「おい、あの光は!」
「何だアレは……まるで天から降り注いでくるような……」
「……いや、あの光は見たことがあるぞ。たしか古代文明の……MIRVの弾頭が落下してくるような光だな」
「MIRV!? 核ミサイルじゃないか! じゃああれって……」
敵艦隊の乗組員は、甲板からその落下してくる光を眺める。
そうしている間にも光はどんどんと近づいてきて、そして海面に激突した。
少し砲弾は水中に潜った後、中の信管が作動して起爆した。
ピカッ――ズドォォォォォォォォォォンン……!!
水中で炸裂した砲弾は、まずは強烈な光を放った。
そのため、砲弾の落下を眺めていたものは皆、一時的に失明状態に陥った。
そうしている間に今度は、爆発の衝撃波により水面が上方向に押し上げられ、一瞬水のドームが形成される。
「なんだ、一体何が起こっているんだ!」
「この威力は……そしてこの水のドームは……まるでベーカー……」
「まずい、艦が持ち上がるぞ!」
衝撃波で押し上げられた海水により、敵艦隊の艦は次々に持ち上げられ、空中に放り投げられた。
それにより甲板上に出ていた多くの乗組員が振り落とされ、艦は空中でコントロールを失う。
そして艦は空中から再び海水へと着水し、その衝撃で艦は激しく動揺した。
「生存しているのは一体何人だ!? 点呼を行うぞ!」
「機関科は全滅、同じく中にいた乗組員はほとんどが天井に頭をぶつけて頚椎を損傷、死亡しています! この艦に残っているのはごく少数の人間だけかと……」
「そんな状況では感を動かせないではないかっ!」
「報告! 本艦は着水時の衝撃によりスクリュー部分が破損、そこより浸水が開始しています! またどうやら竜骨がイカれたようで……艦の修復、航行は絶望的な状況です」
その報告を聞いた敵戦艦の艦長は、あまりの被害に頭を掻きむしった。
だがこの艦はまだマシな方で、少し前で艦隊行動を共にしていた駆逐艦たちは、みな着水時に船体が折れたり、衝撃で内部の弾薬庫が爆発したり、横転して転覆したりとみな一撃で轟沈していた。
その結果を見ていた敵戦艦でも、後部火薬庫で突如炎が上がり、砲塔が遥か上空へと吹き飛んだ。
砲塔内部に搭載されていた弾薬類が暴発したのであった。
もはや帰れないことを悟ったこの艦の艦長は、諦めて艦を放棄することを決意する。
「諸君、よく聞き給え。我々はこれより本艦を放棄、脱出してあそこに見えている陸地に避難する」
「それでは我々は……」
「ああ、敗北だ。だが生きていれば反撃の機会もあるだろう。その時を待て、今は犬死にするときではない!」
「……艦長! エンジン音です! 敵機が接近してきています!」
空に響き渡るジェットエンジンの轟音。
先程まで退避していたF-35の編隊が戻ってきたのであった。
高らかに響くそのエンジン音を聞いた彼らは、もはや助からないのかと絶望する。
「おい、白い布はあるか! 敵が同じ信号を使っているか知らないが、今はとにかく降伏の意思を示すんだ! 早くしろ!」
艦長にそう言われた乗組員は、さっそくそこら辺にあった白い布を棒にくくりつけて振るう。
F-35のパイロットは赤外線カメラを通してその様子を確認し、敵が降伏したことと攻撃を中止するように僚機に伝達した。
そしてその情報はガングートら第四航空戦隊に知らされ、第四航空戦隊は勝利に沸いた。
その後、第四航空戦隊の各艦は敵艦隊と合流、ガングートに生存者の移乗を行った。
結果的に生き残っていたのは30名と少し、艦隊の規模から見れば全滅であった。
こうしてイレーネ軍は、捕虜と重要な情報源を手に入れたのであった。
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