第339話 双頭の鷲の旗のもとに
マクシミリアンの蜂起を機に始まった、ヴェルデンブラント王国内での内戦。
だが我が国がすぐに参戦……するわけにはいかなかった。
マクシミリアンは事前の入念な準備により、蜂起早々に王城を占領していたのであった。
そのため国王であるオスカーが現在幽閉状態、人質に取られていた。
そのため行動一つを起こすにも、入念に計画を行う必要があった。
俺達の行動が遅れることを良いことに、マクシミリアンは王城でこのような宣言を行った。
「私はここに、国王オイラー1世の廃位とそれに伴うヴェルデンブラント家の復権を宣言する! 王冠は簒奪者より、正当なる王家に戻ってきたのだ! 国民よ、歓喜せよ!」
その宣言の内容は俺の耳にも入ってきたが、国民の中ではどうも割れているようだ。
蜂起軍にはかつて王国で騎士として仕えていたが、現代兵器とともに不要として解雇された軍人、貴族が多く所属しており、それらを支持する層もまた一定数いるようであった。
王国の正規軍もまた、国王が人質に取られているため鎮圧には乗り出せていなかった。
彼らはとりあえず王都を包囲して蜂起軍が外に出られないようにしているが、それ以上進むこともできない。
まさにどうしようもない状況であった。
「……困ったな。手を出そうにも出せないぞ、この状況は」
「我が国が参戦して抑えることは簡単ですが……それでは内政干渉と取られ、我が国の評判が下がることになるでしょう」
「ここは同じ三冠同盟であるルクスタント王国とゼーブリック王国を支援するしかないか……だがそうしたらおそらくフリーデン連立王朝が参戦してくるだろうしな……」
「司令、今は迷っている時間はございません。状況は一刻を争うのです」
急遽ミトフェーラから帰還してもらったロンメル元帥、グデーリアン上級大将、ルーデル元帥、ハルゼー元帥の4人と俺は、大本営に設置された地図を見ながら状況の整理を行っていた。
一旦フリーデンの偵察についていた部隊も呼び戻し、ヴェルデンブラントの偵察を行わせようとしていた。
その報告を確認しない限り分からないが、おそらく王都内は蜂起軍で溢れていることだろう。
このまま強引に突入した場合、王都が戦場となってしまう。
そうなった場合には、住民ら多くの民間人が犠牲になることになってしまう。
そのためには王都の蜂起軍を外に誘引する必要があるが、そのためには包囲を緩めなければならなかった。
そうすれば、つけあがったマクシミリアンが一体何をしでかすかわからない。
まさに万事休すである。
「現在のこの状況を打破するには、どうするべきであると思う?」
俺がそう聞くと、ロンメル元帥が答えた。
「そうですね……まず戦力的に、ヴェルデンブラント王国の正規軍だけで討伐可能であることは明らかです。そのうえでどのようにして蜂起軍を引きずり出すかですが……ここは一芝居うちましょうか」
「一芝居? 一体何をするつもりだ?」
「簡単に言えば、第1段階としてまずは、我々がヴェルデンブラント王国の正規軍の支援をしているとの情報を流すのです。それで引っかかるのであれば宣戦布告してくるでしょうし、それほどの馬鹿でないのであれば我が国を警戒するだけで済むはずです」
「そうだな。だがそれでは何も変わらんぞ?」
俺はロンメル元帥の意図がうまく汲み取れず、首を傾げる。
宣戦布告してこないのであれば、それをするだけの意味がないと思うのだが。
ただいたずらにヴェルデンブラント王国の国民を危険にさらすだけではないだろうか。
「ここで第2段階です。第2段階では、神聖同盟の条項を用いてヴェルデンブラント王国に兵を派遣します。これによってマクシミリアンが釣られたら、後は叩き潰すだけです」
「条項……『紛争国における安全保障のために派兵に関する条項』か。だがあれによる派兵では戦闘を行うことは出来ないはずだが……」
「その部隊をもし彼らが攻撃した場合、どうなりますか?」
「! 参戦口実を無理矢理にでも作ろうというのか……」
なるほど、こちらが悪人になるのが嫌であれば、相手を悪人にすれば良い。
これにより自衛戦争という正当化ができれば、他の国も我々神聖同盟の応援に回るであろう。
そうなってしまえば、後は何をしようと勝手である。
その後はきっとフリーデン連立王朝との戦争に発展するだろうが、もはや避けられない所まで来ているのだな。
俺はそう思いつつ、その計画を実行に移すための準備を開始させた。
大陸全体に争いが波及するのは、もはや止められない状況になっていた。
◇
作戦立案開始から数日後、ようやく本格的な作戦内容が固まった。
部隊はそれに合わせて編成を割り振られ、まずは治安維持を名目とした部隊がヴェルデンブラント王国に派遣されることとなっていた。
彼らは揚陸艦にて大陸まで移動、その後陸路で移動した。
その部隊が移動している途中、ルクスタント王国に空港は返却したが、同空港を用いて空軍の爆撃機部隊が展開された。
俺もそれに伴い大陸へと移動を行い、同空港に仮の大本営を設置した。
「司令。もうすぐで戦争が始まろうとしています。心の準備はよろしいですか?」
「……ロンメル元帥、君はなにか戦争が起こるたびに必ずその質問をしてくるな。勿論出来ているとも」
「ならば結構です。将兵の全ての命、司令のために全て惜しみなく捧げましょう」
「ありがとう。だが、生身の人間ではないからと言って無謀の作戦を行うのは絶対に許さないぞ。いつも言っていると思うが……」
その俺の言葉にロンメル元帥は小さく頷いた。
そのとき、グデーリアン上級大将が部隊の配置完了を知らせに来た。
それを聞いた俺は、元帥たちの前で演説した。
「……これより、我が国はヴェルデンブラント王国の蜂起軍との戦闘状態に入る。その先にはおそらくさらなる混乱が待ち受けているであろう。だが、それをものともせず諸君らには戦い抜いてほしい。双頭の鷲の旗のもとに、いざ出撃せよ!」
その演説に、グデーリアンら4人は大きく頷くのであった。
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