第332話 『フリーデンに関する懸念』
真昼間のルクスタント王国、王城。
ルイは執務室で、送られてきたイレーネ皇帝一家の写真を眺めていた。
彼はそうしていると、部屋の扉がノックされた。
「陛下、私です」
「軍務卿か。入って構わんぞ」
「失礼いたします」
軍務卿は扉を開き、ルイの執務室に入ってきた。
ルイは持っていた写真を机の上に置き、軍務卿を見る。
その軍務卿は、机の上に置かれた写真を見て言った。
「これは……ルフレイ陛下一家の写真ですか。最近よくこの写真が出回っていますよね」
「ああ。朕のもとにも一枚やってきたからこうして見ていたんだが、姉さまが幸せそうで何よりだ」
「一時期はどうなることやらと内心心配していましたが、その心配ももう必要がないほどに回復されたようですね。これもルフレイ陛下だからこそ為せる技なのですかね……」
「何でも良いではないか。それよりも気になるのはこの後ろにいる、双頭の鷲だ。軍務卿、率直に言うが朕もあの鷲がほしいぞ」
軍務卿は、ルイがいきなり何を言い出したのかとびっくりした。
だがルイはまだ子どもだ、軍務卿は自分の孫を見ているようで少しほっこりとした。
彼はそんな幼き王の夢を叶えてあげようと決心した。
「分かりました。双頭の鷲に関しては私がどうにかしましょう。ですが、あれ以外に双頭の鷲が存在するかどうかは分かりませんので、どうかその点は我慢してください」
「むむ……まあ仕方があるまい。もしも捕まえられたらだな……ルフレイ義兄さまたちと仮に出かけるのも良いかもしれないな」
「なるほど、それは良いですね……で、本題なのですがよろしいでしょうか?」
「そうだったな、すまない。で、卿は朕に何のようなのだ?」
軍務卿は、思い出したように持っていた分厚い書類……『フリーデンに関する懸念』と題された書類をルイに渡した。
その書類をルイは全部読むのではなく、適度に飛ばしながら読んで確認していった。
だが、そんな彼の手は、あるページでピタッと止まった。
「……軍務卿、これはどういうことだ?」
「これと言われましても……どれのことでしょうか?」
「ハインリヒ聖王国に教皇がいなかったという報告だ。誰経由の情報で、なぜいなかったのだ」
「その情報は、たまたまハインリヒ聖王国に用事があった我が国の高位聖職者からもたらされました。聖王国の聖職者たちに聞いたところ、彼は部下を引き連れてフリーデン連立王朝に赴いていたとのことです」
その言葉を聞き、ルイは今日一番に驚いた顔をした。
彼はその先のページを読み進めていくが、その先には聖王国の財政に関する記述があった。
どうやら、一時期貧乏だった聖王国も少しは建て直されたようであった。
「フリーデン連立王朝とハインリヒ聖王国がつるんでいるのはかなりマズいのでは? 連立王朝は神聖同盟非締結国だし、聖王国の締め出しに参加する必要もないから何も言えないが……」
「それに財政が回復したということは、寄付に頼っていた聖王国にフリーデン連立王朝からかなりの額の金が流れたということでしょう。この短期間でそれほどのお金を回収するシステム、なんとも恐ろしいです」
「……とりあえず義兄さまにこの情報を共有しよう。その他の国の君主にも情報を共有してくれ。対策を講じる必要がある……かもしれない。連立王朝が聖王国に金を流すのには、それによって連立王朝に何かしらのメリットがあるからだ。そしておそらく教皇が直で訪問したとしたら、神聖同盟の情報は知っている可能性がある」
「そこであえて金を流したのだとしたら……連立王朝は我々神聖同盟と剣を交えるつもりなのでしょうか。正直に言ってイレーネ帝国によって瞬殺される運命が見えますが……そうならないという自負でもあるのでしょう。その自信がどこから湧いてくるのかは全く謎ですが……」
その後、軍務卿は急を要すると判断したため、翼竜にくくりつけてイレーネ帝国に書類の写しを送付した。
無事に書類はたどり着いたのであるが、急に町中に現れた翼竜に人々は驚くこととなった。
そしてその書類は、俺の手元に届くこととなる。
◇
「司令。ルクスタント王国のルイ陛下より、緊急で書類が送られてきました」
「緊急で送るような書類? 一体何が書かれているというのだ?」
「分かりません。『皇帝陛下以外ノ開封ヲ禁ズ』と書かれてますので、司令が開封してください」
「そうか、では……」
俺は封を開封し、中に入っていた書類を取り出す。
その表紙には、『フリーデンに関する懸念』と書かれているのが目に飛びこんできた。
確かにフリーデンに懸念点はあるが……ルクスタントもなにか感づいたのであろうか?
俺は書類をひらくが、その中の1ページに紐が挟まれていたのでそこを開いた。
するとそこには、教皇が一時聖王国を不在にして連立王朝に行っていたという記述があった。
その下にはルイの直筆による考察が書き込まれていた。
「……なるほどな。グデーリアン、君も読んでみたまえ」
「分かりました。……そういうことですか、たしかにこれは急を要することかもしれませんね」
「だろう? 全く、聖王国は神聖同盟からの支援がなくなったからと言って連立王朝にすり寄ったのか」
「ですが聖王国はあくまでもイズン教の頂点の教皇が治める国。その宗教的権威を利用したかったのでしょう」
ともかく、これは我が国が握っている情報もすべて共有すべきかもしれないな。
特にフリーデン連立王朝と国境を接している国は、その対策が急務となってくる。
そのためには、一歩でも早く動かなければならない。
「神聖同盟締結国で会議を開くぞ。何としても先手を打たなければならない」
「了解しました。ではすぐに招待状を送付いたします」
「いや、俺が魔導通信珠で連絡を取るから、その間に輸送機でそれぞれの国に移動、イレーネ島に連れてきてくれ」
「ではそのようにいたします」
その後、1日と経たないうちに各国の元首たちは招集に応じて集まってくれた。
そして会議は、帝国宮殿の鏡の間で開かれることとなった。
その屋根の上では、双頭の鷲が大陸の方角をじっと見据えていた。
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