第327話 5人の王
「ふむ……ここがフリーデン連立王朝か……」
ジョヴァンニは、お供の聖職者や教会軍幹部を引き連れてフリーデン連立王朝に乗り込む。
エルフの国ということもあって昔から入国は厳しかったが、今はさらに厳しくなっており、人の出入りはほとんどない。
神官という高位にいたジョヴァンニも、今まで踏み入れたことはなかった。
フリーデン連立王朝は高緯度に位置するため、ジョヴァンニを乗せた馬車が行く街道の脇には雪が積もっていた。
森もすっかり雪化粧をしており、あたり一面には白銀の世界が広がっている。
その美しい光景を眺めながら移動すること数日、彼らはようやくフリーデン連立王朝の東の王国であるオストフリート王国の首都、シュリーフェンに到着した。
王都と言うだけあってかなり発展してはいるが、他の国のものに比べては見劣りするという印象をジョヴァンニは受けた。
町の中には、普段はめったに見かけることのないエルフが多数おり、彼は何だか自分が別世界に来たかのように感じた。
逆にエルフたちも、獣人の彼らを不思議な目で見つめる。
「ようこそいらっしゃいましたジョヴァンニ様。長旅でお疲れでしょう、お宿を用意しておりますのでぜひ疲れを癒やしてください」
「感謝する。それと、私のことはジョヴァンニ1世猊下、と呼ぶように」
「はっ、これは大変ご無礼を。お許しくださいませ、ジョヴァンニ1世猊下」
「構わん。ではその宿に案内してもらおうか」
ジョヴァンニはやってきたエルフの案内を受け、こぢんまりとした宿に通された。
だがエルフの木造建築、木工技術は長けたものがあり、非常に快適な空間がそこには広がっていた。
特に木々の肌が滑らかに研がれており、触るもの全てを魅了した。
「いかがでしょうか。小さい建物ですが内装は一級のものであると自負していますが……」
「うむ、確かに一級の調度品だ。人が作った木工家具のうち、これに並ぶものは存在しないだろう」
「お褒めいただき光栄です。では、これからのご予定を説明させていただきます。まずいきなりの変更で申し訳ございませんが、現在、五王国の国王たちによる緊急の会議がミットフリート王国にて開かれておりまして、当方の国王は王国を離れております。よって会談のために次はミットフリート王国まで移動して頂く必要がございます」
「そうか……まあ仕方があるまい。それに全員が集まっているのであればこちらにしてみても好都合。それ以上移動せずに会談ができるからな」
ジョヴァンニは特に文句を言うこともなく、その申し出を受け入れた。
本来であれば、事前に交わしていた約束を反故にされたことに、教皇として怒るべきであるが、現状ジョヴァンニ側が文句を言えるような立場ではないためそのまま受け流す。
その反応を見たエルフは、一瞬口角を上げた。
「では、そのように各王たちに伝えておきます。では今晩はゆっくりとお休みになってください」
「ああ。ではまた明日」
ジョヴァンニは手元のランプを消し、眠りについた。
一方その頃、ミットフリート王国に向けて早馬が出発していた。
そんな事も知らず、ジョヴァンニはぐっすりと眠りについた。
◇
翌朝、目覚めたジョヴァンニは早速馬車に乗ってミットフリート王国の王都、ヴィンターホーフを目指して移動を始めた。
またここからも長い旅になるので、彼らはいくつかの村や町を転々としながら移動を続ける。
道中は特に何も起こらず、そのまま無事にたどり着くかと思われた。
「にしても、シュリーフェンを出発してからは、いくつか村や町がある以外には特に何もありませんね」
「うむ。これだけ寒冷かつ広大な土地なんだ、人が住める場所というのも限られているんだろう」
「これだけ寒いところでよく生活できますよ……ん? なにか聞こえませんか?」
「言われてみれば確かに……一旦馬車を止めて周囲を確認してきてくれ」
お供の教会軍幹部は、イーデ獣王国からパクってきたマスケット銃を持って外に出た。
彼は馬車の上に登ってあたりを見回すが、一面に雪をかぶった針葉樹の森が広がっているだけで何も見えなかった。
ジョヴァンニも馬車の窓から顔を出し、上にいる幹部に声を掛ける。
「どうだ、なにか見えるか?」
「いえ、特に何も見えません。ですが音は今も聞こえているので何かはいるかと」
「上はどうだ、お前のスキル【遠視】ならなにか見えるんじゃないか?」
「それもそうですね。では……スキル発動、【遠視】!」
幹部は固有スキルを発動し、遠くの空を見上げる。
だが遠くを拡大して見ている分視野も狭くなっているため、スキルを使用しても見つからない。
そんな彼が諦めてスキルを解除しようとしていると、彼の視界に動く何かが写った。
「あっ、見つけた! 見つけました!」
「そうか! で、何がいたんだ?」
「黒いドラゴン? ……いや、あれは飛行機です! きっとイレーネ帝国のものでしょう!」
「なんだって!? そうか、イレーネ帝国の飛行機の音か。確かに言われてみれば似ている気がしなくもない。……奴らもこのフリーデン連立王朝を狙っているというのか?」
ジョヴァンニも窓から空を睨むが、幹部の言う黒い飛行機は見つけることが出来なかった。
その代わり、地面から天に向かって伸びていく数条の煙を見つけた。
それは空を飛ぶU-2を迎撃するためのものであったが、聖職者である彼には、そのことを理解することは出来なかった。
結局音の正体を理解した彼らは、また移動を開始した。
その後は特に異変が起こることもなく、彼らは着実にヴィンターホーフへと近づいていった。
◇
「……また迎撃に失敗したようだ。我々に危害を加えるつもりはないようだが、落とせないというのはやはり何だが苛立たしいな」
「せっかく大枚をはたいて『奴ら』から購入したというのに……全く使い物にならんなあ」
「やはり、イレーネ帝国の機体を、神の使徒の機体を落とそうとするのは罰当たりなのではないだろうか……。それに返答はやはり返すべきかと」
「お前はいつも甘いな。ミトフェーラと接しているから宥和政策を取りたいのかもしれんが、我々はあの国を超えるかもしれない力を手に入れたんだ。今更仲良くする必要もない」
「……エルフが暮らしやすい世界に作り変える……。武器を持つということは我々の祖先が愛した平和、自然に反することであるが、それも今だけの問題。戦いのあとには真の平和が訪れるであろう……」
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