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第321話 宣言と神聖同盟

 ルクスタント王国元首の名によって招集された、国際連盟の緊急会合。

会合は、イレーネ帝国の国連本部で開催されることとなった。

コンクラーベが数日後に迫っているため、会合は急ピッチで開始された。


「まずは急遽の招集であったにも関わらず集まってくれた各国の君主よ、感謝する」


「なに、ルイ殿。この前のテロ行為の件での会合ともなれば、集まる他ないでしょう。あの件に関しては我々で団結する必要があると思っていましたので」


「そう言ってくださるとありがたい。では、まずは軽く先のテロ行為とその対応について改めて情報を共有しようか」


 彼らは自身の国で起こったこと、その対処法を共有する。

俺も何があったのか尋ねられたが、残念ながらイレーネ帝国では奴らは暴れていないため、特に話すことはない。

そして話し合いの結果、やはりどの国でも大聖堂が襲われているという報告が上がった。


「ふむ、普通、大聖堂を襲うのであれば、襲った犯人は反宗教団体と考えるのが妥当であろう。だが今回のケースは少し違ってくる。何よりも数日後にコンクラーベが行われるというこのイズン教の絶妙な分裂期に起こったことだ、教会内の対立、抗争であるという可能性があるだろう」


「俺もそう考えている。もしもそうなのであれば、今回獣人が我らイレーネ軍の格好をしていたのも、対立候補であるミラを貶めたい親ジョヴァンニ派閥の犯行であると考えれば納得できる。皆もそう考えているのでは?」


「じゃがルフレイよ、それであれば本拠地であるイレーネやミトフェーラの大聖堂を襲撃するのが筋じゃないのかのう? わざわざリスクを犯してまでして他国を攻撃する必要はないと思うんじゃが……」


「それに関しては、コンクラーベの性質が関係しているだろう。コンクラーベの投票は知っての通り、各国の神官たちの手によってのみ行われる。だから教皇に選ばれたいのであれば各国の神官を味方につけて自分に投票して貰う必要がある」


 そこまで言うと、ベアトリーチェは納得したように手をポンと打った。

他の君主たちも首を縦に振っているところを見ると、どうやら俺と同じ結論にたどり着いたらしい。

ならば話は早いであろう。


「イレーネ帝国の神官はミラだ。ミラに投票権はないため味方に付ける必要はない。そしてミトフェーラは、イレーネ帝国と合体したことにより同君連合となり、神官を置くことができなくなった。つまり……」


「襲う意味がないんじゃな」


「そうだ。そして奴らは他国をイレーネ帝国の旗を掲げて攻撃し、各国の神官たちにイレーネ軍への憎悪のようなものを植え付けた。これによって彼らは俺、ひいてはミラを忌避するようになり、票はジョヴァンニへと集まることになるだろう」


「……なかなか姑息な手を使うよのう。男ならばもっと大胆にいけばよかろうに……」


 そこら辺は神官であるという以上、大胆に動くわけにもいかないのであろう。

だから味方を増やして動かし、自分は手を汚さないようにしている。

ベアトリーチェの言う通り、姑息でしかも薄汚い野郎だ。


「そこでだ。今回の件によりジョヴァンニが教皇に選出された場合、きっと奴は我々国家に干渉してくることだろう。おそらく破門をちらつかせば大人しく従うと思っているはずだ。だが、そんな状況は未然に防がねばならない」


「同感だ。我が国は特に激しい戦闘が行われ、教会への国民の不信感が増している。そしてもしもお義父さんがコンクラーベで教皇に選出された暁には、各国の統治機構は崩壊するだろう。そうならないためにも我々で団結する必要がある」


「その通り。よって国際連盟加盟国によってここに、『ヴィッテンベルク宣言』を発表することを求める」


「ヴィッテンベルク宣言? 一体何だそれは?」


 俺がそう聞くと、ルイは持ってきていた書類を配らせる。

俺もその書類を受け取り、中身を上から読んでいく。

内容は……簡単に言えば国政における政教分離を行うという宣言であった。


 その他にも、教皇と元首の立場に関する言及もあった。

元首が教皇よりも下の立場であった場合、権威的に教会に負けてしまう可能性がある。

そのため、教皇と元首の立場を同列とするということを明確に定めようとしたのであった。


 こんな要求、平時ならば絶対に教会側に拒絶されるであろう。

だが今ヨーゼフ13世の死という混乱期にあるため、無理矢理にでも通すことができるであろう。

この機会を逃すまいと、ルイも必死なのであろうな。


「……まあ確かに、国政において宗教ほど邪魔なものは存在しない。それを排除したい気持ちはよく分かる。だがそれで民衆は付いてくるのであろうか?」


「そこが問題ですよルフレイ義兄さん。厄介なことに宗教というものは民の生活の一部に根付いています。そのため宗教を国政から締め出すことに反対する民衆は大勢いるでしょう」


「そうだ。そうなれば国政どころではないぞ」


「分かっています。ですが我々には教会よりも教皇よりも強力な権威を持っています。それが貴方ですよ、神の使徒にしてイレーネ=ミトフェーラ二重帝国皇帝のルフレイ義兄さん」


 ……なるほど、ルイの狙いは俺であったか。

たしかに俺は公会議において、僅差ながらも教皇より権威は上であると認められた。

公会議の決定は絶対であり、ジョヴァンニといえどこの事実をひっくり返すことは出来ないであろう。


 何だかルイの良いように使われている気がするが……ここは提案を飲んだほうが良いだろう。

元首のルイよりも、無駄に宗教的権威を持ったジョヴァンニや教会のほうが恐ろしい。

それを抑えるためであれば、俺の名前を使うぐらいは良いだろう。


「……分かった。俺の名前を使うことは許そう。だが俺の許可の範囲外で名前を使うことは許さないぞ?」


「分かっていますルフレイ義兄さん。では、イレーネ=ミトフェーラ二重帝国を盟主とする『神聖同盟』をヴィッテンベルク宣言に基づき設立することをここに宣言する!」


 こうして、ヴィッテンベルク宣言は参加国家によって可決された。

これにより、我が国を盟主とする神聖同盟が成立し、俺は同盟の象徴的存在となった。

この報は、身を隠しているジョヴァンニの耳にも入ることとなった。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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