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第319話 行方不明の神官

 武装SSが地下へと踏み入れようとしている頃。

イーデ獣王国国王のアウグストスは、部下を引き連れて馬で大聖堂へとやってきた。

彼は周りを包囲していた姫竜騎兵たちを見かけると、彼女らの方へと駆け寄っていく。


「馬を降りよ! この方こそイーデ獣王国国王、イーデ=アウグストス様なるぞ!」


「なんと! これは大変失礼を……」


「構わない。ところで、派遣軍はこれだけか?」


「いえ。ロンメル元帥閣下率いる武装SSの部隊が、大聖堂の地下を制圧しに向かっています」


 その言葉を聞いて、アウグストスは驚いた顔をする。

隷下の兵に交戦を中止するよう伝えさせたはずだが……と彼は言う。

だが姫竜騎兵は、大聖堂から敵が出てきたため反撃しただけだ、と反論した。


「むむ、確かに攻撃を加えられたのであれば……仕方がないか……」


「はい。私たちもそのように考えています」


「仕方がない、ではとりあえずは大聖堂を視察しに行こうか……」


 アウグストスは部下を引き連れ、大聖堂の中に入っていく。

だが、彼の眼の前に広がっている光景はあまりにもひどいものであった。

教会軍の獣人は軒並み惨殺され、あちこちに肉片が飛び散っている。


「これは……これが大聖堂の中で行われることだというのか……」


「彼らは卑劣にも我が国の国旗を掲げて各地でテロ行為を行いました。この仕打ちは妥当であると」


「……君たちは獣人が嫌いなのかね? 見たところ全員魔族の女性のようだが。……もしや、先の戦争で家族でも失ったのかね?」


「……どうでしょうか」


 姫竜騎兵たちは、特に何も言うことなく手に四四式騎銃を構えている。

彼女らのうちの1人が、少し動いた、まだ生きている教会軍に向けて発砲した。

撃たれた教会軍の兵は、力尽きて倒れる。


「陛下、お怪我はございませんか?」


「あぁ……助かった、とお礼を言ったほうが良いのだろうか」


 アウグストスは、反乱軍ながらも自国民である獣人が、眼の前で死んでいくことに複雑な感情を抱く。

そのまま彼らは放置されている戦車などの間を抜けて大聖堂の奥へと歩き、奥にいる武装SSと合流した。

彼らはアウグストスに敬礼し、彼を大聖堂の地下施設へと案内する。


「大聖堂の地下にこんなものが……一体いつの間に?」


「あ、アウグストス陛下。お初お目にかかります」


「君は?」


「イレーネ=ミトフェーラ二重帝国、ミトフェーラ派遣部隊総司令官のエルヴィン=ロンメル、階級は陸軍元帥です。以後お見知りおきを」


 ロンメル元帥は跪いてアウグストスに敬意を示す。

アウグストスは彼の手を取り立ち上がらせた。

彼はロンメル元帥の軍服にたくさん付いている勲章を見て言った。


「その量の勲章……随分と活躍されたようですな」


「えぇ。私の自慢です。特にこの『プール=ル=メリット勲章』は……手に入れるまでにひと悶着ありましたが、今となってはいい思い出です」


「そうなのか。でもあの虐殺は少しいただけないぞ。どれだけイレーネの旗を掲げていようと、イレーネ軍を騙ろうと、あれは私の国の民、私の子どもなのだ……」


「……その気持ちは分かります。ですが我が国としても、国名を汚された以上それをただで放っておくわけにはいかないのです。どうかご理解ください」


 アウグストス自体も、反乱軍たる教会軍がイレーネの旗を掲げていることには良い気はしていなかった。

旗は国家を象徴するものであり、それを悪用するということはその旗の国家に何をされようと文句は言えないのである。

なので彼も、心は痛めつつ容認するしか無かった。


 一通り話し終えた彼らは、地下空間の先にある通路へと足を進める。

真っ暗であるため先導する兵士が懐中電灯で先を照らしながら進んでいった。

その通路を進んでいった先には、地上に出るための梯子があった。


「私が先を見てきます。皆様はここで待機を」


「了解した。頼んだぞ」


「はい。では行ってまいります」


 先導する兵士は梯子を登り、上の建物へと出る。

するとそこには、教会軍のために溜められた武器と装備の残りがあった。

特に敵がいないことも確認すると、先導の兵士はアウグストスたちを小屋の中へと呼んだ。


「これは……国軍の倉庫から消えていた武器類じゃないか!」


「国軍の装備が消えていたのですか? 道理で反乱軍の武器が近代的であったわけですな」


「こんな事ができるのは一体……」


「……そういえば、先程我々がいたのは大聖堂ですが、大聖堂の主たる神官の姿がなかったような……」


 ロンメル元帥の指摘に、アウグストスは狼狽する。

イーデ獣王国の神官ジョヴァンニは彼の義父、何かあったのでは、と思ったのであった。

彼らは急いで大聖堂に帰るが、やはりそこにジョヴァンニはいなかった。


「お義父さん? 一体どこに行ってしまったのだろうか……」


「我が部隊も動員して捜索にあたらせましょう。陛下はジョヴァンニ神官が行きそうな場所に心当たりはございませんか?」


「お義父さんが行きそうな場所……いや、残念ながら心当たりがないな」


「そうですか。ではとりあえず探させますので、できれば国民に対して反乱軍鎮圧の宣言を出してくださるとありがたいです」


 ここでのロンメル元帥の発言には2つの意図があった。

1つ目は、やってきた教会軍が反乱軍であるとして、民衆に今回の戦闘を正当化させること。

もう1つは、ジョヴァンニが率いていると推察されている今回の軍を正式に『反乱』軍と定義させるということであった。


「……分かった。それはこっちでやっておこう。だから、お義父さんの捜索をよろしく頼む」


「承知しました。では成果が上がり次第報告いたします。あ、あと」


「なんだ、まだなにかあるのか?」


「はい。捜索の効率化のためにジョヴァンニ神官発見までの間、領内でイレーネ軍を捜索、自己防衛目的に限り自由に動かすことを許可していただきたいのです」


 このロンメル元帥の申し出を、アウグストスは了承した。

これにより、ロンメル元帥はヘリなどを使った大規模な捜索を行えるようになった。

早速、イレーネ軍はジョヴァンニの捜索へと乗り出す。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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