第315話 偽旗作戦
武装SSの制服を受け取った教会軍幹部たちは、それを各々の指揮下の兵士たちに分配していく。
彼らは自身の着ている軍服を脱ぎ捨て、受け取った武装SSの軍服を身に着けた。
最後に彼らは、かき集められた旧ミトフェーラ魔王国から接収したマスケット銃を手に取る。
「では、作戦内容を伝達する。今回の作戦内容は、イレーネ軍に扮した我々で各地の教会を襲撃するということだ。これによってイレーネ帝国があたかも武力によって結果を捻じ曲げようとしていると、各国の神官たちに誤認させることが目的である。そのためにまずは思いっきり暴れろ。必要であれば発砲も許可する」
「「「「了解!」」」」
「では移動を開始するように。あと、道中でマスケット銃の使い方を確認しておくこと。分かったな」
「「「「了解!」」」」
夜の闇に紛れて教会軍の兵士は馬車に乗り、貨物輸送に偽装した馬車は王都を出発する。
一方、イーデ獣王国に残る部隊は、偽旗作戦には参加しない普通の部隊と打ち合わせを行う。
武装SSに扮した部隊を、正規の教会軍が打ち破ったように演出することで、ジョヴァンニが教会の守護者であるように見せるためであった。
そこから数日がたち、秘密裏に各国に侵入した部隊は行動を開始した。
各国の中心部に配置された馬車から部隊が展開し、マスケット銃を持った部隊は町を占領していく。
彼らの手には、イレーネ帝国の国旗が掲げられていた。
〜ルクスタント王国 王都イーリオス〜
「なぜだ! なぜイレーネ帝国の軍隊がこんなところに!」
「イレーネにはグレース陛下が嫁いで有効な関係を築いているはずだ! なのに何故こんなことに!」
「とりあえず逃げるんだ! 何が何でも生き残るんだぞ!」
王都の住民は、教会軍の部隊をイレーネ軍であると信じて疑わなかった。
彼らは獣人なので、見ればそれがイレーネ軍であるかどうかはすぐに分かるのだが……
ともかく邪魔者を排除した教会軍は、一直線に大聖堂を目指した。
〜ゼーブリック王国 王都〜
ゼーブリック王国でもルクスタント王国と同様に教会軍の部隊が展開した。
部隊は同じくゼーブリックの大聖堂を目指すのだが……そこで一つ問題がおきた。
彼らの進んだ先に、少数のゼーブリック兵がいたのであった。
「何だあれは……イレーネ軍? いや、それにしては明らかに獣人の顔立ちだな……ってうおっ!」
「おい、あいつら躊躇なく撃ってきたぞ!」
「すぐに司令部に連絡するんだ! それとここは一時退却を!」
「了解! だが……これだけはくれてやるっ!」
ゼーブリック兵は、退却する前に1発の発煙弾と、複数の手榴弾を投げた。
発煙弾が煙を発生させて教会軍の視界を奪っている間に、手榴弾が炸裂する。
教会軍はそれにより一時混乱したものの、同じく大聖堂を占領しに向かった。
その他の国家でも同様に教会軍の侵入が行われた。
特にイーデ獣王国に展開した部隊は大聖堂でジョヴァンニを捕らえる演技をして、そこを教会軍の正規部隊が到着、ジョヴァンニを開放した。
それによりジョヴァンニは教会軍を『教会の守り手』として称賛、そのことは国内に知れ渡っていった。
◇
「司令、大変です!」
「なんだグデーリアン、いつも大変なことばかり起きている気がするんだが……」
「今回のはその比じゃないです! 各国から、自国内で武装SSが暴動を起こしているとの抗議の声が上がっています!」
「……は? それは一体どういうことだ……?」
俺はグデーリアンから受けた報告に動揺を隠せなかった。
なぜ武装SSが各地を襲っているなどという事になっているのだ?
俺はとりあえず手元の電話で、ミトフェーラにいるロンメル元帥に確認をとる。
『司令、何が御用でしょうか?』
「あぁ。一応確認を取るが、今武装SSはどこで何をしている?」
『武装SSですか? 今はミトフェーラの奥地でミトフェーラの魔族の戦闘指導にあたっていますよ』
「だよな。決して他国を侵攻したりはしていないな?」
俺は再三にわたって確認を取るが、やはり武装SSはミトフェーラにいるようだ。
となれば、今他国で暴れまわっているという武装SSは、誰かが偽装したものということになる。
そんな事をするのは誰か……いや、そう言えば怪しい奴がひとりいるな……
「グデーリアン、その各国で暴れているという噂の武装SSに、何か特徴はないか? 例えば獣人だとか……」
「今確認します……はい、司令の言う通り獣人のようです。なぜ分かったので?」
「これは欺瞞行動、いわゆる偽旗作戦だ。おそらく次の教皇選挙で、ジョヴァンニが俺の支援するミラを蹴落とすために仕組んだんだろう。今行動しているのもおそらくイーデ獣王国で見た自警団が仮装したものだろう」
「なるほど、そう考えれば合点がいきますね。ですが、中々面倒なことをしてくれましたね……」
グデーリアンも俺も、原因はなんとなく理解したがどう対処するべきなのかわからず困り果てる。
すると、まだ通話がつながった状態であったロンメルが俺にこう提案してきた。
『司令、ではいっそのこと本物の武装SSを派遣してみては?』
「それはまずいだろう。偽物が暴れまわってただでさえイレーネ軍の評判はだだ下がりだ。今本物が踏み入れたらそれこそどうなるか……」
『逆です。本物の実力を、偽物の討伐という名目で誇示することで、各国の国民に自分たち騙されていると自覚させるのです。そうすれば逆に反乱を起こそうとしたジョヴァンニのほうが不利になるでしょう』
「確かに、そうすればイレーネ帝国の名誉も回復できる……か」
俺はロンメル元帥の案を採用、各国に偽武装SS鎮圧のための兵を送ることを打電した。
今暴れている武装SSが獣人であることに疑問を感じていた各国の王たちは、出兵に賛成した。
また自国の軍隊を出動させて鎮圧に参加させることとした。
出撃の要請を受けたイレーネ軍の各軍は、各々の軍旗を掲げて反乱の鎮圧へと向かう。
ミトフェーラの奥地で訓練を行っていた武装SSもまた、反乱鎮圧のために行動を開始する。
これにより、ヨーゼフ13世の死後一週間と経たず、彼の遺言は破られることとなった。
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