第281話 ギルド吸収
結婚式が終わり、新婦側の参列者は自らの国に戻っていった。
テイラーとクラウディアは豪華客船橿原丸に乗ってハネムーンへと出発した。
行き先はルクスタントの小さな農村とのことだ。
一方、俺は俺でルクスタントへと出向いていた。
ギルド連合軍に関する会議で招集され、今はルクスタントのギルドに向かっているところだ。
カールの用意してくれた馬車に乗ってギルドに到着すると、俺は馬車を降りて建物に入る。
今日はこの会議のためにギルドは休業しており、代わりに別の建物で仮営業をしていた。
俺は建物内にある会議室へと案内され、用意されていた椅子に着席した。
しばらく待っていると他の参加者やギルドマスターらが集まり、会議が始まった。
「……では、この前まで行われていたギルド連合軍に関する会議を始めます」
「まず最初に、最近巷で騒がれているギルド連合軍に対する否定的な意見についてですが、ルクスタントギルドマスターのシュタインさん。よろしくお願いします」
「うむ。最近ルクスタントの王都では『ギルド連合軍は有象無象の集まりで無意味』『国家元首が率いている部隊以外は被害が甚大であり、統率も取れていなかった』『そもそも討伐軍は国家の軍隊に任すべき』などの意見が見受けられます。ギルドの責任を問う声も大きく、我々は現状辞任を迫られています」
「それに実質活躍したのは二重帝国、三冠王国の非・ギルド連合軍部隊であり、冒険者たちは大して大きな戦果はあげていないとの見方が主流です。一部ではそれらの部隊を救世主として信奉する動きもあるようです」
俺も用意された資料に書かれている同様の内容を読む。
俺もギルド連合軍の制度には疑問を持っていたが、やはり同じような意見が出た。
今回のギルド連合軍は正直に言って、失敗であった。
市民たちの、ギルドを責める声も理解できる。
だが一方で、やはり今回のような有事に国境関係なく人を動員できるという体制自体は魅力的である。
なので一部を変えての再運用が望ましいであろう。
「我が二重帝国はギルド連合軍の理念自体は残すべきであると考えるが、中身はやはり変更したほうが良いだろう。特にギルドが軍の指揮権を持っている点は問題だ。冒険者はひとりひとりの戦闘能力は高いかもしれないが、その統率力においては著しく欠如している。やはり軍の指揮は本職に任せるべきだ」
「それと我三冠王国からは、ギルド連合軍の招集方法についての改善を提案する。現在の方法では招集が決まると同時に無作為に抽出されるため彼らは事前に何の用意を行うことも出来ない。それにもう冒険者を引退して久しい者も引っ張り出されるのは問題だろう。ここは常備軍のようにあらかじめ誰が招集されるのかを決めておくべきだ」
「ルフレイ陛下、カール陛下。お二人の言いたいことはよく理解しております。ですがギルド連合軍などの招集に関することはかつての勅令にてギルドに与えられたものです。それをおいそれと変えるわけにはいきません」
「その勅令が古臭いものだからこそ変える必要があるんだ。もはや時代は変わっている」
俺とカールはギルドの改革を要求するが、シュタインはそれを拒否した。
彼はかつての王国の王との間でかわされていたギルドの約束と、その勅令を盾に反論している。
だがその勅令自体100年以上も前に出されたものであり、もはや時代には追いついていなかった。
「シュタイン。俺はギルド連合軍組織の権限を各国家に移譲することと、常備軍制の設立を含めたギルド制度の改革を要求する。これが出来ねば我が国からのギルドへの支援は打ち切るものと思え」
「私も賛成だ。そもそもギルドへの出費は年々増すばかり。収益がどこに消えているのかは知らないが、国家予算見直しの上でギルドへの出資停止の話が出ていることは頭の片隅においておいた方が良いであろう」
「我がイーデ獣王国としてはギルド制度を存続させるために各国の合弁されているギルドを解体、各国の省庁として吸収すれば良いと思うが、それではどうだ?」
「それでは、その、ギルドの主権が……」
3カ国の君主から追い詰められているシュタインらギルドマスターたちはオロオロする。
俺たち3人は事前に、ギルドに対しては高圧的に接する方針で事前に打ち合わせをしていた。
こうでもしないと凝り固まったギルドを変えることは出来ないとアウグストスが忠告したゆえであった。
「ギルドの主権……国民の生活に必需の組織でもあるにかかわらずその内部に国家は介入することが出来ず、またその内情は闇に包まれている。それほど主権を守らなければならないほど隠したいことがあるのか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「では吸収合併を認め給え。もし認めるのであれば巷で騒がれているギルドマスターの退任は破棄し、吸収後も各ギルドの長官でもいられるようには計らおう」
「ほ、本当ですか。それでは私たちの地位はこのまま維持……」
彼らは、自身の地位が維持されると聞くと急に態度を変え始めた。
これもアウグストスからの提案であり、厳しい条件を突きつけたうえでちょっと飴を与えるとすぐに懐柔することができるというものであり、ここでの飴とはすなわち彼らの地位であった。
だが地位にすがる元冒険者などに、冒険者を率いる資格はない。
彼らに与えるのは名だけの職業であると、俺たちは決めていた。
結局各ギルドマスターは条件を受諾、ギルドは国家の支配下に置かれた。
その後に行った調査でギルドからは隠し金が発見され、各国に差し押さえられた。
二重帝国ではギルドは内務省の傘下に置かれ、彼らギルドマスターにはギルド統括官という名だけの職があてられた。
もっともイレーネのギルドにはギルドマスターはまだ存在しなかったが。
またイレーネ島は例外であったが、他の国家はギルドの掌握により正確な国民の戸籍情報を手に入れた。
正確な戸籍情報を手に入れたことにより適正な課税が可能となり、やがて各国の財政は潤うことになっていくのであった。
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