第275話 警戒任務
俺たちがまだガイアⅢに向かっている頃。
大陸に上陸したイレーネ陸軍は、各自の持ち場に向けて移動を開始した。
少し配置が変更され、イレーネ=ドイツ軍団はミトフェーラ方面に、イレーネ=ソビエト軍団はイーデ獣王国方面に、イレーネ=アメリカ軍団のみはルクスタント方面に移動している。
「なぁ、本当に俺たちは司令の援護にいかなくてもいいのか?」
「そういうお達しだ。グデーリアン将軍が言っているんだから間違いないだろう」
「そうは言っても俺は不安だよ。司令が死んだりしたらたまったもんじゃないからな」
ミトフェーラに向けて車列を組んで街道を走る、 第1ドイツ重戦車師団「ケーニヒスグレッツ」のレオバルト2。
その搭乗員たちは予定されていた奥地への侵攻作戦ではなく、都市防衛の任にあてられることに不満を持っていた。
そんな会話を、グデーリアン上級大将は車内からじっと聞いていた。
彼自身は奥地への進撃を考えていたが、現状防衛部隊を引き抜いて裸同然であるミトフェーラの守備をロンメル元帥に依頼された事により、仕方がなくこのような決断を下していた。
イーデ獣王国の検問を抜けた戦車部隊は、舗装されたミトフェーラの道路を高速で走行する。
高速で走行しているため履帯が舗装面を傷つけるが、仕方がないと許容された。
それよりもどこにでもつながっているという高速での移動のメリットのほうが大きかった。
「では我々はこっちに! また本土で会おう!」
「おう、死ぬんじゃないぞ! あと誰も死なせるなよ!」
「言われなくとも! では!」
ジャンクションで別の高速に乗り換える部隊を見送り、グデーリアン上級大将はさらに突き進む。
先ほど別れた彼らはフランハイムの都市防衛に向かう部隊であり、残りの部隊はミトフェーラの国境線で迫りくる魔物の残党を討伐する部隊であった。
彼らは彼らで持ち場が違うため、2両1組でペアを組んでそれぞれの守るべき村へと移動する。
そのためグデーリアン上級大将が自分の持ち場に向かうころには、自身の周りには3両の戦車しかいなかった。
そんな彼らとも分かれる時が来て、グデーリアン上級大将を載せたレオバルト2は高速の出口へと車線を変更した。
「上級大将! どうかご無事で!」
「お前らこそな! 気をつけるんだぞ!」
高速を降りたグデーリアンたちの部隊は、まだ舗装されていない土の道の上を疾走する。
後続の戦車とともに周囲を警戒しながら進む彼らであったが、敵と遭遇することはなかった。
かろうじて群れからはぐれているオークを見つけて車載機銃で撃破したのみにとどまっていた。
「あんまりいませんね、敵。もっといるかと思っていましたが」
「いないに越したことはない。撃破するものがないのであればそれで良いのだ」
「それもそうですが……あっ、目標の村が見えてきましたよ」
森の中を抜けると、開けた場所にある村が見えてきた。
普通に炊事の煙が上がっているところを見るに、村民は無事であるようだ。
そのことにまずは安堵した彼らであったが、村にたどり着くまでには問題があった。
「立案の段階でわかっていたことではありますが、やっぱり川がありますね」
「このレオバルト2の総重量は60t近い。川に唯一かかっているあの橋を無事に渡れるか……?」
「一応石製の堅牢な橋だと分かっていますが……怪しい気がしますね」
「とりあえずお前たちはここで警戒を続けておいてくれ。私が橋の強度確認に行こう」
グデーリアン上級大将はレオバルト2を降り、1人で確認に向かった。
彼は石橋の上をぐるぐると歩き回り、時折叩いたりしながら強度を確かめる。
そんな事をしている彼のことを、村の娘が不審に思って出てきた。
「あのー……何をしているんですか? というかどなたでしょうか?」
「私はハインツ=グデーリアンと申します。帝国陸軍の上級大将をしており、本日はこの村の防衛の任を負ってやってまいりました。ひとつお尋ねしたいのですが、この橋は強固でしょうか?」
「成る程、イレーネ島の軍人の方ですか。遠いところからご苦労さまです。で、この橋ですが、もう数百年は経っていますが一度も崩れる機会を見せない、素晴らしい強度の橋ですよ」
それを聞いて大丈夫だと判断したグデーリアン上級大将は、レオバルト2の上で警戒を続けている車長に向けて手を振った。
それを確認した車長はレオバルト2を橋の前まで前進させる。
初めて戦車が動くところを見てぎょっとする娘を安全なところに移動させ、レオバルト2は1両ずつ渡河を開始した。
「ゆっくりと慎重にな! 焦るんじゃないぞー」
「分かっています! 大丈夫ですか、はみ出そうにないですか?」
「大丈夫だ、そのまま真っすぐ。後続は待機しろ!」
「了解!」
慎重に渡った1両目に続いて2両目も渡河を成功させ、村のある対岸へとわたった。
グデーリアン上級大将は村の娘の案内のもと村へと移動し、その後ろにレオバルト2が続いた。
レオバルト2の履帯の音にびっくりした村民たちはそれぞれの家の窓から顔を出してレオバルト2が接近してくる様子を見つめる。
村内に入ったレオバルト2は一旦広場で停車し、搭乗員は全員降りてきた。
村民たちも各々の家から出てきて、レオバルト2の搭乗員と握手をする。
グデーリアンたちを案内してきた村の娘が、彼を村民に紹介する。
「この方はグデーリアン上級大将様、イレーネ島の将軍様です」
「ほぉ、イレーネ島の。そんな遠いところからよくぞお越しに。我々に何か用でも?」
「最近のスタンピードを鑑みて防衛線の強化を皇帝陛下より命ぜられましたので馳せ参じました」
「それはご苦労なことで。ささ、まずは茶でも飲まれては?」
そう言って村民はお盆に温かい紅茶の入ったポットを持ってやってきた。
それをカップに注いで兵士たちに渡し、兵士はそれを受け取って飲む。
一息ついたところで、奥から老婆が出てきた。
「ふむ、イレーネの兵士か……この前やってきたものとは服装が全然違うようじゃな」
「あなたは?」
「この村の長じゃよ。適当に村長とでも呼んでおくれ。ところでうちの村の娘じゃったクラウディアがそっちにお世話になっていると思うが、元気にしているかどうか知っておるか?」
「クラウディア……? すみません、ここに我が国の兵士が来ていたというところからよくわからないのですが、説明していただいてもよろしいでしょうか?」
何のことを言っているのかさっぱり分かっていないグデーリアン上級大将に、村長は教えた。
かつてこの近くの森にB-29が墜落したこと、その兵士を一時匿ったこと、軍の強襲を受けてクラウディアが負傷したこと、そのクラウディアが迎えの輸送機で本土に連れて行かれたということを。
「成る程、あの時の……。現状どうしているのか私は知りませんが、すぐに部下に調べさせて報告しましょう。それと件の時はどうもありがとうございました。私から改めてお礼させていただきます」
「いや、構わんよ。困った時はお互い様じゃ」
村長は手を差し出し、グデーリアン上級大将はその手を握った。
その後しばらく雑談を続けたあと、彼らは本題の警戒任務へと移った。
私事ですが、今日でめでたく(?)17歳になりました。
17歳ということは新高3ですので、来年からは受験生のため今まで通り毎日投稿することが難しくなるかもしれません。
決してこの話を打ち切るつもりはございませんが、もしも投稿がなされなかったら「あぁ、勉強しているのかなぁ」と暖かく見守っていただけると幸いです。
――あるてみす




