第268話 コウテイとの接触
あの後も攻撃を続けた結果、バッタの群飛による黒い霧は収まった。
だが被害も甚大であり、バッタの駆逐のために多くの森林が破壊された。
特に最後は敵を一掃するために炎を使ったため、森は黒焦げであった。
まだバッタは少数が生き残っているため掃討が必要であるが、正直全部の殲滅は不可能であった。
トノサマバッタサイズのバッタであるので小さく、全てを見つけることは出来ない。
そのため、ある程度駆逐した後は諦め、一度全体を見渡すために飛び上がった。
「蝗害って止めれるのか……というか止まったのか?」
「止まったのじゃないかしら? 多分」
「かつては神の祟りとも恐れられた蝗害がこうも簡単に……これが神の力……」
「バッタぐらい止められないで神は名乗れないわよ。それよりも西南西方面へと飛来しているバッタはどうなっているのかしらね?」
確かに南東方面のバッタは殲滅できたが、西南西方面のバッタがまだであった。
イズンの見立てでは砂漠で行倒れるとのことだが……どうなのだろうか?
進路を変更している可能性が高いと思うが……
「一旦は本体に合流しましょうか。そこで本島から最新の情報を入手しましょう」
「そうだな。一旦戻るとするか」
俺たちは高度を落とし、本隊へと合流するべく移動する。
◇
その少し前、本隊は少し開けた土地に出たため少し休憩を取っていた。
パンターが周囲に展開して警戒を行っている間、冒険者たちは水分の補給を行う。
そんな中、貴族たちは死にかけの顔で座り込んでいた。
「あぁ、バッタばっかり……あそこは地獄か!」
「何故我々のような貴族があんな目に……というか我々の本職は騎士では!?」
「カール陛下は一体何をお考えなのだろうか。こんなところに我々のような高貴な人間が来るべきではないのでは?」
「それに活躍しているのはイレーネの部隊とヴェルデンブラント、ゼーブリックの部隊だけだ。もう引き返しても良いんじゃないか?」
彼らは真っ青な顔をしながら文句ばかりを垂れ流している。
そんな中、カールと軍務卿だけは真面目に馬上で周囲の警戒に参加していた。
軍務卿はカールに馬を寄せて話しかける。
「陛下、気分が悪いなどはございませんか?」
「いや、なにもないよ。軍務卿こそ大丈夫かい?」
「えぇ。私もご覧の通り元気であります」
「にしてもやはり兵器はすごいね。帝国大学で陸軍科の演習を見ていたときにも思っていたけれども、もう騎士の時代は終わりだね。というか騎士が不要ならば貴族の特権も不要なんじゃないかな?」
カールの突然の発言に軍務卿は驚く。
彼はビックリした顔でカールを見るが、彼はそっけない顔で続けた。
「そもそも思うんだけれど、大土地の所有と特権を認められている貴族だけれど、結局最近の戦争では一切活躍できていないし、正直ただの穀潰しだよね。それならばその土地と人をもろとも国家の管理下において税金を徴収し、その金でイレーネ的な軍隊を作り上げるほうが良いでしょう?」
「陛下……」
「僕は帝国大学でチャーチル先生からこんな概念を習ったんだ。『絶対王政』、国王に権力が集中して貴族は没落した、強力な専制君主制の国家。そんな国を僕は目指すよ。勿論貴族は軍務からは外れてもらうけれど、今度からは政治で活躍してもらおうと思っている」
「……陛下、いやカール様。大人になられましたね。まだ12歳であられるというのに……」
馬上のカールを軍務卿は誇らしげに見る。
カールは軍務卿の方を見て少し笑い、再び警戒に戻る。
そんなカールを誇らしげに思う軍務卿だが、その心境には複雑なものがあった。
(陛下が何を学んできたのかは知りません。が、陛下のやろうとしていることが貴族の反発を招くことは必至。国内が混乱することになりかねませんな……ですがそこを支えることこそがもう老いぼれた老人の私が陛下にできる最後の奉公でしょう)
従来の特権階級に居座る貴族を動かすことは難しいだろうと軍務卿は踏んだ。
彼自身が貴族であることもあり、貴族として得られる恩恵は良く理解している。
だがカールがやろうとしていることの大事さもまた理解していた。
「……軍務卿、敵だよ」
「あれは……!」
彼らの目線の先には、巨大なバッタが複数匹羽ばたいていた。
『コウテイバッタ』――コウテイモグラと同じく復活した過去の『コウテイ』たちであった。
彼らは急いで他の人間にも接近を伝え、戦闘態勢へと移行させた。
「デカいバッタ……あぁあぁ……」
「これは……貴族は役に立たないね」
「そのようですね。ここは兵器に頼るしかないですね」
「やっぱり貴族はいらないかな……」
全く役に立たない貴族を置いて、カールは手に持った剣を強く握る。
するとその時、飛んでくるコウテイバッタに対してパンターがバラバラに砲撃を開始した。
同時に他のコウテイバッタに対してストライカーMGSが105mm砲を発射した。
放たれた砲弾は展開された防御魔法を貫通するも、追加で展開された防御魔法に阻まれた。
バッタたちは飛翔をやめて地面に降り立ち、パンターは再装填までの間、後退する。
後退するパンターを支援するようにストライカーMCは120mm迫撃砲を発射……も効果は薄かった。
「なんだか今までの敵とは違って硬いな、あいつ」
「防御魔法を多重展開してくるせいだろう。1枚を貫通してもさらに内部の防御魔法に阻まれているようだしな」
「ふむ……防御魔法は一度どこかが割れたらその防御魔法は消失する……ならば若干の間隔を開けて連続で砲弾を発射すれば抜けるのでは?」
「まぁ理論的にはな。だがそれには相当の練度が必要になるぞ」
そんな事を言っている間にもコウテイバッタは飛び上がろうとしている。
ともかく先程の作戦をやってみることにしたロバートは、隷下のストライカーMGSにその要件を伝えた。
0.5秒という職人芸のような間隔で砲弾を放つという指示に各車は動揺したが、やってみる他はないのでダメ元で挑戦することにした。
『目標、正面のデカバッタ! 各車0.5秒の間隔を開けて撃て!』
『『『『了解!』』』』
『てぇーっ!』
号令とともに0.5秒間隔で放たれた砲弾。
彼らの練度の高さもあり、砲弾はほぼ等間隔で放たれた。
予想通りバッタは防御魔法を多重展開し、砲弾を迎え撃った。
「これは……貰ったな!」
1発目の砲弾が第一、二の防御魔法を貫通し、第三の防御魔法にて弾かれた。
弾かれると同時に2発目の砲弾が防御魔法を貫通、そのまま第四の防御魔法を破壊した後に弾かれた。
残り1枚となった防御魔法を3発目が貫通、そのままコウテイバッタの心臓を貫いた。
ギィアアアア!
コウテイバッタは断末魔を上げて地面に倒れ伏す。
ロバートたちは撃破できたことを喜びあった。
だがまだコウテイバッタは生き残っており、仲間を殺されたコウテイバッタは怒り狂って羽を羽ばたかせている。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
 




