第208話 ドイツ機甲師団の栄光
到着したイレーネ=ドイツ軍団が運んできたものの中には数々の勲章があった。
それらは該当する兵士たちにロンメル大将の手によって授与された。
ゲオルグが最も数が多く、歩兵突撃章銅章、白兵戦章銅章、そして戦車撃破章を4つ授与されていた。
「ロンメル大将、部隊の配置が終わりました」
ロンメル大将が他の兵たちに勲章を授与しているときに、イレーネ=ドイツ軍団の兵士が報告しにやってくる。
ロンメル大将は今渡している兵に勲章を付け終わった後、兵の方を向く。
そして彼は少し不思議そうに言った。
「……なんだか機嫌が悪そうに見えるが?」
「いえ、そんなことはございません」
「私がナチスの人間だからか?」
「……」
兵はロンメル大将の質問に答えない。
彼は下を向いたまま黙りこくってしまった。
その場にいた他の兵たちは『ナチス』という言葉がなにか分からず困惑している。
「……1つだけ質問してもよろしいでしょうか」
「許可する」
「大将、ロンメル大将が忠誠を誓っているものは何ですか?」
「それは総統でもドイツでもなくイレーネ帝国、ひいては皇帝陛下だ。神に誓って言おう」
ロンメル大将は兵の目をしっかりと見つめる。
その眼光に兵は何かを感じ取ったようであった。
彼はロンメル大将に向かって言う。
「つまらない質問をしてしまったようです。申し訳ございませんでした」
そう言って兵は部屋を出ていこうとした。
そんな彼の背中にロンメル大将は語りかける。
「君たちがナチスを嫌う理由は分かっているつもりだ。総統が、ナチスが何をしてきたかはあの時代に生きていた私がよく知っている。だが今我々は同じ軍に所属している者共だ。一緒に手を取り合って戦わないか?」
そんなロンメル大将の言葉に、兵は振り向き、笑って言う。
「ロンメル大将に率いていただけるのであれば光栄です」
そう言って敬礼をした後、彼は部屋を出ていった。
ロンメル大将はそんな彼の姿を見て微笑む。
結局その場にいた他の者は最後の最後まで何がなにか分からずじまいであった。
◇
「全軍前進! 今日こそはあの憎き要塞を攻め落とすぞ!」
後方で馬に乗って軍を指揮するミトフェーラの将校。
彼は来る日も来る日も飽きずに要塞への突撃を繰り返していた。
そのため多くの兵士が犠牲になっていた。
「将軍、ずっとこの戦術ですが大丈夫なのですか……?」
「しらん。というかマスケット銃を装備した兵の運用方法などこれしか知らん」
「そ、そうですか……ってあれ!」
将校の隣で馬に乗っていた副官が前方を指差す。
砂煙に中から、何やら鉄製の箱のようなものが見えていた。
それこそイレーネ=ドイツ軍の主力兵器、レオパルト2A6の勇姿であった。
「何だあれ? この前まで見てきたものとは違うような気がするな」
「それも凄く数がいるようです。この前までの小さいやつでも1台も撃破していないのに……」
「まぁなんとかなるだろう。そのまま前進だ」
将校はレオパルトの姿を認識しても進撃することをやめない。
そんな彼の指揮に対して副官は疑問を持っていたが、反対意見を唱えることはなかった。
するとその時、レオパルトの後方、ライヒシュタッツ線のさらに後ろにいたPzH2000自走榴弾砲が火を吹く。
ヒュルルルル―――
「この音……もう撃ってきたのか!?」
「いえ、まだ敵は発砲していません」
「ではどこか――」
ドォォン!!
PzH2000の榴弾が炸裂し、着弾地点付近の兵たちが吹き飛ぶ。
続けざまに大量の砲弾が連続で発射され、着弾するたびに兵士の死体が中に舞った。
そんな様子を見て将軍は一時撤退を叫ぶ。
「撤退、一時撤退!」
「だから言ったじゃないですか! 無理だって!」
「うるさーい! そんな事を言っている暇があれば何か良い戦術でも考えろ!!」
「じゃあ牽引してきている対空砲を敵みたく対地用に転用すれば良いんじゃないですか!?」
そう言って副官は陣地の後方に置かれている対空砲を指差す。
将軍はそれをみてしばらく考えた後、手をポンと打った。
「それだ! なぜ最初からそれを言わなかった!」
「ずっと言ってきましたよ!!」
「そうだったか? まぁいい、今は射撃をしたまえ」
将軍の突然の決定に、仕事のなかった対空砲隊は慌てて砲弾の装填を始めた。
逃げていく味方たちを羨ましく思いながら、彼らは砲身の仰角を落として発射体制に入る。
だがもちろん対地攻撃の練習などしたことがないので、勘を頼りに発射する。
「おぉ! 我が軍もこんな攻撃ができたのか! 生まれて早1100年、この兵器に出会ったのは1年前とつい最近なだけに扱いがわからなかったがまさかこんな使い方があったとはな!」
ミトフェーラの軍人は皆長い年数生きており、彼らの頭にある戦術は昔のままで凝り固まっていた。
そのためこの将軍がまともにマスケット銃の扱い方を理解できないのも仕方がないのである。
彼らの頭の中には昔ながらの槍騎兵による突撃しかなかった。
対空砲はミトフェーラの生産力に頼んで大量生産がなされ、数多く配備されていたので、その面制圧力はかなりのものであった。
だが正面に展開しているのはレオパルト2A6、最新式のMBTに効果はなかった。
攻撃を受けたレオパルト2A6は反撃のために主砲を放った。
「敵、撃ってきました!」
「うわぁ! 横の砲が吹き飛んだ!!」
「構うな! 撃ち返せ!!」
横の砲が吹き飛ばされようと彼らはめげずに次弾を装填、射撃を続ける。
だが力の差は歴然で、1門、また1門と展開していた砲が破壊されていく。
対空砲は重たく自力では動かせないので、彼らはもう逃走することが不可能になっていた。
「やめてくれ!! 死にたくない!!」
「重い! 苦しいっ!!」
進撃してくるレオパルトは、何のためらいもなく地面に這いつくばる兵を轢き殺す。
この戦闘により敵本隊は逃走、わずかに残った部隊も全滅した。
部隊の敗北を重く見た将軍は、全ての罪を副官に擦り付けようと画策し戦地から1人逃げ出すのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
 




