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第2話 原初の女神、イズン

 「全く、いきなり女性の胸を触るなんて破廉恥ねっ!」

(いくら私が魅力的だからって……)


 目の前の女性がブツブツ呟く。

前半は事故ではあるのだが、俺のせいなので正しい。

後半に聞こえたことは……うん、聞かなかったことにしよう。


 それよりも、一体この人は誰なのだろうか? そしてここは一体どこなのだろうか?

見た感じ……雲の上にギリシャのパルテノン神殿のようなものが浮かんでいる。

どこからどう見ても地球ではないな……まさか『天界』や『神界』の類であろうか。


 それにこの美女も何だか変だ。

金髪碧眼であるのはいいとして、彼女の背中に12枚の羽がついているのだ。

そして頭には月桂冠を被っており、神聖な雰囲気を醸し出している。

果たしてこの美女は本当に人間なのだろうか?


 変な神殿に人間かどうかわからない美女。

今、俺は多くのことが理解できずに困っている。

とにかく状況を聞いてみないことには何も始まらない。


「あのー、すみません」


「えぇ、何かしら?」


 女の人は優しい顔と口調で俺に返事をする。

俺のさっきの行動に怒っている様子は見られない。

もしかしてさっきの胸の件はもう許してくれたのだろうか?


「ここって……一体どこなのでしょうか?」


 とりあえず俺は自分が思ったことを素直に口にする。

まずはここが何処なのかを知ることが最も重要であろう。

ここが地球の中のどこかなのか、そもそもここは地球なのかどうかぐらいは把握しておきたいと思った。


「あら、あなた自分が死んだことを覚えていないのかしら?」


 何をあたり前のことだと言わんばかりの顔で彼女は聞いてくる。

というかなぜこの美女は俺が死んだことを知っているのだろうか?

やはり推測通り死んでから神界や冥界にでも飛ばされたのだろうか。


「覚えていますけど……ということはここはやはり」


「あなたが思っているものでだいたいあっていると思うわ。ここは神界よ」


 正直、それを聞かされても思ったよりは驚かなかった。

よく異世界者の小説などで見てきたありがちな設定だ。

俺の中では『あぁやっぱりか』という気持ちが強い。


「では、あなたは……?」


 なんとなく想像はついているが一応聞いておく。

俺の予想ではかなり偉い天使か神様だ。

まだ天使ぐらいならばなんとかなるかもしれないが、高位の神様であったら……


「あなたが急に胸を触った女の人はねぇ、『原初の女神』であり、『創造神』である私、イズンよ!」


 うーん、そうか、神様か天使だとは思っていたがよりにもよって創造神かぁ……。

きっと創造神とはかなり偉い神様なんだろう。

何と言ったって『創造』神だからな。


 しかし本当に神や神界が存在するなんて、生きているうちは思っても見なかったな。

それにしても、全然まわりに人が、というか生き物がいないな。

当たり一面を見わたしたところ、どこまでいっても俺とイズンしかいない。


 ……というか、胸のことは流石に許してはくれないか。

そりゃあ自己でも急に胸を触られたら誰でもそう思うよな。

もっと注意深く行動するべきであった。


「ここには俺以外の人はいないんですか?」


「そうね。普通の場合、死んだ人の魂は基本的には冥界へと送られるからね。そして輪廻の輪に戻すか外すかを冥界神が決めるの。戻された人は転生してまた別の地球上で生を受けるわ」


 なるほど。昔よく聞いた地獄の閻魔様も話はあながち間違いではないのだな。

ではなぜ俺は冥界ではなく神界にいるのだろうか?

彼女の話で行くと俺は冥界に行くはずであるが……


「ではどうして俺は冥界ではなく神界にいるのですか?」


「あなたはどうやって死んだか覚えている?」


 あぁ、はっきりと覚えているさ。

俺は自転車に乗ったおじさんにはねられ、はねられた先でさらに軽トラックにはねられて死んだ。

ブレーキが壊れていたにせよ、回避行動ぐらい取れよなおじさん……


「私はね、偶然にもあなたが死ぬ瞬間を見ていたのよ。偶然ね」


 あの無様な死にざまをか。我ながら恥ずかしい。

というか女神様ともなれば地上のことは何でも観察できるのか。

――もしかしたらヘンなコトをしていた時間もバレていたりしてね……


「おじさんに弾かれた後に車に轢かれて死ぬとか、あなたツイてないわね。さすがに同情するわよ」


 なるほど、イズンは俺に同情してくれたのか。

だが少し無様な死に方をした俺を馬鹿にしているように見えるな。

『お前も一度あの死に方を味わってこい!』と言いたいが女神なのでやめておく。


「でね、そんなかわいそうなあなたに私は神様として、何かプレゼントをしてあげようと思ったの」


「プレゼント……?」


 突然のイズンからの申し出に驚く。

神様からのプレゼントはなかなか期待ができるな。

いったいプレゼントは何がもらえるのだろうか?


「そうよ! あなたには、『異世界転生の権利』を授けるわ!」


 な……なんだって! 異世界転生!?

俺が前世で何度も夢に思ってことが現実に!?

ヤバい、めっちゃテンションあがるんですけど!!


 でも待てよ、異世界転生って大抵勇者になって魔王と戦ったりするんじゃ……

大半の異世界者では転生した後は苦難の冒険が待っている。

引きこもりニートの俺に務まるはずがない……ここは嬉しい申し出だが辞退すべきか?


「異世界に行くについて、何かしなければいけないこととかはあるんですか?」


「しなければいけないこと……うーんとねぇ……」


 おや、もしや無いのか?

ないのであれば異世界転生、最高なんじゃないか?

意外な反応で少し戸惑うも、しっかりと疑問を解消すべくイズンに説明する。


「そのー、例えば『魔王を討伐しなさい!』 ……とか?」


「勇者になりたいってこと? なりたければなってもいいけれど、別に強制はしないわよ? というかそんな討伐するような魔王もいないわよ?」


 なるほどな、それであれば魔王討伐はしなくてもよさそうだ。

じゃあ本当の意味で異世界でスローライフを送ったりできるってことになるな。

そんな提案、ニートの俺が乗らないわけないじゃないか。


「じゃあ僕を転s――」


「あ、そう言えばひとつやってほしいことがあるわ」


 えぇ……仕事はないんじゃなかったのか?

折角の異世界ご気楽スローライフを期待していたのに……

いままでニートだった俺にとって、労働というものはかなりきついぞ。


「特に何もないって言っていたじゃないですか!」


「今思いt――思い出したのよ。本当だからね! えぇ!」


 この反応……絶対に今思いついたことだな。

でもすぐに思いついたということは、おそらくすぐに解決するべきであると思っているということだろう。

果たしてどんな問題なのか……


「あなたには、転生先の世界の紛争を止めてほしいのよ」


 なるほどなるほど、異世界の紛争を止める……か。

え、異世界の紛争を止めるぅ!?

絶対に難しい、何なら魔王討伐よりも難しいだろうそれ……。


「絶対ですか?」


「私の胸を触ったでしょ。そのお代よ」


 それを出されたら何も言い返せないじゃないか……。

仕方がない。ここは覚悟を決めるしかないようだ。

もとを言えば胸を触った俺が悪いんだ。


「分かりました。出来る限りの努力はしましょう」


「助かるわ! じゃあ今から転生先の世界の概要を説明するわね」


 イズンの説明によると、異世界に存在する複数の種族がそれぞれ国を形成しているらしい。

そしてそれぞれの国家が互いにいがみ合っていて、よく紛争が起こっている……と。

それぞれの国の心情を踏まえながら講和にもっていくのは骨が折れるなぁ……。


「そういえばあなた、紛争を止めるには何が必要だと思うかしら?」


 いきなりのイズンからの質問に驚く。

しかし紛争を止めるために必要なものは何か、か。

確かに、紛争を止めれるように努力するとは決めたものの、はたしてどうやって止めるかを考えていなかったな。


「対話、そして譲歩……ですかね」


 俺の知っている最も平和的な案を選んだ。

イズンも戦争は好きではないだろう。

こういう答えが一番適当なはずだ。


「そんなもので紛争が解決するのであれば、もうとっくに解決しているわよ。それに彼らが譲歩なんてするわけないでしょ。考えてみなさい。」


 まさかイズンは戦争反対派じゃないのだろうか?

人が死ぬとかどうとかという話が出てくると思っていたために意外であった・

ではほかになにか必要なものというと……


「……軍ですか?」


「あら、意外ね。てっきり『聖剣!』とか、『禁断魔法!』とかって言ってくるのだと思ったわ。地球ってそういう系の本であふれているでしょう?」


 イズンってまさか異世界転生系の本まで知っているのか?

それの影響でこんな異世界転生ごっこをしていたりして。

まぁその遊びのお陰で来世が楽しそうになるのであれば良いのだが。


「でもそれも当たりよ。あの世界の紛争を押さえつけるには、強大な軍事力で締め付けるしかないわ」


 イズン、こう見えてめっちゃ好戦的だな。

創造神というぐらいだから、平和大好き神様だと勝手に思っていた。

だがそれは偏見だったのかもしれない。


 そういえば、一般人に軍など持てるはずがないな。

軍というのは、軍閥などを覗くと普通は通常国家単位で持つものだ。

そうなると、必然的に国のお偉いさんになる必要がある。


「では、私はその世界で軍を持てるぐらいの高位に就かなければならないのですね」


「いいや、その必要はないわよ。もっといい方法があるわ」


 俺は一瞬耳を疑った。

イズンは国家の上層にならなくてもできるというのだ。

地位も名誉もなしでどうやって軍を組織、動かすんだよと言いたくなるが、言いたい気持ちを飲み込んで質問を続ける。


「と言いますと?」


「私はあなたに転生者特典をあげることができるわ。その中でも最強格である『軍隊』を呼び出して行使できる力を授けましょう!」


 成程、軍隊を召喚するスキルか。

しかし、召喚されるのもその時代相応の軍だろうから、指揮するのが難しいなぁ。

現代戦の方をよく知っている俺にとっては、騎兵などは使い方もサッパリわからない古代遺物なのである。


「馬に上手く乗れますかねぇ。騎兵や剣士など、運用方法がサッパリわからないですよ」


「何を言っているの? 呼び出すのはあなたの世界の兵器たちよ」


 ということは、現代兵器を召喚できるというのか。

現代兵器が使えるのであれば、それはある意味最強のスキルなのでは?

現代兵器に叶うものなどこの地球上にないだろう。


「え、本当ですか!? それはちょっとチートすぎるのでは?」


「多分大丈夫だって! 何とかなるわよ!」


 そのスキルがあれば、紛争を止めるどころか、世界の平定だって出来てしまうではないか!

流石にそんなことをやろうとは思っていないが。


「……そのスキルの名は?」


 俺の問いに、イズンはにやりと笑って答えた。


「スキル名――【統帥】よ。」


最後まで読んでいただきありがとうございました!

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