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第11話 王太子アルベルト

「なに、新しい島の情報だってぇ?」


 王城内に響く若い男の声。

この男はこの国の第一王子であり王太子のアルベルト=デ=ルクスタントだ。

なんとも間抜けな声だが、彼がこんな声をあげるのも無理はなかった。


「はっ、アルベルト様。確かにモンとやらがそう言っていました。」


 答えるのはこの国の第一騎士団団長のマルヴィン=バルテルス。

彼らは突然やって来たモンと名乗る男の語る不思議な話の内容に首を傾げていた。


「見つかっていない島などあったか? そもそもどうやって見つけたんだ」


 アルベルトは疑った口調で言う。

この国の第一王子ですら知らない島の情報をどうも怪しく感じたためだ。

果たしてモンは王国の次期トップですら知らないような情報をどうやって掴んだのだろうか。


「全くですが……しかしあやつ、島の地図なんてものも持参しているんです」


 島の地図か。

モンが妄想で書いた代物という可能性も否定できないが、本物であれば大手柄であると彼は考える。

とりあえず1回会ってみてモンとやらの話を聞こうとアルベルトは思った。





「これはこれはアルベルト殿下、始めまして。マルセイ商会副会長のモンと申します。突然の訪問誠に申し訳ございますん」


 モンは畏まりながらも、どこかニヤニヤとした表情を隠せていなかった。

そんなモンの態度をアルベルトは胡散臭く感じる。


「何の用だ、モンとやら。新しい島の情報とのことだが、それは本当なのかね?」


「はい、もちろん本物です。アルベルト殿下を騙すなどという恐れ多いことは私のような小物には到底できないことであります」


 そういってモンは懐から1枚の地図を取り出してアルベルトに恭しくささげた。

その地図は、島の位置と王国からの距離が正確に反映された非常にわかりやすいものであった。

アルベルトは地図を見ながら思う。


「おい、この地図によると、王都から1000kmも離れた場所にあるとなっているがそんなところまでどうやって行ったのかね。もしや国の許可も得ずに探索をしたとでもいうのか?」


 あるかもわからない島を探すのは、個人では到底不可能だ。

国単位でのプロジェクトであっても多大な時間と膨大なお金がかかる。

そんなことをモン個人が成し遂げたとはアルベルトは到底思えなかった。


「違います違いますアルベルト殿下。この情報はとある人間から極秘に入手したものなのです」


 とある人間……そんな怪しそうな人間からの情報をこいつは信用して持ってきたのかとアルベルトは呆れる。

嘘だったらその情報元の首を刎ねてやる、と思いながらもアルベルトは話を続ける。


「そのとある人間とはどんなやつなのだ、詳しく話せ」


「はっ、その人間は、こちらの国では見かけない奇妙な格好をしておりました。金ボタンのついた白の長袖の上着に白い長ズボン、白い靴を履き、鍔の黒い白い帽子をかぶって長い剣を差していました」


 モンは、見てもいないのに詳細を説明することが出来た。

モンがこれほどルフレイの特徴をスラスラと話せたのも、フローラが彼にあまりにも熱心にルフレイのことを話していたためである。


「ほう、確かになんとも珍妙な格好だな。それでモン、お前の目から見てその服はどうであったか?」


「はっ、その服一式には王都でも見られないような超上質な素材が使われており、おそらく王族の方々が着ているものよりも上質であるかと」


 モンは腐ってもマルセイ商会の副商会長である。その彼をここまで言わせるとはいったいどれほど良質な素材なのだろう、とアルベルトは思う。

すでにアルベルトは少しずつモンの話す内容を信じ始めていた。

だがアルベルトはまだ疑いを完全に捨てたわけではなく、さらに質問を重ねる。


「ほかに違和感を持った点は?」


「そういえば、あの者がこの国を去る時に、珍妙な船に乗っておりましたな。船なのに帆がなく、それでいて帆船よりも速い灰色の船でした」


 アルベルトは愕然とした。

帆がなく、それでいて帆船よりも速い船……そんな船があれば戦争の在り方は変わるのではないか、と。

モンの話すことが本当かどうかなど、アルベルトにはもうどうでもよくなっていた。

モンの口から語られる数々の不思議な、そして魅力的な話に彼は心を奪われる。

アルベルトはすっかりこの話を気に入ってしまったのだ。


「その船があれば、我々はこの大陸で……いや、この世界で最も強大な国になれるな!」


 アルベルトは興奮気味にモンにそう語った。

アルベルトはモンの語った船に強い興味を持つ。

彼の頭には、帆をはらず、大陸の周りの海を我が物顔で航行する自国の旗を掲げた艦隊があった。

そのアルベルトの様子を見てモンがニヤリと笑い、そして言う。


「これだけの情報なのですので、何か褒美を頂けないでしょうか……?」


 モンがアルベルトに褒美をねだる。

元々この褒美が彼の最大の目的であり、島のことなどどうでもいいとモンは思っていた。


「成程、褒美か……少し考えるからちょっと待ってろ」


 アルベルトの言葉を聞いたモンは、にやけが止まらなかった。

まさかこんなにうまくいくとは思ってもいなかったからである。

果たして何がもらえるのか……金か? 土地や爵位か? それとも女だったり……グヘへへ

まだ何も決まっていないのに、モンは勝手に妄想の世界に入っていた。


 一方、アルベルトは最初こそ真面目にモンへの褒美を考えていた。

しかし考えていくうちに、彼はもっと自分自身にとって都合のいいことを思いつく。

それは、モンを殺して新島発見の手柄を全て自分のものとするということである。

そうなれば、アルベルトがモンへ与える褒美は1つ。


「よし、決めた! お前は俺の剣の錆にしてやろう!」


 突然アルベルトから発せられた死刑宣告に、モンは驚きを隠せなかった。

自分は真実を伝えているのに、まだこの王子は疑っているのか? とモンが考えていると、アルベルトは続けて言った。


「この発見は大手柄だ、モン。しかしな、今この情報を知った以上、これは俺の手柄になったのだ。この世紀の大発見は偉大な次期王である俺の功績として、この国の歴史に永遠に残ることとなる。お前はその俺の踏み台となれるのだ、うれしいだろう?」


 モンにとっては冗談じゃなかった。

輝かしい未来を思い描いていたのに、殺されるなど思いもしなかったからである。


「そんな、無茶苦茶です! 儂はアルベルト様のためにとこの情報を渡したのに!」


 絶望と恐怖に歪むモンの顔を横目に見ながら、アルベルトは悦に浸る。

新島発見に沸き立つ国民と、それに手を振る彼の姿。

多くの人が名君として俺を讃えるだろう……


「では、俺の輝かしい未来の第一歩として、悪いが死んでくれ」


 アルベルトはモンにそう話しかけながら、腰に提げていた剣を抜き放つ。

鞘から抜かれた刀身が、今にも人の血を吸わんとしてギラリと怪しく光った。

そしてアルベルトは剣をモンの首に向かって振り下ろした。


 ザシュッ……ゴトッ


 モンの首が、盛大な血しぶきをあげながら床に落ちる。

返り血を浴びて、アルベルトの服が真紅に染まった。

そんなことには気にも留めず、アルベルトは傍に控えていたバルテルスに語り掛ける。


「王族会議を開く。王族を全員至急集めてくれ」


「分かりました、アルベルト様」


 モンの首が転がっているというのに、バルテルスは動じもしない。

彼はアルベルトに静かに頭を下げ、そして部屋を去っていった。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

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