心の一歩
私 柊木 葵は人混みが嫌いだ。虫が密集しているのが気持ち悪くこの目に映るように人も同じである。
新入部員獲得のためチラシを配る人や看板をもち呼び込みを行う者が快活な声で新1年生に声をかけている。そんな人混みにうんざりした私は正門から帰ることは諦め裏門から出ようとスマホ片手に歩き出す。
部活動は嫌いだ。プロや賞など一握りの人しか得ることのできないものに何の保証もなく貴重な高校3年間を賭ける。良くSNSでパチンカスのことを馬鹿にする人がいるが、私からしてみれば10万円くらい1,2ヶ月バイトすれば手に入る金額をチップにギャンブルするより高校3年間をチップにギャンブルする正門前にいる先輩たちの方がよっぽど馬鹿で狂っていると思う。
「なんで皆あんなに頑張れるんだろう......」
つぶやいた独り言は裏門前の第二体育館の喧騒にかき消され他の生徒に聞かれることはなかった。私は早く帰ろうと廊下と体育館入口を繋ぐ道を横切ろうとしたそのとき。
「ボール危ないでーすっ!」
横から急にバレーボールが飛んできて思わず奇声を上げてしまう。ボールはギリギリ当たらなかったが、変な声が出てしまったことに苛立ち思わずボールが来た方向を睨みつける。
すると守護神と書かれたTシャツを着た青年が「ごめんなさいボール大丈夫でしたか?」と走りながら体育館から出てきた。青年に文句の一つでも言ってやろうとして言葉に詰まる。目の前の彼の背が私よりはるかに小さかったからだ。
私は168cmと女子の中ではでかい方だと自覚しているがこの目の前の青年は160あるか怪しいぐらいである。
「あの!すみませんどこか当たりましたか?」
「あ、......大丈夫です」
「よかったぁー」
確認を取ると小さな青年はボールを拾い体育館の中に戻っていった。
「なんだったの?」
色々急であったが今私の頭に浮かんできたことは一つバレーボールって背が高い人がやるスポーツじゃなかたっけ?少し......本当に少し気になるがさっきまで部活動自体を否定していた私が覗くのはカッコ悪いと思いそのまま帰ろうと歩き出そうとしたその時
「ねぇ......」
ジャージを身にまとった死んだ目をした小柄でリスをほうふつとさせるような栗色の髪をした可愛らしいボブショートの女子生徒が、重そうなボトルが入ったケースを持ったまま立っていた。どうやら通行の邪魔をしたようだと気付き急いで道を開けるが、その女子生徒は助けてほしそうな目でじっと、こちらを見つめ続けてくる。
「.......手伝おうか?」
結局私は名も知らぬ女子生徒の目の訴えを振り切れず一緒に荷物を運ぶこととなった。しょうがなく体育館の中に入ると背の高い男子達の野太い声が飛んでくる。「「「こんちはぁ~!!」」」
私は初めてのスポーツマン達の挨拶に驚き肩を縮こまらせる。
ビビっている私の姿を変わらず死んだ魚の目で見つめていた女子生徒は、「フフ」と笑うとさっきまで死にそうな顔で持っていた荷物をすごい勢いで片し始める。(もしかして、だまされた?)状況が呑み込めず固まっていると練習に一区切りついたのかわらわらとガタイのいい男子が集まってくる。
「だれだれ~」「マネージャー志望の子?」など色々な声が飛んでくるが知らない人に囲まれるというのは存外怖いもので一言も出せずに固まっていると奥の方から坊主の精悍な顔つきの青年が周りを落ち着けるように手拍子をしてやってくる。
「はいはい、その子怖がってるからその辺にしとけーお前らー」
「「「へーい」」」
坊主の人の言葉に気のない返事をして他の人達は練習に戻っていく、それを見送った坊主の人はこちらに向き直った。
「ところで君は華が連れてきた子?」
「華?」
「あれ?違った?あそこでボトル並べてるやつが連れてきたのかと思ったんだけど......」
坊主の人が見つめる先には、サクサクとボトルを置いている栗色髪の少女がいた。
「あーあの人です」
私の様子を見て何か察した坊主の人は深い溜息を吐いた後「華ーーーーーー」と集合をかける。呼ばれた華先輩?は忙しいから早くしろよって顔で煩わしそうな顔でこっちにやってくる。
「何?」
「お前さ、引っ張て来たんならフォローしてやんなよ」
「え、メンド......」
「責任持ちなさいよ。もう最高学年でしょ!」
(マジで⁈)日本人は童顔の人が多いけど華さんは別格である。華さんはごねていたが坊主の人が何とか説得したのか華さんがこっちにやってきて私の制服の袖をつかむと「椅子出してあげるからついてきて」と連れてきた本人のくせして態度がでかいことこの上ない。
「はいこの椅子に座って練習でも見てな」
「あの私は」
「練習みたかったんでしょ?」
「ッ⁈なんでそう思うんですか?」
「だってうちの奥村みてバレーみたいな高さがものをいう競技でどうしてるのか気になるみたいな感じだったからさ」
「どこから見てたんですか?」
「最初から」
(タチ悪いなこの人)私は帰ろうとも思ったがここまで来たのなら、まぁ見ていくか。そう思い直した私は視線を先程会った奥村君?に飛ばす。不思議だどうして目が離せないんだろうか、いつもテレビごしに見るプロの試合もすぐにチャンネルを変えてしまうというのに。
何分経っただろうか隣にいる華さんの解説を聞きながらいくつかのメニューをこなす奥村君を眺める。そして最後にAチームとBチームで試合をするらしく1年生らしき人たちがせっせと準備を始めている。
「あのなんで奥村さんがAチームの中にいるんですか?」
「あれ言ってなかった?あいつはうちのチームの正リベロなんだよ」
「リベロって何ですか?」
「ああ~リベロってのは攻撃が出来ない代わりに殆ど後ろで守備をするポジションのこと」
「えっとつまり?」
「チームの守護神」
「守護神......」
バレーボールのことは饒舌に話してくれる華さんと試合を観戦する。ゲーム開始のホイッスルが鳴りBチームの体がすごく大きく太い選手が華さん曰くスパイクサーブという最も球速と威力があるサーブを打つ、ボールはすごい勢いで奥村君の方に飛んでいく。
私が触ったら骨が折れそうな球の勢いを殺しボールは奇麗な放物線を描く「きれい......」選手たちからナイスレシーブという声が上がる。そこからも彼はすごかった、何本も強烈なスパイクやサーブを拾い仲間が弾いたボールもたくさん繋げBチームに試合の流れを渡さなかった。
結果25対18でAチームが勝った。まぁあれだけうまければレギュラーというのも納得だ。
「凄いでしょ?奥村、あいつこの前大学の強豪チームにうちに来ないかってスカウトされてたんだ」
「天才は凄いですね......」
なんとなく共感しようと出た言葉だった。でも華さんは自慢げな顔のまま私の発言を否定する。
「うんん、あいつはね今2年だけど1年の時はユニフォームすらもらえなかったの」
「えっ?」
「あいつは元々スパイカー志望でこの学校に来たの、でもあの身長でしょ 高さっていう高い高い壁にあいつはねじ伏せられていた」
「へーそれでスパイクをしないリベロになったんですね」
「そうなんだけどー でもねあいつは頑固で技量は誰よりもあるくせにスパイクに並々ならぬ執念?みたいのが強くてねー 監督や先輩の打診を全部蹴ったの」
「えっ?それ揉めなかったんですか?」
「超揉めたし当時の3年にはぶられてた。でも、春高予選終わりぐらいに急にリベロやるって言いだしてねそっからの活躍は凄かったよ」
「へー」
言語化できないもやもやした感情が胸の中で渦巻く、正直なんでそんなに向いてないことを必死にやれていたのかそしてなんで急に未練を捨ててポジションを変えたのかすごく聞いてみたいと思っている自分と、自分とはきっと違う人種なんだと決めつけている自分もいる。
私がどうしたいのかも分からずストレッチしている奥村君たちを見ていると華さんは私の肩に手を置くと耳元でささやく。
「今から私があいつを体育館の外につりだすから話したいことがあるならそん時にいいな」
「は、はい......」
華さんに流されるまま連れられ見学のお礼を部長だった坊主の人にしそのまま体育館の外でスタンバイする。
すると5分後奥村君が「結局なんで俺外に行かされたの?」とぼやきながら体育館から出てきた。
「あの、奥村先輩......」
「わっ!!えっと、見学に来てた子だよね?」
「はい、私柊木葵って言います。」
「そうなんだ。でどうしたのなんか忘れ物した?」
「いえ、でもあなたに質問したいことがあるんです」
「質問?俺に?」
「はい」
「華さんにアイシング取って来いって言われてるから手短にね」
「はい、あの華さんから聞いたんですけど、なんで奥村先輩はそんなにバレーを頑張れるんですか?たかが部活動ですよね?」
「うーん、俺にはそんな大層な理由はないけど一つ言えるとしたらたぶん負けたくなかっただよね」
「はい?」
「俺さ生まれた時から小さくてさ背の順とかになるといつも先頭だった。だからかな中学では高さなんて関係ないって証明したくてバレー部に入ったんだ。最初はへたくそだったけど運動神経もよかったし頑張れば頑張るほどうまくなって自分の代ではチームのエースになってた。エースって称号は俺の中では高さが重要なこの競技で小さくてもなおチーム最高のスパイカーだって証なんだ。
だから推薦来てたこの高校に入学して、ここでもすぐにエースになってやろうって意気揚々と入ったんだけど高校のバレーは中学とは全然違って俺は期待の一年生からチームのお荷物になってしまった。
筋肉も余りつかない体と相まって技術以外の全てに圧倒されてね。何回か辞めようかとも思たんだ」
「なんで辞めなかったんですか?......」
「最後まで聞けよ......まぁそれで今はいないけど二個上にはぶられもして部活もやめようと思ったんだけど中学の時のチームメイトに大会の会場でたまたま会ったんだ。
そいつは、エースになってて俺は、ギャラリーからそれを見ることしかできなかった。それ見て思ったんだ負けてられないって」
「はぁ......」
「反応薄っ......別にいいけど、兎に角俺はそれっぽい理由をつけて逃げたくなかったんだ」
その言葉に確信を突かれたような気分になる、何かと理由をつけて自分の殻に閉じこもっていたのは、私だったのだ。
「私も先輩みたいになれますかね」
「えっ、わからん」
そのバッサリした返しには一気に気分が下がるが奥村先輩の言葉は続く
「でも変わりたいって思った今が一歩踏み出すチャンスなんじゃないのか?」
「思い至ったら行動に移せってことですか?」
「わかってんじゃん」
奥村先輩は満足そうな顔で笑って体育館の中に戻っていった。(アイシングは?)この後怒られるんだろうと予想しながらすっかり暗い空を見上げながら帰路に就く
「マネージャーでもやってみようかな......」
2週間後
私は、男子バレー部のマネージャーになった。覚えることがたくさんあるし、失敗ばかりだが新しい景色が見えた気がする。
「ねぇ」
「はい、何ですか?華さん」
「結局なんでうちに入部したの?」
「秘密にできます?」
「できるできるー」
「ほんとにお願いしますよ!まぁ、あの人のレシーブが一番よく見える場所で見たいって思ったからです......」
「お前可愛いな」
「なっ⁈」
華さんとじゃれていると体育館からナイスレシーブという掛け声が聞こえてくる。顔を前に向けると練習試合相手の強烈なスパイクを奥村先輩が奇麗に上げる。
やっぱりきれい
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不手際あったらごめんなさい




