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14 エピローグ~クッキーはもういらない~

 ロジャーとの婚約が白紙撤回された後、学園ではそれなりに話題にはなった。

 婚約の要であった伯爵領の河川の古代魔道具の件は、皆知らない。ただ、ロジャーと男爵令嬢の浮気は騎士科や淑女科では有名な話であり、ルシールも人から聞かれた時は二人の幸せとロジャーの騎士になりたい意思を尊重して身をひいたと説明した。婚約破棄ではなく白紙撤回であり、慰謝料も請求しなかったため、噂が一通り出回るとすぐに鎮静化していった。あまり泥沼の要素がないのでおもしろくなかったのだろう。


 それより大変だったのは、その後のことで。ルシールは魔道具科の編入試験を受けて、領地運営科と魔道具科の両方の勉強に追われた。更に、婚約がなくなったことで領地運営科で次男、三男などの文官を目指す者に迫られることになった。これにヘクターがキレて、落ち着いてからと言っていた婚約を前倒しにして、公表した。


 ルシールが次の婚約者を狙う者に追われることはなくなったが、今度はヘクターのファンの女の子に絡まれるようになった。ただ、その度にどこからともなくヘクターが現れファンだろうと容赦なく、論破して、ルシールを守ってくれた。


 ヘクターが卒業する頃には、男女ともにルシールに絡んでくる者はいなくなった。それは過保護なヘクターがルシールに絡むと現れて面倒くさいことになるからでもあり、ルシールがヘクターと並んでも遜色ないくらいの容姿をしているからでもあり、領地運営科でも魔道具科でも文句のつけようのない成績を取ったからでもある。


 ルシールが学園を卒業し、ヘクターと結婚して三年が経った。今は伯爵家の領地で暮らしていて、時折、王都にも顔を出している。ヘクターと共に王宮の古代魔道具師として働きながら、父と共にせっせと領地の仕事にも精を出している。この三年、ヘクターと試行錯誤して王都と領地を行き来した。領地で古代魔道具師の仕事ができるように体制も整えて、やっと色々と落ち着いてきたところだ。


 「はー、もうクッキーは見たくないかも。こりごりだわ」

 領地の屋敷に新しい料理人が入ったと聞いた。ルシールがクッキーを好まないと知らないのだろう。お茶の時間に、かわいい花形のクッキーが添えられている。クッキーからはじまった一連の騒動を思い出して、ルシールは静かに紅茶を飲んだ。


 「じゃー、このフルリ堂のクッキーもいらないってことだな?」

 いつの間に入ってきたのか、ルシールの背後からヘクターが声を掛ける。

 

 「えっ、いつも長蛇の列ができていて、午前中には売り切れてしまうという幻のクッキー? 口に入れるとほろりと溶けてしまうという? 要ります! 食べます! 食べられます! ダンナ様!」


 「もう、クッキーはいらないんじゃなかったのか?」


 「これは別です! いえ、ダンナ様が買ってきたクッキーだけは食べます!」


 色気のある人の満面の笑みってたまらない。ルシールは頬を赤らめた。この人はどこまで美しくなるのだろうか?


 「ぐぅ……、殺される……」

 「は? 俺との結婚は地獄か?」

 「いえ、天国だけど……ヘクターが格好良すぎて、色々幸せ過ぎて辛い……」

 「ははっ、なんだそれは? 求婚した時に約束しただろう? 前世の夫や前の婚約者を忘れるくらい幸せにするって」


 色気と綺麗が同居していて、天才古代魔道具師で、伯爵家の仕事もしてくれて、いつもルシールと伴にいてくれる夫と結婚できるなんて、思いもしなかった。前世の分もきっと幸せになってみせるわ。ルシールは心の中で誓った。いや、もう既に前世や今世の不幸を上回るくらい幸せなんだけどね。


 ヘクターが差し出してきたクッキーをルシールは頬張る。

 でも、クッキーはもう一生いらないのかもしれない。だって、夫がクッキーよりもなによりも甘すぎるから。

お読みいただきありがとうございました。

ヒーロー視点が一話続きます。

よかったら、どうぞ!

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