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哀れな寄生系美少女が金に惹かれて吸い付いてきたので、逆に食べる事にしました。  作者: true177


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022 信頼

 英雄が世界を救った次の日は、何事も起こらない平穏な生活が戻ってくる。ゲームや漫画では描かれない世界を想像してみるのも、文芸の面白味を言える。


 結莉とやりあった翌日も、学校は無くならなかった。授業の欠席は成績の悪化を招くため、ずる休みをすることもできない。


 今日が七月なら真夏日でも我慢できるが、まだ四月。小型扇風機を手元に置いておきたい。庶民の御用達だった扇子は、今やウチワにすり替わっている。


 ……俺が知ってる歌、一曲も歌えなかった……。


 主催者に従う義務は締結していない。契約書で事前に取り決めをしていない以上、隆仁は胡坐をかいてその場に居座るつもりだった。


 マイクを持たされた隆仁は、選曲権を牛耳った美少女に翻弄されてしまった。間髪を入れずにテレビ画面の字幕が表示され、それらを目で追うのに精いっぱいだったのだ。


「やっほー、須藤くん。日本のアイドル、佐田結莉ちゃんだよー!」

「どこかで聞き覚えがあるような……。そもそも、いつ日本にグレードアップしたんだよ」


 敬礼をしたまま、結莉が思考に乱入してきた。警察帽を頭に乗せれば、たちまち美人警察官の誕生である。何食わぬ顔で逮捕状を捏造する予感があるのは杞憂なのか。


 活動地域を学校から拡大しているという報告は受けたことが無い。ネットニュースの話題では小さくとも、校内ネットワークに伝達されていないのはおかしな話だ。


 休日の次は、身体が重くて動かしにくい。一限から体育がねじ込まれているのは、朝食を抜いてきた空腹な生徒をふるいにかけるためとしか思えなくなってくる。


 ……佐田さんは、どうしてあんなことを……。


 護身用の武器を潜ませていたとしても、男子に匹敵する馬力を出せないことは承知していただろう。不審な行為をさせないと結束バンドで両手首を拘束されることを考えなかったのだろうか。


 結莉がリターンに見合わないギャンブルに手を出す人間ではないことは、遠巻きに隆仁を責め立ててきたことから情報として書き込んである。入れ墨をした目元に傷のある金棒番長に、彼女が話しかけていたのを目撃したことはない。


 手を出してこない予想は付いても、本番で安全装置が外れるアクシデントが発生しない確約は取り付けられない。これからの全てを投げ捨てて本能のままにいたぶってくる平行世界は、確実に存在していたのだ。


「……会っていきなり昨日の話なのは申し訳ないんだけど、あれだけ誘ってこなくても良かったんじゃないか?」


 隆仁の陰に隠れて尾行していた結莉には、埋めたものを掘り返す意義が湧かなかったらしい。私生活を一時停止ボタンで止めたような、素の表情で固まった。愛嬌をかなぐり捨てても目線が離れなくさせるのは、幸運な遺伝子を受け継いだ産物である。


「私の感情は、須藤くんの想像にお任せしようかな。……それにしても、先生の言うことを二度も忘れるなんて、いい大学に入れなくなるよ?」


 一回足りない対象の講義は、持久走後の保健室を指していると思われる。


 ……あの二回は同じような状況だけど、一致はしてない。


 結莉がラストスパートの対義語をかまして力尽きていた時は、とても歯向かって痕跡を残せる体ではなかった。自らの身を保護する最善の方策は、言葉巧みに脳を誘導させることだったのである。


 白いベッドの上で、二人きり。大人向け映画の見過ぎで、プロレスごっこを期待する中毒患者数も高校生から爆増していく。現実で再現できない構図に憧れて、架空の物語と実在の人物に架け橋を渡してしまうのだ。


 自分は動けず、付き添っているのは金目当てで呼んだ男子だけ。信頼できそうではあるが、猫の中からハイエナの群れが飛び出してくるかもしれない。理性の残っている内に楔を打ち付けておくのは、防災で家具につっかえ棒を設置するのと本質は同一である。


 ……カラオケの時は……。


 食中毒に当たって起き上がれない状態ではなかった。柔道で強引に寝技へと持ち込むのは反則になるが、レフェリーの制止を無視して隆仁に押し倒させた。


 その後の砂糖を振りかける言動も、勘違いを増長させる要因となる。彼女の本望だと取られかねない。


「……あの時、わざわざ俺を誘い込む必要は無かっただろ? もし腕を封じられてたら、どうするつもりだったんだよ」

「私を所詮道具としか思ってなかった、って潔く切ってたよ」


 どの口が言っているのだろう。得体が知れない初期の現金振り込み器も、随分と口が達者になった。彼女を追い続けてきたのは言わずもがなだ。


 縁を切ると断言されても、その場で実行できたかどうかとは別問題になる。立ち入り禁止のテープが貼られた事件現場になっていたかもしれない。確実に脱出できる公算があったとは、いくら再演算をしても考えにくいのだ。


 ……佐田さんを『モノ』としか見ていなかったのは、俺もかもな……。


 交通事故を起こせば、相手方の故意か重大な過失が絡んでいない限り責任を負うことになる。九割の賠償を免除されたのは事実だが、残りの一割は債務となって人力車の荷台を占領することになってしまう。


 諦めきれなかったのは個人の自由であり、刑法によって裁かれることも無い。思想と良心の自由は、憲法で保障されている。


 だがしかし、結莉をストレス発散の道具と見なしてこなかったか。金の殴り合いをするのはともかく、何をぶつけても平気だと見誤ってはいなかったか。問いただされた時、隆仁にノーと結論付ける確証は存在しない。


「私は、須藤くんのことを信用してるんだよ? してなかったら、今日の教室で誰とも会話出来なかったはずだよ?」

「権力濫用は、クラスの鏡としていかがなものかと」

「使えるものは、無くなる前に全部使っておかなくちゃね。特別な事情でもないと使わないけど」


 ……制限時間付きの食べ放題じゃないんだから……。


 気が付くと卒業式までイベントが進行している高校の間しか使用できない特権、未使用の新品で返却したくない気持ちは同情する。共感するのと賛成するのは別物だ。


 脳内が爆弾の起爆スイッチでいっぱいの美少女と過ごす時間が長すぎて、感覚が麻痺してしまっていた。ピラミッドの頂点に立つ女王は佐田家の結莉なのであり、陰口を周りに伝染させようとしようものなら物理的に排除される。


 隆仁が永久追放を受けないのは、権力者が行使に後ろ向きという恩恵を授かっているに過ぎない。手荒な真似を行った時点で、文字通り机と椅子が野外へ放り出される。それを容認しそうな上層部の汚職度合いは深刻だ。


「これで二回目だけど、須藤くんはコントロールが効かなくなる男の子じゃないでしょ? 夏になったら、水泳バッグでも持ってもらおうかな……」

「ただの荷物持ちだろ、それ」


 持ち逃げされたら、彼女の心は拳銃で撃たれるのか。好奇心が一ミリほど芽生えたが、理性という強力な除草剤に駆逐されていった。マナー違反の前に、手錠をかけられて御用になってしまう。


 ……二週間前なんか、持ち物を何も触らせてこなかったのに……。


 恋愛感情を吹きあがらせられていなくとも、好感度は上がっていると願いたい。結莉との距離を手繰り寄せられはしないが、確実に差は縮まっている。ゴールまでに、追い付くことは出来るのだろうか。


「人を信頼させるにはまず自分から、ってね。ほらほら、こんなこともしちゃうよ?」


 教科書の重みで下方へと垂れ下がっていた肩に、女の子の頭が鎮座していた。スズメはおろかカラスも近寄ってきたことがないと言うのに。


 遊び毛の無いストレートに伸びた短髪が、頭頂部から額に向かって足を下ろしている。時速百キロでアクセルを踏み続けている間は、モード変更用レバーが引っ込んでしまう仕組みのようだ。


 自然と隆仁の右手が腰の中段からせり上がってきて、中途半端な空中で緊急停止させた。指揮系統を数学的脳が支配できていると褒められたばかりだが、衝動は急に止まれなかった。


「おっとー、その手は何かな?」


 結莉の何でも見透かす分析眼にかかれば、常人には見向きもされない動作も見逃してくれない。


 本音を伝えてしまえば、一生懸命積み上げた信頼の塔が崩壊する危険性がある。嘘を見破られても、その状況に陥ってしまう。


「佐田さんが見過ごせないことをするから、一発はたいてやろうかと思って……」

「スラスラとウソが付けるのは、私と一緒みたいだね? 男の子が無意識にすることが、計画性を持ってるわけないと思うなぁー」


 表面だけでも清楚系アイドルを取り繕う気は無くなってしまった。公式に虚言を認めて。炎上しなかった例はない。氷嚢に顔を突っ込んで謹慎すべき事案だ。


 ……将来の職業、名探偵にでもしたらどうなんだろう……?


 失われた職業、その名も虫眼鏡を持った非昆虫少年。謎を解き明かし、事件の全貌を世間に発信する。現代ではその役割が警察に吸収されてしまっており、自称名探偵が事件現場に入ることすらできなくなっている。


 死んだ魚に水を与えて復活させられるのは、奇跡の能力を持つ結莉だけだ。アニメの声優役としても、出演できるチャンスも出てくる。彼女のぼったくり力を以てすれば、収入などウナギ上がりになるだろう。


 そんなこんなで、隆仁は探偵開業を強くお勧めする。


「……えーっと、このことで処罰されるなんてことは……」

「髪の毛が、気になったんじゃなくて? 今日はアホ毛ちゃんも大人しいのに」


 隠し通せなかった。三重にも仕掛けられたロックをピンポイントで開錠されては、システム警備会社の面目が潰れる。


 本人が気にしているアホ毛の暴走は、事情を知らない男子からすると魅力に大化けする。喜怒哀楽のバロメータとしてだけでなく、感情と同期しているのが愛おしくてたまらない。


 アニメキャラでアホ毛をチャームポイントにしたヒロインはいても、変幻自在な自立した髪の毛というジャンルは荒地だった。結莉には、ぜひ開拓者第一号として名乗りを上げて欲しい。


「今ここで、佐田さんを襲うかもしれないぞ? 睡眠薬入りのコーラを飲ませて、家に持ち帰って……」

「そんなこと、する?」

「断じて致しませんお嬢様」


 部下から身を乗り出しているのは、仮にも一国の娘だ。自由奔放が過ぎる。教育期間にまともな師匠と巡り会えなかったに違いない。


 隆仁のこけおどしを、一かけらの心配を含んだ冗談を、結莉は一刀のもとに両断した。


「もっと良い時があったのに、須藤くんは私を襲わなかった。それどころか、身のことを思ってくれた」


 呼吸音の後、一拍置いて。


「……隆仁は、一番頼れる人だよ」

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まだこの話は続きます。

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