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哀れな寄生系美少女が金に惹かれて吸い付いてきたので、逆に食べる事にしました。  作者: true177


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016 無気力

 小学校に入学したての頃、グラウンドに散る桜をどれほど誇らしげに思っただろうか。漢字では知らなかったが、年長までの緩やかな連合から厳しい統制下になることへの抱負を、幼いながらに決めていた。


 どの学校の校庭にも、桜の木が植えてある。旅立ちと出会いの象徴として桃色の花びらを身に着け、何十年もの間翼を成長させて飛び立つ生徒を見守ってきた。口がついていれば、インタビューをして本に残してもらいたいくらいだ。


 純粋無垢だった六歳児とはダブルスコアがつき、退屈な授業を希望の目つきでかじり付くのも少数派になってきた高校生。桜など、掃除の手間が増える厄介な植物へと様変わりしてしまった。


 ……グラウンドに花びらが残ってると、白線が消えるんだよな……。


 その上、隆仁たちの高校ではトラックがピンクで埋め尽くされてしまうのである。元凶と辿っていくと、脳で入念に計画を練らなかった時の校長が、何を思ったか土運動場の側に桜を植えてしまったことにある。


 ホウキで集めるにしても、砂利ごと混じってしまって分離は困難。ゴミ箱に入れようとしても、燃えるゴミとして袋に入れていいのかも分からない。お上の軽率な行動が、一世紀の時を経て生徒の肩にのしかかっているのだ。


 これだけでも迷惑な生活妨害になるのだが、加えて四月ともなると問題が『風船に空気を注入し続けているのか』というくらい膨らんでくる。


 ……天然バナナの皮なんだよな、あそこ……。


 内側の白ラインが隠れてしまっているのは言わずもがな、サクラのミルフィーユになったコーナーは摩擦力が失われているのである。遠心力に引っ張られて氷上を通過したのでは、転倒者が続出すること間違いなしだ。


「……おいおい、日差しキツいんだけど……」

「仕方ないだろ、春に持久走するのがどうかしてるんだし……」


 半袖短パンの体操服で蠢き合う集団の中からも、ちらほらカリキュラムへの不満が噴出している。ボイコットの算段まで立てていたのを耳にしたが、赤点だけは避けたかったようだ。


 通年、冬季に陸上競技を実施してきてからの、急な路線変更。上級生にとっては連続で持久走と言う名の戦場を駆け抜けることになり、文化部はおろか運動部までもがスタミナを削り切ることになりかねない。


 ……俺も、長距離は得意じゃないけど……。


 隆仁は、まだ部活で汗を流しているだけ優位に付けている。運動習慣の皆無な帰宅部が味わう絶望感と比べれば、奥底から力がこみ上げるものがある。


「……須藤くん、須藤くん。長い距離走るのって、得意かな?」

「これはこれは、佐田さんじゃないですか……。……体操服のサイズ、合ってる?」


 満員電車のすし詰めから、見覚えのある顔が脱出してきた。自動販売機のボタン権を廻って取っ組み合いになった時の底力はどこへやら、波に体を持っていかれそうになっていた。


 女子の体操服は、バストが成長してくることを見越してゆとりがある……という話は聞き覚えが無い。身長を基準にしたサイズでは、不都合が起こるに決まっている。


 例示の第一号になっているのが、指一本も入らなそうな結莉だ。勉学に留まらず、運動まで兼ね備えているのかと目を逸らすことが出来ない。


 春になっても長袖から引きこもって出てこない女子はよく目にするのだが、持久走とあっては自重していて、誰もが真っ白な腕を出している。


 結莉は、その暑がり軍団には属していない。日焼けにも関心がないのであろう、隆仁とそう遜色のない焼け姿だ。


 ……これは、男子全員が視線を向けるだろうなぁ……。


 そして、体のラインがあざとく強調されている。身長相応のサイズに見えるが、双方の乳房が不正に印象操作をしてしまっているのだ。


「……入学した時は、目立たなかったはずなのに……」


 スタイルを自らのアピールポイントとして運用している美少女にしては、随分酸っぱい顔をするものだ。隆仁は一年次の彼女を知らないが、主張せずに収まっていたと推測できる。


 ……しっかし、よくもまあ一日で接し方を変えられるなぁ……。


 隆仁が結莉のスキャンダルを暴露してから、まだ二十四時間も経過していない。出回った情報も信憑性としては薄く、弁明するチャンスは残っていた。


 登校するや否や国会もビックリの答弁をさせられる羽目になった隆仁だったが、それもにわかには信じがたいビッグニュースだったからだろう。


 大女優としての地位を確立していても、失態が大きければ重役を外される。恋愛禁止のアイドルが掟を破って、ファンからお咎めなしの有難い押印をしてもらったケースは稀だ。


 しかし、降格や自粛を通り越して契約解除とまでは行かない。全員の期待を一身に寄せられているスターを、たった一度の真偽不明な噂話で断罪は出来ない。


 ……佐田さんが登校してきて、開口一番にあれだから……。


 教室に現れた彼女は、昨日も今日も国民的アイドルであった。聖域という幻惑が創り出した輝きは失っていたが、それが原因で離れたファンはいなかったに等しい。


 『須藤くん、今日も面白いことしてそうだね』

 『佐田さんのせいじゃなくて?』


 放課後限定の特別待遇が、平常に移り変わった。堂々とした立ち振る舞いで、クラス全員の反論を許さなかった。仮に彼女が気負いして語尾が弱くなっていれば、ここぞとばかりに火縄銃の三段撃ちで一斉攻撃されていただろう。


 男子陣のセカンドインパクトは、ミサイルが着弾した第一派より遥かに小さなものだった。そうでなければ、隆仁は保健室送りになっている。


「……それだけ、体全体が成長してるってことだと思うよ」

「……身長、ほとんど伸びてないって言ってもそう励ませる?」


 愛すべきか憎むべきかを惑わせる寄生系少女は、自身の胸を指し示していた。隆仁が動かない石像だと思っているのなら、その行動は正しい。ジャングルにいる猛獣に取って食われるのは時間の問題か。


 ……そこも計算してのことなんだろうけどさ……。


 一場面だけを切り取ってみると、結莉は行き当たりばったりかもしれない。ボタンに結が届かないからと言って空中に身を投げ出すなど、冒険漫画のヒロインでもしやしない。


 全体像を動画で流して、初めて彼女の意図に気付くことが出来る。炎天下のアスファルトで土下座したのも、隆仁が続けさせないと知っていたから。胸をアップにして見せびらかすようにできたのは、理性で感情をコントロールしている人間だと認められているから。


 全ての行動に、合理性が張り巡らされている。世界の独裁者も、恐れおののいて跪くのは必至だ。


「……他の女子に怒られそうだけどな……」

「しょうがない、アホ毛も胸も言うことを聞いてくれないんだから……」


 昨日暴走機関車となって山手線を脱線していたアホ毛ちゃんたちは、お休みになっている。生命を宿しているのかいないのか、真相解明が待たれるところだ。


 クラスの看板と、そこそこ優秀なことだけが取り柄の男子。二人が固まっていて、不快感を示さない人間の方が少数だ。現在進行形で、あられのような矢が頭上から降り注いでいる。空気の分子が音速を超えて皮膚にぶつかっていることを考えれば、大したものではない。


 ……それにしても、女子と一緒にすること自体がおかしいんだよ……。


 高校生ともなれば、体力差が明確に数字となって表記されるようになる。男子と女子の筋肉量の差が、そのまま体力と記録にも影響してくるのだ。


 トラックも、同じ距離を走るのならば周回遅れが発生するのは避けられない。男女別にするのが一般的で、実力差が近い者同士で並走してくれるのが教師からしても助かるはずだ。


「……佐田さんは、長い距離走れる? 何をさせても天才だと呼ばれる佐田さんだもんな、完璧なんだろうな……」

「……うーんと、今日は須藤くんに助けを借りるかも……」

「車の運転免許証はまだ取れない年齢だからお断りいたします」


 手を引いて走れとでも要求されるのだろうか。エネルギーを絞って水滴が出て来なくなったのならまだ分かるが、スタート前から猫の手を借りようとするのは納得がいかない。


 オリンピックでも、車に乗ってゴールまで移動した愚かな不正行為があったとかなかったとか。世界大会に出場するような選手でも、思考回路は一般人とそう変わりはないようである。


「……学校の持久走も、ゼッケンを貼ればやる気が出てくるのに……」


 一体全体、何処の家を背負って出場すると言うのか。家制度が廃止されて、結婚式でも個人名が主流になりつつある現代に、苗字の紋章を通行証としてかざすのは時代錯誤である。


 大学対抗の駅伝で見ることは有るが、体育の授業で活気を生み出せと命令されてもやる気は出ない。練習である以上、本気で臨むのは大会を控えた陸上部くらいだろう。


『まもなく、スタートします。位置についてください』


 放送が鳴り響いて、盛り上がっていた雑談が静まり返った。流石、腐っても自称進学校と言うだけのことはある。


 二、三クラスが一斉に走るとなると、スタートの陣取りも重要なポイントになってくる。最後尾で良い記録が打ち出されるのは滅多にないことであり、外側に押し出されないように皆おしくらまんじゅうをするのだ。


 ……佐田さんは……やる気無さそう……。


 参加意欲を封印してきたようなだらしなさだったが、ごった返す前方から逃げていた。体育教師に目を付けられることの無い、後方集団につけていた。


 そういう隆仁も、熱気が燃えているわけではない。燃料となる酸素を無駄にしないよう、スピードを抑えてトラックを回るつもりである。


「……須藤くんは、どうするの? 飛び出す? 大逃げする? それとも最後に大失速する?」

「逃げる事しか能が無いみたいに……。佐田さんも、やる気ないでしょ?」

「……私の細工に気付いたのは君が初めてだよ、須藤助手……」


 気を入れ替えたのかと思えば、すぐに寄ってくる。ロッククライミングでつかむ岩がないような、のらりくらりと躱されている気になった。


 大逃げは競馬の専売特許ではない。陸上競技でも使用される語句であり、ギャンブル御用達の隠語では全くない。あまり能力を有する人間が採用しない戦法という点でマイナスイメージなのはどちらも同じである。


 ……挑発されても、平常心、平常心……。


 トップ争いに絡めば、結莉の金ずるという幻覚も晴らすことが出来るだろうか。先頭を奪ってゴールテープを切るその姿に、感動して心を揺れ動かしてくれるだろうか。


 優勝は彼女の想定しない結果であろうが、それに至るまでの過程は『予想通り』である。そそのかされて本来のスタイルを崩されている時点で、隆仁の負けが確定するのだ。


 万が一、隆仁の夢があっけなく破れたとして。結莉の取扱説明書を、大々的に出版するつもりである。


『位置について、よーい……』


 幼稚園の徒競走と勘違いしそうなコールだ。過去の授業で返事は切るように教えておきながら、自分たちは守らない。廊下を走るなと同レベルである。


 足を踏み出す刹那、結莉と目が合った。


『さーて、須藤くんはどうする?』


 隆仁の判断力が、試されている。


 ……佐田さんにもう一歩近づくために、俺は……。

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