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哀れな寄生系美少女が金に惹かれて吸い付いてきたので、逆に食べる事にしました。  作者: true177


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012 語彙力は正しく使いましょう

 スイッチがひとりでに入ってしまった佐田式炊飯ジャーから、炊き立ての蒸気が噴出している。火山温泉に浸かって猿と混浴できれば理想なのだが、この気体は人間を生易しく包むものではないようだ。


 黄色い三角コーンがタケノコのように生えているのは、アホ毛を弄ばれた結莉である。目に入れても痛くない子分を傷つけられたとなって、内部エンジンが発熱している。冷却水が蒸発しては、もう彼女を止められる者はいない。


 ミツバチを彷彿とさせる危険信号の核弾頭が、水平に打ち出された。放物線を描く間もなく、隆仁へと一直線だ。


「……私のアホ毛が、そんなに好きなの? もう、役所に婚姻届け出しちゃう?」

「佐田さんがハンコ押してくれるなら、それでもいいか」


 法律で、人間同士の結婚は十八歳以上からとなっている。無生物となら、婚姻は自由なのだろうか。結莉の印鑑が押されていたとて、お役所仕事では無限増殖する周りに流されない毛束を対象としてくれない。


 なにより、後世までその届けを保存しておけば、いつでも結莉を赤い鎖で拷問椅子に縛り付けることが出来てしまう。名前を貸すということは、相応のリスクを伴うものなのだ。


 彼女のお気持ちを表明しているのか、美容雑誌の表紙に選出される水気が保たれた黒髪という舞台の上で、分身たちがバッテンを作っている。クレーン車で吊り上げられていたというドッキリ企画なのかもしれない。


「……須藤くんには演技してるように見えるかもしれないけど……。この子供たち、私でも制御できないんだよ!? 泣き止まない赤ちゃんをあやす親の気持ちにもなって欲しいな……」


 果たして、何処のご家庭にいる育児ママなのだろう。おむつの取り換えに睡眠時間の枠など気にしない奔放さに苦しめられている人は、数知れない。ソリの合わない髪の毛を気にするだけの彼女とは月とスッポンである。


 ……佐田さんが主演女優賞を取れないのは、一番分かってる。


 金銭が絡まない、平和で味のしない乾パンは貪り食うのみ。金のにおいが漂ってこないものに、彼女が入れ知恵で偽装することはない。嘘で外壁を塗り固めるという人件費がかさむ事業は、不採算でしっぽ切りされる。


 大物女優の大根役者っぷりは、見ていて滑稽なものだ。見る者を期待させてからの落差は、冷たいまなざしで現実世界を傍観していると驚かされる。


 ……奢って欲しい時のおねだりなんて、まだ幼稚園児の方が上手だからな……。


 幼い子供でも、地べたに這いつくばって物品を懇願することはある。


 ただ、それは一点の曇りもない小さな願望から生じるものであり、頭を下げて頼み込まれると断り切れない。巧みな会話で作った友達と砂場で山を盛っているだけでも、ちびっ子は通りすがりの目を和やかにしてくれるのだ。


 さあ、問題は御年十六か十七になる寄生系美少女である。せめてぶら下がり健康器にでも噛みついていてくれれば何事も起こらないのだが、背中に張りつかれたのでは仕方がない。


 純真が故に情を誘う未就学児ならいざ知らず、巨大赤ちゃんが物乞いをするというのは危険な香りがあちこちから突き刺さってくる。


 ……まさか、いい年した『パパ』なんかと繋がってなければいいけど……。


 独身か既婚かを問わず、『パパ』と呼ばれる闇世界の住人という奴どもがいる。金銭の

収受で交際関係を持ちたいと考えている、自由恋愛の価値観を打ち崩してしまうとんでもない人間たちだ。


 学校のアイドルが援助という名前の春を売り出したら、ビッグニュースとして地域内のさらし者に仕立て上げられることは間違いなしだ。主従関係にある部下たちからも、反旗を翻されるかもしれない。


 もっとも、それ以前の話で被告人となるのだろう。


 ……しっかし、お金の為なら体まで売る、とも思えないんだよな……。


 その気になればスプリングを飛び越して春夏秋冬を各方面に売り飛ばせそうな結莉だが、隆仁は彼女のデッドラインを踏み越えそうな仕草をただの一度として目視したことがない。


 裏アカウントを運用してお小遣いを稼ぐ非合法な手段を用いているのなら、彼女から誘惑メールの一つや二つが来る。もっと言うのならば、真っ先に連絡先を交換しようとしてくるだろう。


 ……そういう裏世界へ助走をつけえ飛んでいく人たちは、もっとグイグイ胃袋を掴みに来るイメージが……。


 身体を引き寄せてくることはあるが、二百海里ほどの距離を空けて居合斬りの構えをしていることがほとんど。そんな結莉が、爆発するかもしれない時限爆弾の線を切断してまで金を吸い上げるとは予想しにくかった。


 現代における闇金がサラリーマンを装っているように、断定までは出来ない。隆仁のそうであって欲しくないという願望も、水素水における水の割合くらいには入っている。


 ……とりあえず、保留か……。


 不倫現場の修羅場に弁護士を立ち会わせているのではないのだから、深く切り込んでいったとしても骨まで到達しない。そして、そんなことをすればガラス製トランプのピラミッドで成り立っていた奇跡のバランスは粉々に砕け散り、二直線は離れていくだけだろう。交点を過ぎると、もう再び交わることは無い。


 地雷だろうが蜜を吸いに来た虫だろうが、結莉には一緒に時を過ごしたいと思わせる価値がある。隆仁がその考えから逃れることが出来ない以上、手を出すことは不可能なのである。


「……おねむでちゅかー? 今、フラスコにピペットみたいなのを付けたやつ、もってきまちゅからねー」

「俺は赤ちゃんじゃないぞ? ……それに、哺乳瓶を離さない時期の赤ん坊には理解できないだろ……」

「たぶん、普通に言っても理解できないと思うよ?」

「それはそうだけどよ……」


 結莉によからぬ感情を抱えている間に、ブロック塀の突き当りまで進んでいた。彼女の手振り止まれ信号が無ければ、鼻血を垂れ流していた。


 簡単な語彙を赤ん坊に話しかける内に、その赤ん坊は日本語を習得する。パパやママを最初に繰り返すことが多いのは、赤ちゃんの周りでよく飛び交う言葉だからだ。


 フラスコもピペットも、理科で初めて登場する器具である。第一声が『ふらすこ!』など、末代まで笑い話として語り継がれていくだろう。


 ツッコミカウンターを流し打ちでホームランにされ、また新しい弾を装填しようとした。が、何かが引っかかる。


 ピペットは、スポイトの空気ダメを作るゴムまりである。あのゴム球をふざけて吸う輩は、やんちゃまみれの小学校でも聞いたことが無い。


「それじゃあ、こっちの方がいいかな……? ……ほらほら、ピペットでちゅよー」

「……待て待て、佐田さん。ピペットでどうやってミルクを吸うんだい?」

「それはもちろん、先端の穴から……。……穴がない!」


 結莉が手を打つと同時に、アホ毛が跳ね上がった。毛根の支配をはなれたように見えたのは、錯覚だったのだろうか。


 ……佐田さんのアホ毛、どういう構造してるんだろう……。


 ラジコンやドローンは、遠隔操作のボタンやレバーで操縦する。判断が鈍いと大破してお小遣い経済の崩壊を招くのは、どの時代も同じだ。


 拒否反応を示している未確認非生命体は、結莉の操縦レバーのようなもの。グリップが発射ボタンと連動していて、高密度のエネルギーが放たれる。


 人体の謎は解明されていないことが多いが、佐田結莉学は隅田川のヘドロに隠されていた真相が洗い出された。人類にとっては資源の無駄遣いだが、隆仁には大きな一歩の手掛かりとなる……かもしれない。


「……ともかく、もう無断で私の髪の毛に触らないって、約束してくれる?」


 彼女の小指が、地中からひょこっと姿を現した。任意に聞こえないことも無いが、万が一小刀で落とそうものなら、そのことをダシにされて更に煮られてしまいそうだ。反撃の手段が無くなると分かっていても、苦渋を飲んで首を縦に振るよりない。


「……分かりました、佐田お嬢様」

「嘘付いたら、使用済み注射針を千本飲ましますわ! それでもよろしくて?」


 突然の上位階級言語にも適応してくるあたり、凡人には程遠い。


 ……普通の針でも嫌だって言うのに……。


 彼女は、仮にも付き合っている体の彼氏を感染症にでもかからせたいのか。足元でガソリンに火をつけてしまうと、自身まで巻き添えになると言うのに。


 ……でも、佐田さんが止まらなくなるのは防げたな……。


 兎にも角にも照明の電源が押されて、熱暴走で空中分解しそうになっていたターボエンジンは鎮静化されたようであった。致命的なエラーを起こしていれば、隆仁は芸能人よろしく謹慎処分が下っていたであろう。


 『もう、今日はこのくらいで勘弁してくれ』。ささやかな隆仁の希望が現実味ようやく帯びてきた。そのはずだった。


 宇宙誕生からいくつもの時代を超えて、ガラクタの中に放置された宝物がある。全盛期の輝きを失ったベテラン選手マスコットに、今は亡き球団のユニフォーム。左右が見えずに泥を這いつくばった、向こう見ずな少年の一コマ。プレミアとばかりに手数料を徴収されるだけの代物だが、解剖しても見つかることの無い『人の想い』が詰まっている。


 彼女は、何かを思い出したようである。記憶から擦り切れようとしていた、忘れ物を。


「……医学部の人って、どれぐらい稼げるんだろうね……?」

「人に聞くより、まず調べてみたらどうなんですかね佐田さん」


 金の化身なる者、煙の立っている現場へと足を運ばないわけがない。においを嗅ぎつけた賢狼は、本丸に奇襲するより外堀を埋めていくことを選択したようだ。


 ……それくらい、調べたらでてくるでしょうに……。


 答えを人に聞いてばかりでは、学業の成績は伸び悩む。未使用の新品な脳など、生前には理想像から最も離れた位置にある駄物だ。


 移植用の脳として高額取引されたくなければ、思考力などという抽象化の元帥を鍛えて行かなくてはならない。ストレスがかからずに消耗しなかった脳に付加価値があるのかどうかは、今後の研究対象としてどこかの大学に願いを託す。


 結莉に命令したところで、明日になってもしつこく答えを求めてくるのは何となく想像がついてしまう。


「……だいだい一千万円くらいだったかな?」

「そんなに!? それじゃあ、須藤くんも……」

「……ベテランと初心者の年収が一緒な訳ないんだよな……」


 全年代の年収が同一であったのなら、若者が希望を失って外道の道へと寄り道することはない。金欠に対処するために、グレーや黒の仕事に就くのである。


 年功序列が撤廃されたと名は売ってあっても、成果主義に切り替わったわけでもない。結局、長年続いたシステムは全て置き換えられないのだ。


 姫君がご乱心を起こしたのか、隆仁の腕が逃げられないように掴んだ。


 ……アホ毛の件は解決したはずだぞ……?


 今日時点では、ATMになりそうなネタを仕入れられてはいないはずである。


「お医者さんって、こうやって手術するんだよね。メス! メス! メス! メス! ……」

「人間の体を三枚おろしにでもするつもりかよ……」


 野球でも開ければ、剣術でもない。二刀流で執刀をされても、不用意に欠陥を傷つけて患者も自身もジエンドだ。ドラマのようにどんでん返しはない。


 ……絶対に、佐田さんに生物なんかやらせたらいけないな……。


 結莉に生物学の道へと進ませては世界が崩壊する、と危機感を覚えた隆仁なのであった。

これにてアホ毛&医学部編は終了です。


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