8足目 絵本と靴下
家に帰ってきて小春とご飯を食べ終えた後。
甘太郎に話を聞いてほしい、とKINEでメッセージをとばすと
いいぜ!
と即レス。小春が風呂に入ってるうちに済まそうと早速通話ボタンを押す。
「おっすおっす」
「いまかけて大丈夫だったか?」
「平気だぞ。んでどうしたよ。まさか予感的中か?」
「ああ。しかも今度は片靴下の代わりにハンカチが入ってた。肥田さんはストーカーだっていうし、マジで怖くなってきたんだけど」
「ポケットにハンカチ?怖すぎなんだけど!ここまでくると、部長さんの言う通りっぽいよなぁ」
「あんまり考えたくないけど、やっぱりそうなのかなぁ」
「でもなんのためにハンカチをわざわざ入れたんだ...モモに認識してほしかったとか?」
「こっわ」
「うーん、取られた他には何か変わったことなかったのか?」
変わったことかぁ。肥田さん、靴下、ロッカー...
「あ、そういえば」
しまったはずの靴下が外に出てたのは、ただのしまい忘れだったのか?...つい考えこむ。
「モモ?どうした?」
「いや、なんでもない。気のせいだわ。」
「そうかい。で、そのハンカチは今どうなってるんだ?」
「ハンカチなら持ち帰ってきた」
あ、まだポケットに入れっぱなしだった。今思い出した。
「...モモ、嗅いでみれば?」
「嫌だ。何を言い出すんだお前は」
「可愛い女の子のハンカチかもしれんぞ」
「違かった場合はどうする。大体ストーカーのハンカチかもしれないんだぞ」
「えー、そのときはその時で...」
「なんならお前が嗅ぐか?明日も持っていくつもりだし」
「遠慮しとく」
「自分で嫌なことを他人に勧めるんじゃないよ」
その後、くだらない話で盛り上がっていると小春がリビングに戻ってきた。
「にいちゃん、おふろあいたよ」
「お、ありがと」
「というわけだ甘太郎、今日はもう風呂に入って寝る。また明日な」
「おう!じゃあな〜」
電話が切れる。
振り返ると小春はカップアイスを持ってテレビの前に座るところだった。
「じゃあにいちゃんは風呂入ってくるから」
「いってらっしゃーい!」
つめたそうにアイスを頬張る小春を横目に風呂へ向かった。
風呂から出ると、さっきアイスを食べていた場所で小春が絵本を読んでいた。
「読書か、何読んでるんだ?」
そういって後ろから覗き込むと、地球の断面図が大きく描かれたページを読んでいた。地球の中が空洞になっているように見える。
「『ちきゅうのうらがわ』って本だよ、おすすめされて図書室で借りてきたの」
「ほ〜、でもにいちゃんが知ってる地球の断面図と違うな」
「そうなの?まだ習ってないや」
「習うのは中学校に入ってからだった気がする...ほら、みてみな。」
スマホで地球の断面を調べ、小春に画像を見せながら指で説明していく。
「まず地表が、みんなの住んでるところ。その下に地殻、マントルっていう岩の層があって、その中心に地球の核っていうのがあるんだけど...」
「にいちゃん、全然わかんない!」
無邪気な顔でそう言われ、人に説明するのって難しいなぁとしみじみ思う。
「うーん、地球の中は岩でみっちり詰まってるっていえばなんとなく分かるか?」
「分かるけど...そうなの?ぬんちゃんと、この絵本が言ってる地球の中身とちがうね〜」
「ぬんちゃん?」
「この前できた友だち!遠い国のいろんなこと知ってるの!」
「すごい友だちができてよかったなぁ」
帰国子女かなにかだろうか?まぁ小春が楽しそうだからいいか。
「にいちゃんこの本はじめから読んで!むずかしいから!」
「いいけど自分で読んだほうが勉強になるんじゃないか?」
「にいちゃんに読んでもらうのがいいの!」
「しょうがないな...」
可愛い弟にそういわれたら読むしかない。小春の隣に座り、要望どおりはじめから読み始める。
『ちきゅうのうらがわ』
君は ちきゅうのうらがわを 知っているかな?
ちきゅうには たくさんの生き物が 住んでいる。
みんな知っているとおり ちきゅうの表面には
人間をはじめとした 色々な生き物がくらしている。
では そのうらがわは どうだろうか?
じつは 君たち人間のくらしている せかいのうらがわにも
人間がくらしている
それが 『エナトス』 とよばれる者たちだ
人間が ちていじんと呼んでいる者たち
都市伝せつの1つとして 聞いたことがあるだろう
ちきゅうのうらがわは 空どうになっており そこにエナトスが 住んでいる
エナトスは ちきゅうの中心に立っている
「テリコプロトス」という大きな木を だいじにしている
テリコプロトスは 命のみなもと ともいえるもので
かれてしまった時 ちきゅうはほろぶ といわれている
2かんへ続く
「続くのかこれ...?」
「おもしろかった〜!にいちゃんありがと!」
キラキラした目でこちらをみつめてくる。楽しめたならよかったよかった。
「おう、さっきにいちゃんが話した地球と全然違かったけどな。」
「いいの〜!じゃあ小春そろそろ寝るね!おやすみ〜」
そういってリビングを出ていく小春。
もう一度テーブルのうえに放置された本を手に取りパラパラとめくる。
「伝記...みたいだけど、SFテーマのただの絵本かな。エナトスって喫茶店と同じ名前が出てくるのは少し気になるけど」
試しにスマホでこの本を検索してみるが、ちきゅうのうらがわという本はヒットしない。作者も書いていない。変な本だ。
「明日クララに見せてみるかな、地底人って書いてあったか?そういうの喜びそうだし」
本を部屋に持ち帰り、バッグへ入れる。
俺も寝よう、今日もいろんなことがあった。
明かりを消し、ベッドに入るとすぐ瞼が重くなってくる。
明日こそは靴下が消えないように願いたいが...。
カーテンから漏れる光で目が覚める。
スマホを覗くとアラームを設定した時間1分前だ。
音がなる前に止め、カーテンを開ける。
サッと着替えて小春の部屋へ入る。
「ほら小春。ちゃっちゃと起きろ」
「もう朝なの〜?やだぁ〜」
毛布を引きはがすと「ひ〜」と言いながら丸まる小春。
「今日は土曜日だから半日だろ、がんばれ。さっさと起きてくるんだぞ」
そういってリビングへ降り、朝の準備を済ませているうちに着替えた小春も降りてくる。
ちょうど焼き上がった目玉焼きを皿に移し、小春の前に置く。
「いただきま〜す」
眠気と戦いながら朝ご飯を食べ始める小春。俺もさっさと食べてしまおう。
ニュースを見ながら黙々と食べていたが、本のことを小春に話していなかったことを思い出す。
「あ、小春。昨日の本にいちゃんに貸してほしいんだけど」
「わかった〜、ぬんちゃんにも伝えとく〜。」
「あぁ、よろしく。今日中に返すから」
ご飯を食べ終わる頃にはいつもの調子に戻った小春。
支度を済ませて、今日は一緒に家を出る。
「にいちゃん、いってきます!帰ってきたらどこかいこ!」
「いいぞ、どこ行きたいか候補考えといて。んじゃ、気をつけていってらっしゃい。にいちゃんもいってきます。」
手を振って送り出し、自分も学校へと向かった。