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俺の靴下が片方ないっ...!!  作者: 三食咖哩
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5足目 オカ研と靴下

ホームルームが終わった後、隣のクラスへと顔を出す。


「番長〜!ごめん、今日ちょっと部活遅れる!」


「おう、待ってるからな」


特に理由を聞くこともなく、席に座ったままこちらにひらひらと手を振る番長。また後で、と言ってクラスへと戻った。



甘太郎とクララが話をしていたので、横から声をかける。


「おまたせ、行けるよ」


「モモくんおつかれさまデす。ではお二人も適当な席に座ってくだサい」


「ん?」

「え?」


甘太郎と顔を見合わせる。


「ふたりが不思議そうな顔をしているのも当然でショう...」


「このオカ研もといオカルト研究同好会、発足したばかりで申請中なので部室なんてものはありまセん!」


静まり返る。ウ、ウソだろ。みんなに丸聞こえじゃないか。

俺の事情を知っていて横でクックックッと笑う甘太郎。もしや部室がないことも知ってたのか?コイツ。


「ここでやるしかないの?もうちょっと人気のない空き教室とか...」


「正式に受理されるまでは借りれないんだそうです...トホホ」


クララが肩を落とす。トホホって死語だろ。

せめてクラスメイトがはけてくれればいいんだけど...そういうわけにもいかないか...?


「ま、申請中ならしょうがないよな。諦めろモモ」


見透かしたように肩を叩かれる。元はと言えば甘太郎のせいなんだが、もうどうでもよくなってきた。


「そうだな。もうクララに聞かれた時点で詰んでたということにしよう」


「それはどういう意味でしょウか?モモくん」


首を傾げて不思議そうにこちらを見るクララ。頭上にハテナマークが浮かんで見えるようだ。


「ごめん、気にしないでくれ。それで話を聞いてくれる人っていうのはいつ来るんだ?」


「じきに来ると思いマす。それまでは私の専門領域でもお話しまショう」


「ほー。昼休みにも専門が違うって言ってたな」


甘太郎が興味深げにつぶやく。


「ええ、部員それぞれ好きなものが違うノで。今部員にいるのはUMA専門の子と、心霊全般が専門の子でスね。」


「クララちゃんの専門は?」


「ふふ、私は――」


「失礼します」


クララが言いかけたタイミングで教室の扉がガラガラッと勢いよく開き、艶のある青髪の女子生徒があらわれた。


「あの子が部員ちゃん?」


「イエス、青水(あおみ)ひなちゃんといいマす。」


「どうも青水ひなちゃんです」


口調は落ち着いているのに声がでかい。そんな青水さんが話しながら近づいてくる。


「UMA、といっても未確認生物だけじゃなく妖怪や伝説の生き物みたいなものも好物よ。よろしく」


「よろしく、俺は神崎(かんざき) 甘太郎(かんたろう)だ」


ニッと笑って甘太郎が答える。


「よろしく、カンカン。いえカンちゃんのほうがいいかしら」


「どっちでも好きな方で呼んでくれていいぞ」


「そうね、それで隣のあなたは?」


ずいぶん馴れ馴れしいやつだなぁと思っていると、視線をこちらに移して尋ねてくる。


「百束睦季です、よろしく」


「ひなちゃん、この人がお昼に話した人デす」


「ふーん、あなたが。...よろしく、ミスターソックス」


は?馬鹿にしてるのかこいつ。馴れ馴れしいだけじゃなく失礼ときた。

カチンと来たがすぐ隣で甘太郎が吹き出した。


「よ、よろしくミスターソックス!プフっ」


「しばくぞお前」


そういって甘太郎の程よく脂の乗った脇腹をつねりあげる。


「あだだだだすまん!ごめん!許して!イヒヒッ」


ギュッ!!!!!


「ちぎれるやめて!」


「ちぎれてから存分に後悔しろ」


そのやり取りを見ていた青水が顎に手を当てながら口を開く。


「ふむん、気に入らなかったのね。ごめんねミスター」


「普通によんでくれればいいから...。」


「善処しましょう」


これは期待できない。まぁ謝ってくれたしそこまで悪いやつでもないのか?


パン。とクララが手を鳴らす。


「さ、自己紹介も済みましたし本題に入りましょウか。」


「ええ、そうしましょう」


4人で話せるように机を囲んで座る。


「では早速ですがひなちゃん、お昼に話したとおりデす。もう仮説は立ってまスか?」


「ふむん、まずクリプティッドだと仮定するならば候補に挙がるのは小さいおじさんね」


「あの都市伝説の?」


つい口を挟んでしまった。聞いたことはあるがこんな真面目に話をするやつがいるとは...思わず驚いてしまった。


「ええ、知ってるかもしれないけど小さいおじさんは、人のものを隠したり持っていってしまったりするの」


「証言によっては同時に複数体現れたり、サイズも様々。目的は分からないけれど靴下を運び出すこともできるかもね」


「はぁ」


気の抜けた返事が出てしまった。真剣な表情をしているのに、話している内容がブッ飛んでいて脳がバグりそうだ。


「2つ目は妖怪ね、靴下の片方だけ取っていく妖怪」


「その妖怪に名前はないんでスか?」


「ないわね、迷信みたいなものだし。でもよくあるでしょう?理由も心当たりもなく片方だけ消える現象」


「あるある!靴下に手袋、ワイヤレスイヤホンなんかもよく消えるな!」


「ただ扱いが雑なだけじゃないのか?それは」


「俺は大事にしてるはずなんだ、不思議だよなぁ」


「強いて言えば妖怪靴下隠し、でしょウか?」


うーん、さっきより存在しなさそうなんだが。これバカにされてるだけじゃないんだよな?信じていいんだよな?


「あとは動物かしら。タヌキやキツネは昔話やことわざによく出てくるけど、人を騙したり物を盗んだりしてるわね」


「初耳デす!日本のキツネは凄いでスね!」


「昔話とかだと大体こらしめられたり、ネガティブなイメージの方が強いよな」


「それくらいね。ものを取っていく生物なんてあとは人間・犬・猫・鳥くらい?」 


え?もうおわり?


「なんかもっとそれっぽい説はないのか?」


「人のものを取っていくUMAなんて聞いたことないわね。ましてや思春期男子の靴下だなんてにお...ふむん」


「おい、今また失礼なこと言おうとしたろ」


前言撤回しよう。こいつは俺で遊んでる悪いやつだ。


「悪臭を放つUMAや妖怪がいるわ。仲間だと思われたんじゃない?」


プツ!今ので完全に堪忍袋の緒が切れた。立ち上がって自分の鞄を引っ掴む。


「やっぱりバカにしてるだけだろ青水!もういいわ、部活行く。」


「モモくん待ってくだサい!」


「ごめんクララ、人の不幸で遊ぶような青水のバカにはつきあってられない。あと俺は臭くないしな。」


ガタン!と立ち上がる青水。


「バカだと?考えてやっているというのに。なら試しに嗅がせてみろ、思春期男子がどれだけ臭うのか証明してやる」


「ふたりとも落ち着け落ち着け」


甘太郎が間に入ってくる。


「甘太郎、邪魔するな。これは俺の沽券に関わる。嗅がせてやろうじゃないか。」


「ひなちゃんも落ち着イて!」


「ミスターソックスのくせにこの私をバカ呼ばわりしたんだ、嗅ぐまでは家にだって着いていくぞ」


「「はぁ...」」


ため息をつく甘太郎とクララ。

ふたりとも諦めたのか、元の場所に座りなおした。


「さぁミスターソックス、嗅がせてみろ。におわない自信がないなら上履きでもいいぞ?」


「ふん、わざわざ上履きを選択肢に入れるなんてな。ご自慢の仮説に自信がないんだろ?」


「ぬかせ、なら机に座って足を上げろ。直に嗅いでやる」


そういって中腰になり、構えをとる青水。

それを座って隣から眺めている2人。


「二人ともたのしそうだねぇ甘太郎くん」

「あぁ、そうだな。でもなんでこうなったんだろうな」


鞄を置き、机に腰掛けて上履きを脱いだ。

いつの間にか教室にクラスメイトの姿はなく、グラウンドから響く運動部の掛け声だけが耳に入り込んでくる。


「来なさい!!」


「いくぞ!!」


両者の掛け声を皮切りに足を上げ、青水の鼻先に向けて真っ直ぐ足先を伸ばした――

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