惨劇
「んんー!・・・あれ、どこだここ・・・?」
目が覚めると見知らぬ場所にいた。
「頭がぼーっとしてるな・・・。」
そうだ、確か授業中に耐えきれずに居眠りをしたんだ。
それで気がついたら授業が終わって、8割はいなくなっていたな。
残ってるのは俺も含めて寝ているやつらだけだった。
『寝てたんじゃなくあれは―――だった。』
そんで近くで寝ているやつを起こそうとしたら、後ろから声をかけられたんだ。
『違う。本当に―――かを確認しようとしたんだ。』
そんで肩を貸してもらって保健室に来たんだったな。
「あれ?そういえばあの人はどこにいったんだ。」
保険室の中を見渡すが誰もいない。
時間はあれから1時間しか経っていないようだ。
ここにずっといてもあれだし、あの人を探そう。
ベットから降りて廊下に向かう。
その時、何故か視界に掃除用具箱が目に入った。
『見るな。』
何故か酷く気になる。
『それは開けちゃいけない。』
ちょっと開けてみよう。
『そこにはきっと―――が。』
取っ手に手をかける。
『やめろ』
そのまま開く。
「―――――――。」
掃除用具箱の中には当然のように掃除用具が入っていた。
「まあそうだよな。何を警戒していたのやら。」
気を取り直して廊下に出る。
あの人はどこに行ったのだろう。
物音一つしない廊下を進んでいく。
あてもなくフラフラと歩く。
俺の脚は音楽室へと向いていた。
肩を借りたときに感じた臭いが、そっちの方から漂ってきたからだ。
脚が動くままに音楽室へと入る。
本来なら部活動をしている連中がいてもおかしくない時間だ。
しかしその教室には誰一人いなかった。
そのまま教室の中を見渡して見る。
「・・・音楽準備室か。」
音楽室だからか自分の声が酷く響いた。
フラフラとした足取りで音楽準備室に近づいて行く。
中から例の臭いがする。
おそらくあの人もここにいるんだろう。
ドアノブを捻ってドアを開く。
そこには――――。
「やあ、目が覚めたみたいだね。」
予想通りあの人、青年がいた。
「あ、はい。おかげさまでぐっすり寝れました。」
「あははは。それは良かった。」
笑顔で迎えられたので若干緊張を解く。
「そういえば君さ。」
若干声のトーンが落ちたような気がした。
「保険室の掃除用具箱は見たかい?」
なぜそんなことを聞くのだろう。
よくわからないが正直に答える。
「はあ・・・。何か気になったんで見てきましたけど・・・。」
「あははは。そっかそっか。―――を見たんだ。」
よく聞こえなかった。
何を見たというんだ。
「わからないって顔してるね。脳が理解するのを拒否しちゃったのかな。」
「はい?なんのことですか?」
青年はよくわからないことを言っている。
「うん。どうやら君は脳の一部が壊れちゃったみたいだね。」
「え!そうなんですか!?」
「くすくす。自覚がないんじゃ絶望的だ・・・。」
「笑いごとじゃないですよ!?なんとかならないんですか!?」
「あははは!脳がいかれたんじゃどうしようもないな。」
「そんな・・・。」
「ふふふ。君はもっと心配すべきことがあると思うんだけどね?」
「え?何がですか?」
「やっぱり脳が壊れてるね。簡単に言うとね君も用具箱にあった―――と同じになるってことさ。」
どうも耳の調子がおかしい。
一番重要な部分が聞き取れない。
「すいません。聞こえなかったんですが、用具箱にあったなんでしょう?」
「そうかそうか。用具箱じゃなくてもいいんだけどね。」
「他にもどこかにあるんですか?それって俺も見てます?」
「あははは。もちろんだよ。だって、君の目の前に転がってるじゃない。」
青年がそう言った。
俺は目の前を見てみる。
そして顔を回して準備全体を見回す。
「どこにあるんですか?何も見当たらないんですが。」
「あははは。やっぱり脳がいかれたみたいだね。こんな大量に転がってる―――が見えないんだから。」
まただ、俺にはどうしても一番重要な場所が聞こえない。
転がっている何が見えないというんだろう。
俺の目の前には―――しかないのに。
青年の言うことはよくわからない。
「まあいい。君にこの薬をあげるよ。」
「なんですかこの薬?」
「楽にしてくれる薬さ。」
「麻薬とかじゃないですよね?」
「あははは。あんな一瞬の物じゃないよ。永い間楽にしてくれる薬さ」
「ふーん。じゃあ好意に甘えていただきます。」
「はい。水だよ。」
「ありがとうございます。・・・なんかこの水、鉄臭くないですか?」
「そんなものだよ。」
「そうですか?それじゃあいただきます。」
鉄の臭いがきつい。
これは一気に行った方がよさそうだ。
「んっ!」
「おお!一気に行ったね。」
「不味い・・・。」
「それはそうだろう。それがうまいなんて言ったらそいつは人間じゃないよ。」
「そうなんですか・・・。」
おかしいな瞼が重くなってきた。
凄い眠気だ。
耐えられそうにない。
「すいません。なんか眠くなってきました・・・。」
「薬の効能だよ。君は気にしなくていい。」
「・・・そう・・・ですか・・・。」
俺は意識を保てずそのまま床に倒れる。
床はなぜか水浸しだった。
しかし、俺はそのことを理解する前に意識が落ちてしまった。
「そう、気にしなくていい。」
そういうと青年は今しがた倒れた少年に近づいて行く。
「君もすぐ、そこに転がっているその子と同じ末路を辿るんだから。」
倒れた少年の隣には血まみれの死体が転がっていた。
彼が通ってきた音楽室・音楽準備室の壁という壁は真っ赤に染まっており、赤く染まっていないところなどなかった。
「君はゆっくりと始末してあげるよ・・・。ゆっくりとね・・・。」
そしてその学校から青年以外の生物は消えた。
事件が発覚してから警察が現場検証をした結果。
その日、学校を欠席した生徒以外の全ての人物が殺されていた。
遺体は遺族に返されたが、ただ一人だけ、どんなに探しても、血液どころか毛の一本も見つからない生徒がいた。
まるで、神隠しに出会ってしまったかのように、その少年がいた痕跡はなくなっていたという。
その少年がどうなったのか、唯一遺体の見つからなかった遺族は、今も懸命に目撃情報を探しているのだそうだ。
なんか終わったような気配ですが、実はまだ続くのです。