違和感
「ふあー・・・。眠い・・・。」
授業はつまらないもの。
これについては9割の人は同意してくれるだろう。
更に今講義している先生は学校でも1・2を争う眠気を誘う先生だった。
何しろ生徒を指名することもしなければ、こちらを見向きもせずに黒板に向かって授業をしている。
授業の始まりと終わりだけ顔を向けるが、それ以外は決してこちらを見ようとしない。
しかも教科書に書いてあることを本当にそのままやっていくものだから堪らない。
声も淡々としたもので抑揚などかけらもない。
この先生に関しては睡眠薬並の効果があるんじゃなかろうか。
結局授業の終わりまで耐えきれず、睡魔に身をまかせてしまった。
目を覚ますともう授業は終わってしまったらしく、教室内に残っている人はまばらだった。
周囲を見渡すが仲のいい友達の姿は見当たらない。
「・・・起こしてくれてもいいだろ。」
腹が立ったが、寝てしまった俺が悪いのでそこまで文句は言えない。
ふと、何か違和感あった。
何か奇妙な物を見た気がしたのだ。
周囲を見渡す。
俺以外にも何人かいる。
皆俺と同じように寝てしまっている。
全員起こしてもらえなかったのだろう。
『駄目だ。』
それだけのはずなのだ。
『それ以上見ちゃいけない。』
しかし、何故か心の奥の方が納得していない。
『それに気がたら戻れなくなる。』
知らず鼓動が速くなっている。
『引き返せ。』
自分でもわからないが体中から嫌な汗が噴き出してきた。
『引き返せ引き返せ。』
一番近くで寝ている人に近づいて行く。
『引き返せ引き返せ引き返せ。』
近づいて行くに連れ、何か異臭がすることに気がついた。
『駄目だ駄目だ駄目だ。』
もう寝ている人の真横まで来た。
『それを見るな。それは―――だ。』
寝ている人に手をかけた。
『―――だ。見なくてもわかるだろ。』
手に当たる感触がおかしい。
『当然だ。それは―――なんだから。』
手に力を籠めた。
『やめろやめろやめろ。』
俺はそれを見る覚悟を決めた。
「君!大丈夫か!?」
「うわあ!!!!!」
その直前、後ろから声をかけられた。
驚いて慌てて振り返る。
「あ、脅かしてすまない。何か様子がおかしかったものだから・・・。」
「あ、いえ。俺こそ驚かしてすいません。」
声をかけてきたのは気の良さそうな青年だった。
後ろを振り返る。
これだけ騒いだにも関わらず起きる気配がない。
『当たり前だそれは―――なんだから。』
先ほどまで感じていた嫌な気配も消えてしまっていた。
「大丈夫かい?顔色が良くないみたいだけど・・・。」
「あ、はい・・・。ちょっと気持ち悪くなっちゃって・・・。」
「それはいけない!すぐに保健室に行こう!ほら肩を貸して!!」
「あ、ありがとうございます・・・。」
思った以上に疲労していたらしく体がうまく動かなかった。
仕方なく好意に甘えさせてもらうことにする。
青年の肩に寄りかかる。
『一瞬、―――と同じ臭いがした。』
「じゃあ移動するよ。」
「あ、はい。お願いします。」
ゆっくりと移動を開始する。
この教室からなら保健室はすぐそこだ。
不幸中の幸いだったかもしれない。
青年に連れられ教室を出る。
いつもなら騒がしいはずの廊下がとても静かだった。
『それは皆―――になってるからだ。』
すぐに保険室に着いた。
「近くて良かった。実はちょっと重くて辛かったんだ。」
「すいません。ありがとうございました。」
ベットに寝かしてもらう。
極度の疲労からか、横になった瞬間眠気に襲われた。
「ん?眠いのかい?」
「そうみたいです・・・。」
「そうか、じゃあしばらくしたら起こしに来てあげるよ。」
「はい・・・お願いします。」
「ああ、まかせて。」
睡魔に襲われていてぼやけていたが、目を閉じる寸前、青年の顔が醜く歪んでいるように見えた。
「おやすみ・・・。」
「・・・おやすみなさ・・・。」
俺はそのまま眠りについた。