第52話 最後の格式奥義
爛刀『珀亜』の格式奥義は正常に作動し、世界を崩壊させる爆発が起こった。
しかし、絢刀『詩向』によって爆発力をコントロールされ、世界そのものではなく蛮刀『長利』と結刀『愛紗』によって繋ぎ合わされた十本の刀を連鎖爆発させる結果となった。
全ての刀と契約しているサヤも例外ではなく、本来であれば木っ端微塵になっているはずだった。
「剣のおにいちゃんは爆散しちゃったねー。ばいばーい。てかさー、アリサのせいでサヤちんまで死んじゃうじゃん」
「これがわたくしの望んだ未来ですから仕方がありません。サヤも覚悟は決まっていたようですし、このまま身を任せましょう」
誰もアリサを攻めることはなかったが、我慢を知らないクシマが遂に口火を切る。
「アリサちゃんらしいと言えばらしいですが、訳も分からずこの世界に召喚された子を起爆剤にするのはいかがなものかと思いますね」
「あたしたちが救われたのは事実だし、結構がんばってたと思うけど」
サヤと過ごした時間が長いヒワタとライハが擁護する。
二人に続くように他の義姉妹も口々に意見を述べ始めた。
「サヤ殿は優しい方でござる。センナを放置しない為に能力を使うなって言ってくれたでござるよ」
「じぶんは共に過ごした時間が短かったですが、人間にしては心が澄んでいる方なのです」
「こなたも断言しましょう。勇者様は思いやりに満ちた御仁です」
早期から仲間になっているセンナはともかく、スミワとアイシャにとっても好感度が高いことが意外だったのか、アリサはしっかりと彼女たちの目を見て話を聞いている。
「むぅ、儂にとってはそうじゃな。アリサへの信頼度に驚いたというのが素直な意見じゃ。目の前で殺すつもりだったと言われてもなお、お主の願いを優先するなどなかなかできることではないと思うがのぅ」
「お前様、かわいそう」
アリサは罰が悪そうに目を伏せた。
「主人の願いは元の世界に戻ること。それはわたしと会ったときからずっと言い続けていることよ。本当は知っているのでしょう。帰還方法を――」
伏せていた目を開けて、ヴィオラを見つめる。
「答え合わせをしましょうか」
ヴィオラは自信満々に言い放った。
「結刀『愛紗』の奥義で十刀姫と契約を結ぶ。絢刀『詩向』の奥義でこの世界とあの人の世界を接近させる。糸刀『繊那』の奥義で二つの世界を繋ぎ止めて、爛刀『珀亜』の奥義で元の世界に到達する。十刀姫の所有者は寒刀『氷綿』の奥義で熱から守る。これならわたしたちを破壊すると同時に帰還が可能よ」
「それは……」
ヒワタが悲しげに呟く。
「そう。あの人は全員とは契約できなかったから格式奥義を使えない。だから諦めていたのよ」
「うぅ。サヤ殿ぉ。センナが不甲斐ないばっかりに」
アイシャがとめどない涙を拭うセンナの肩を抱いた。
「しかし、こなたの能力で全員と契約している今なら二人の格式奥義を使えます」
「不確実なのよ! 最後まで『珀亜』を握っていないとわたくしたちの破壊が中途半端になってしまうかもしれない。そんなことは許せません! 必ず葬って欲しい。この苦しみから解放して欲しいの!」
アリサの赤紫色の瞳からも大粒の涙が溢れた。
「今からでも遅くないわ。シムカが大爆発を抑えてくれている今ならまだ間に合う。気を失っている主人のスキルを強制発動させることができるのはアリサだけなのよ」
子供を諭すようなヴィオラの優しい声と言葉にアリサが顔を上げる。
「次はひとりぼっちにしない。約束するわ。ずっと十人一緒にいましょう」
ヴィオラがアリサの涙を拭う。
他の八人も身を寄せ合い、アリサを抱き締めた。
「シムカ、センナ、ハクア、ヒワタ、準備をしてください。アイシャも、もう一度わたくしたちの魂と命をサヤに結びつけてください」
鋭い目つきに戻ったアリサが気絶しているサヤの中にあるスキルを強制的に発動させる。
「結刀『愛紗』、格式奥義――愛月撤刀」
より強固にサヤと十刀姫が結びつき、十一人が溶け合う。
「絢刀『詩向』、格式奥義――力戦奮刀」
大気が揺れ始め、何かとぶつかったような衝撃を受ける。
本来であれば、次に勇者召喚の儀式を行えるのは二つの世界が最も近づく500年後のはずだった。
しかし、絢刀『詩向』はありとあらゆる常識を否定する。
「糸刀『繊那』、格式奥義――一望繊繋」
二つの世界を引き寄せた上で眠ったままのサヤ自身と彼が生まれた世界を繋ぎ合わせる。
「爛刀『珀亜』、格式奥義――自暴死姫」
大爆発は二つの世界の一部を破壊し、空間に亀裂が入った。
亀裂の隙間から向こう側の景色が見えている。明らかに十刀姫の生まれた世界とは違った。
「寒刀『氷綿』、格式奥義――月下氷尽」
眠ったままのサヤが消滅しないように十分に冷却する。
「これで、あなたの願いは叶えられたわよ。さようなら、愛しい人」




