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第50話 思惑

「……マきょ…。サヤマ……。サヤマ卿!」


 薄く目を開けるとォショウさんとレィジーンさんの顔があった。

 二人とも無事そうで良かった。

 それにしても体を起こそうにも全く動かない。


「あれ? ここは?」


 二人の顔の隙間から見える真っ白な天井は見たことがないものだ。

 どこかへ場所を移したのかな。


「やれやれ、気を失っていたサヤマ卿を王宮に連れてきたのだが」


「もうお盛んなんだから~」


「え……?」


 首を持ち上げて布団の中を覗くと僕を取り囲むように十人の女の子がベッドにいた。

 みんな僕の腕や足にしがみついて寝ている。

 センナには頭をホールドされているし、クシマは上に乗っかっているし、とんでもない状況だ。


「あれ!? ナガリは!? 僕は鞘を作成できたの!?」


 飛び起きた僕に続き、ヴィオラたちが布団から這い出てくる。

 いつの間にかォショウさんとレィジーンさんは退室していた。


「あはよう、あなた。一週間ぶりね」


「えぇ!? 一週間も寝てたの!?」


 ヴィオラたちの話では剣となったナガリがゼィニクを操り、突撃していたが僕の作成した鞘に吸い込まれるように納まったらしい。

 彼女たちの指さす先には厳重に縛られた無地の鞘が壁に立てかけられていた。


「あの男と同じようにあなた自身が鞘になってしまうのかとヒヤヒヤしたわ。本当に良かった」


 だからといって全身をまさぐられるのはちょっと……。

 

 そんな僕たちのやり取りが見えているのか、声が聞こえているのか、ナガリを納めた鞘がカタカタを震えている。


「このままナガリを封印しておこう」


「そんな甘い考えは許しません。わたくしを抜いたからには徹底的にやらなくてはなりません!」


「これでいいんだよ。死ぬよりも辛いことがあるってことはアリサが一番知っているはずだ」


「だからこそです! 膨れ上がった憎しみはやがてサヤを殺します! だからこそ先に殺しておくべきです!」


「分かってる。分かってるよ、アリサ。きっと最後は全部きみの思い通りになる。だから、今はこのままでいいんじゃないかな」


 煮え切らない僕が気にくわないのだろう。

 アリサは唇を噛み締めながら、ナガリを納めた鞘を睨みつけている。


「僕を使って十刀姫を一カ所に集めようとしていたよね。その理由を教えてよ」


「わたくしたちを苦しめた皇帝の末裔に復讐するためですわ。わたくしは不完全すぎて、一人では何もできない。だから最も扱いにくいとされている『美蘭ヴィオラ』を使用できる者に使ってもらい、皇帝を殺すつもりでした。それなのにゼィニクがサヤを追放するから無駄に時間をかけてしまいました。それに手柄を奪われましたし」


 アリサは一呼吸置いてから話を続ける。


「皇帝もゼィニクもつるぎの勇者も、なんならォショウたちも殺して、一番最後に『珀亜はくあ』を収集していただき、わたくしたち全員と一緒にサヤも殺すつもりでした」


 開いた口が塞がらない。

 僕はこんなにも危険な人物の選任騎士を任されていたのか。


「儂は薄々気づいておったから、おサヤに忠告したのじゃ。それなのに聞く耳を持たず、アリサにばかりデレデレしおって」


 それならそうだと言ってよ。

 別にシムカさんを信じていなかったわけじゃないけど、一回しか会ったことのない人よりも自称皇女様を優先しちゃうって。


 目覚めてから数日が経ち、僕の体もようやく自由に動かせるようになった。


 僕が眠っている間に帝都の復興が始まり、各領主を集めての会議も開いたらしい。

 ォショウさんとレィジーンさんが中心になって復興作業を進めているということだ。

 クッシーロ領は変わらずトゥリョウさんが政務を行ってくれて、そちらも問題はないらしい。


「サヤ様、戴冠式にいきますよ」


「戴冠式って誰が新しい皇帝になるの? まさか、僕!?」


「そんなわけないでしょ。あなたは黙ってて」


「はい」


 正装姿のヴィオラに叱られながら僕も服を着替える。

 用意されていた服は純白の騎士服ではなく、僕がこの世界に召喚されたときに来ていた高校の制服だった。


「これって」


「わたしがずっと持っていたの。今日はこっちで出席よ」


 久々に袖を通してもしっくりと馴染む。着慣れているなら当たり前なんだけどね。


 戴冠式が始まり、ステージの上に立っているのはアリサだけだった。

 本当は皇女の身分ではないけれど、事情を知らない国民にとって彼女は本物の皇女様だ。

 アリサは最後までその身分を演じるつもりでステージに立っている。


 名前を呼ばれたォショウさんが壇上に上がり、アリサが王冠を頭に載せたことで会場中が拍手に包まれる。


「新皇帝となったォショウである。これまでの皇帝は力こそが全てという考えだったが、我はナイトオブクワットロでありながらもこの世界の在り方に疑問を抱いて生きてきた。この帝国から差別や貧困を無くし、未来をより良いものにしたい。そのために皆の力を借りたいと思う。協力して欲しい」


 ナイトオブクワットロとして前皇帝に忠誠を誓っていたけど、ォショウさんは弱い者の味方だった。

 あの人であればこの国を、いや世界そのものを変えられるかもしれない。


 その後、新皇帝の命令でナイトオブクワットロの撤廃と十刀姫の所持禁止が言い渡された。


 無事に式を終えて、来賓が帰った大広間はやけに広く感じる。


 ォショウさん、レィジーンさん、トゥリョウさんたちが見守る中、シムカとハクアが僕の前に立った。

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