第49話 勇者のスキル
「おい、この縄を解いて獄刀をよこせ」
本当に核刀『澄和』の格式奥義を発動できたのか心配だった僕はナガリを縛り、十刀姫の鞘を探した。
核刀『澄和』を適切に扱う為には対象者の過去を十分に知る必要がある。僕はナガリについて知らなさすぎて彼の人格形成に関わっている出来事が分からない。
だから不安しかなかった。
あちこちに散らばった鞘を一つ一つ回収してヒワタたちを納めていく。
そうこうしていると意識を取り戻したナガリがぶっきらぼうに声をかけてきた。
僕は地面に置いたままの獄刀『双刃』を拾い上げ、その刀身を見つめる。
ピッタリとくっついてしまった絢刀『詩向』と爛刀『珀亜』を元の二本に戻すことなんてできるのだろうか。
そんな疑問を抱きながらも核刀『澄和』の奥義が成功していると信じて『双刃』をナガリに渡した。
これでまた暴れ出しすようであれば近距離で劇刀『蟻彩』を使うと心に決めている。
でも、今はシムカさんとハクアを救い出すことを優先したい。
「スキルを解除する」
作成時よりも小さな光を放ち、獄刀『双刃』が真っ二つに裂ける。
音を立てながら倒れた二本の刀は女の子の姿に変わり、寝息を立て始めた。
「よかった。おわっ!?」
「あれ……? シムカじゃない」
突然、目を開けて起き上がったハクアは見た目も声もシムカさんにそっくりだった。
しかし、髪の色だけは清らかな白髪のシムカさんと異なり、燃えるような赤髪だ。
ハクアは僕の首筋に鼻先を押しつけ、何度か臭いを嗅いで顔を離すと小さく呟いて刀の姿になった。
「大切にしてくりゃれ」
「え? あ、うん」
訳が分からない。
臭いを嗅いだだけで状況を理解したのか?
それに基本形態が人間なのに、擬刀化している時間が長いと感覚が変化するのかな。
「慣れると擬刀化している方が楽なのよ。食事もいらないし、寝ているだけで100年くらい過ぎるから」
さすがヴィオラさんだ。伊達に500年間も引きこもっている訳ではない。
「俺は斬られたのかよ」
僕は無言で頷く。
ナガリだって好きで刀を振り回していただけじゃないはずだ。
「斬ったよ。あんまり変化はなさそうだけど」
「俺は本気で帰りたくないんだよ。元の世界に俺の居場所なんてねぇ。強いだけが正しさの証明になるなら、こっちの世界の方が分かりやすくていいじゃねぇか」
「そんなの無茶苦茶だよ」
「お前こそ、この世界に残れば皇帝になれるんだぞ。高校生が国を、いや、世界を支配できるんだ。普通じゃありえねぇ。それなのに元の世界に戻る理由が分からねぇよ」
確かにナガリの言いたいことは分かる。
元の世界で勉強して就職しても国や世界を支配できるなんてことはない。
それでも僕が帰りたい理由は――。
「戻ってヴァイオリンを弾きたいんだ。今なら最高の音を奏でられる気がする。母さんが勧めてくれた習い事のおかげでこの世界を生き抜くことができたから感謝を伝えたいんだ。それが僕の願いで世界平和とか世界征服に興味はないよ」
「んだよ。ただのマザコン野郎に俺は負けたのかよ」
ナガリは大の字で寝転がり、空を見上げた。
「僕はこれまでナガリにとどめをさせなかった。それは僕の弱さだ。でも今回は確実に仕留めるよ」
「んなことを言ってる間はできねぇな」
満身創痍の僕は全力を出せる状態ではない。
でもアリサだけはやる気満々だった。
「この男はわたくしから皇帝を殺す役目を奪った。しかし、この男が現皇帝であるなら代わりにこいつを殺します。サヤ、わたくしを握りなさい。最後まで付き合ってもらいますよ」
「……分かった」
擬刀化した劇刀『蟻彩』を鞘の中にある毒液に浸けているとナガリは笑い始めた。
「言ったろ。できねぇって。スキル発動」
仰向けになっていたはずのナガリの姿が消えて、一本の刀が宙に浮かぶ。
獄刀『双刃』を作成したことで剣の勇者に与えられた固有スキルのレベルが上がり、全く新しい剣を『作成』してしまった。
「そんなのありー!?」
「刀の作成はお父様だけに可能なはず!」
「なんて禍々しい」
クシマ、アイシャ、ヒワタが驚きの声を上げている間に剣は飛んでいき、遺体となったゼィニクの手の上に降り立った。
「う、うそ……でござる」
「なんとも卑劣な能力なのです」
「どこまでもクズめ」
センナ、スミワ、ライハが目を背ける。
その先には動かなかった筈のゼィニクを『従属』する剣の姿があった。
「ゼィニクはもう死んでいるから、『美蘭』の音も『蟻彩』の毒も効かないね」
「あなた?」
「サヤ?」
ヴィオラとアリサの心配そうな声を背に受けて振り向く。
「刀が増えたなら、鞘も増えるはずだよね」
「待って! そんなのダメよ!」
ヴィオラの泣き叫ぶ声を聞きながら、僕はスキル『作成』を発動した。




