第47話 異世界の支配者
ナガリは剣を持ち上げ、高らかに笑った。
「ハハハハハッ! これが幻の十一本目、獄刀『双刃』だ。ゼィニクのおっさんの言った通りだぜ」
作成された剣は本当に二本が合わさった物なのか信じられないほどの禍々しいオーラを放つ。
閃刀『雷覇』と同じで峰のない両刃の剣だがまったく異質のものだ。
『詩向』の力がなくなり、体の自由がきくようになったライハの機転で八人の少女が僕の足元に戻ってきた。
「みんな、大丈夫!?」
「えぇ。これくらい平気よ」
「あれが『刃』ですか。本当にシムカとハクアとは思えませんね」
「きっと痛がっているでござる。早く二人を助けに行くでござるよ」
うなだれる皇帝を無視して歩き出したナガリが獄刀『双刃』を持ち上げて、舌なめずりする。
「肩慣らしにはちょうどいい。かかってこいよ、鞘野郎」
ここまで何度も戦ってきたけど、比べものにならない邪悪さだ。
「アリサ、皇帝との話し合いは後回しにするよ」
「話し合いは不要です。わたくしはあいつを殺せればなんでもいいです」
擬刀化した彼女たちを鞘に納めて、ナガリと対峙する。
しかし、膝が震え始めて動けなかった。
そんな弱気な僕を叱咤激励するヴィオラの声が脳内に響き、一歩を踏み出して抜刀する。
「閃刀『雷覇』、格式奥義――電煌雷轟」
火打ち石の役目を持つ鞘を刀で擦り上げ、火花を散らす。
瞬きを終える頃には光を視認したナガリの頭上に稲妻が落ちているはずだった。
「甘いぜ」
稲妻は獄刀『双刃』の斥力に弾かれ、雷鳴があとを追うように虚しく響いた。
「劇刀『蟻彩』、格式奥義――降流毒蛇」
風が吹いたタイミングを見計らい刀を薙ぐと劇毒を内包するシャボン玉が無数に飛び立ち、風に乗ってナガリへと向かう。
しかし、それらも斥力に阻まれナガリの皮膚には届かなかった。
「スミワ!」
ライハの瞬間移動を利用し、目で追えないほどの速度でナガリの懐へ入る。
ォショウさん直伝の居合い術で核刀『澄和』を一閃したが、あと一歩の距離で見えない壁のようなものに弾かれた。
再び距離を取り、響刀『美蘭』を抜いたとき、ナガリが剣を天に掲げた。
「獄刀『双刃』、最終奥義――煉獄穀潰」
僕を含め、ありとあらゆる物質が引き寄せられ、『双刃』を中心にして竜巻の一部として宙を舞う。
その中には皇帝の姿もあった。
僕と同じように無重力の中で手足をばたつかせている。
「逃げてください!」
「できたらやっている! 自分の心配をしていろ!」
腰の鞘と刀たちもバラバラになって巻き上がる。
急速に竜巻が縮小すると『双刃』が発火点となって大爆発を起こした。
爆音と爆炎と爆煙が混ざり合い、どうなったのか分からない。
自分がどこにいるのか、どこを負傷したのか、そもそも生きているのか。何も分からない状態で地面に横たわっていた。
「げほっ、げほっ。なんて威力だ。……みんなは!?」
全身は軋むように痛いし、耳鳴りが激しくて自分の声すらも聞こえない。
黒煙が晴れると僕から離れた場所で皇帝が気絶していて、周囲には八人の女の子がボロボロの状態で倒れていた。
「みんなッ!」
彼女たちの服は所々が破れ、髪は焦げている。息はしているのに目を開ける気配がない。
「守ってくれたのか、僕を――」
僕の考えが甘かった。
やっぱりナガリを仕留めるべきだったんだ。
劇刀『蟻彩』でゼィニクの命を奪うよりも前に覚悟を決めるべきだった。
ナガリは横たわる皇帝の前に立ち、興味なさげに一突きする。
なんの抵抗もなく剣が皇帝の体に入り、内部で小規模な爆発が起こった。
「これで俺が一番だ」
この弱肉強食の世界を支配していた皇帝が死んだ。
ォショウさんはゼィニクにやられ、レィジーンさんはナガリにやられて治療を受けている。
そして僕は一本も刀を持たずに腰を抜かしてへたり込んでいる。
現時点で一番強いのがナガリなんだ。
世襲制なんかじゃない。その時代で一番強い奴が皇帝になれるんだ。
幻の十一本目を手に入れた異世界の支配者は嘉多 長利になった。
僕を絶望のどん底に突き落とすように、『双刃』に引き寄せられたヴィオラたちがナガリの足元に転がった。




