第46話 刀集めの理由
ゼィニクが落とした絢刀『詩向』を拾おうとしたとき、とてつもない殺気が向けられた。
「……皇帝陛下」
「久しいな鞘の勇者よ。それは余の物だ。貴様の持つ八本の刀も渡して貰おうか」
初めて立って歩いている姿を見たが、想像以上に身長が高くてガタイも良い。
筋肉質な手で拾い上げられた絢刀『詩向』がおもちゃのように見えた。
「これがシムカの擬刀化か。ゼィニクでは扱いきれなかったようだな」
まるで指揮者のように簡単に刀を振るう皇帝の手に爛刀『珀亜』は見当たらない。
シムカさんよりも先に手に入れて拷問すると言っていたが、あれは嘘だったのか。
それとも、もう……。
「これで十本目だ」
意味深なことを呟き、不気味に笑いながら一振りする。
一切やる気の感じられないただの素振りのはずだった。
それなのに大地が揺れ、空気が震える始める。
そして、どこからともなく引き寄せられた一本の刀は絢刀『詩向』に張り付き、皇帝の手に収まった。
「あれは!?」
「これこそがシムカの所有する爛刀『珀亜』だ」
爛刀『珀亜』は絢刀『詩向』と瓜二つで峰の凹凸は逆になっている。
双子の姉妹が背中合わせになるように作られているんだ。
「やっぱりハッタリだったのか」
引力、斥力、圧力。ありとあらゆる力を操ることが可能な絢刀『詩向』が隠された爛刀『珀亜』を呼び寄せたのだった。
峰の凹凸以外では全く見分けの付かない二本の刀を見ていると、僕の両腰で鞘たちは震え、鞘から刀身が見え始めた。
僕の刀も引き寄せられている!?
「ダメだ!」
合計八本の刀を同時に押えつけることができずにいるとヴィオラたちは擬刀化を解いて少女の姿に戻った。
人の姿でも引き寄せられ続けるヴィオラたちは姿勢を低くして必死にその場に留まっている。
対して僕は彼女たちから引き離されようとしていた。
十刀姫には引力が作用し、僕には斥力が作用している。
「シムカの能力って本当に厄介! このまま飛んでいってクシマ的病気にしてやろうかー」
「このままだと、じぶんたちも奪われてしまうのです」
必死に手を伸ばしても彼女たちの手を掴めない。
「うわっ!?」
片手が離れたことで踏ん張り切れず、僕は後方へと飛ばされる。
「っ! しっかりしろ」
瞬間移動したライハに抱きかかえられ建物への衝突は免れたが、更に強い引力によって折角握ったライハの手を離してしまった。
同時にヴィオラ、ヒワタ、センナ、ライハ、クシマ、スミワ、アイシャ、アリサが引き寄せられて、皇帝の足元に転がる。
次は背中から圧力をかけられ、身動きがとれなくなっていた。
「ようやく十本の刀が揃った。ここまで長かった」
僕を拘束していた力が消失し、自由に動けるようになる。
「無様だな、アリサ」
「お前を殺す! その為に500年も待った! 全身の毛穴から毒を吸わせて惨たらしく殺してやる!」
赤紫色のドレスも綺麗な髪も土埃で汚れたアリサが狂気を含む目で皇帝を睨みつける。
「ずっとその目が気に入らなかった。お前たちは500年も前を生きた人間の遺物だ。そんなものがあるからいけないのだ」
顔を引き攣らせた皇帝がヴィオラたちに刻まれた刺青を見せつけてくる。
「これは500年も前の皇帝がつけた印だ。こいつらがいる限り、余は先祖が唾をつけた刀に怯えながら生きていかなくてはならない。そんな物は不要であり、そんなものが認められている世界も不要であり、そんなものを扱える素質のある者も不要なのだ」
これが皇帝の望みか。
僕たちが召喚される前からナイトオブクワットロという部下に刀を持たせて管理して、僕とナガリが召喚されてからは刀を集め続けるように仕向けた。
「アリサがいい例だ。余の娘でもないくせに皇女を名乗り、我が物顔で権威を振るう。そして、余から響刀『美蘭』を隠した上に命を奪おうと画策していたのだ!」
アリサは皇帝の一番近くにいて、僕が召喚されるまで十本の刀が集まることを阻止し続けていた。
「そんな奴がこの世に存在していいはずがない。全部まとめて破壊してくれる!」
皇帝の顔は歪みきっていた。
この人の望みは十刀姫を一カ所に集めて、破壊することだったんだ。
皇帝は今日まで十刀姫からの復讐に怯えて生きてきたに違いない。
一番危険なアリサを側に置くなんて身の毛がよだつ。
『紅縞』と違って救う手立てを持っていない『蟻彩』は最強の兵器となりうる刀だ。
そんな彼女が感情のままに地面を爪でひっかいて足掻いている。
「なんだよ。つまらねぇ理由だな」
「なっ!?」
転移魔方陣で引力からも斥力からも逃れたナガリは一瞬の隙をついて皇帝の手にある絢刀『詩向』と爛刀『珀亜』に触れた。
「スキル発動」
ドス黒い光の中で二本の刀が浮き上がり、背中合わせとなって距離を縮めていく。
やがて峰にある凹凸が密着し、組み合わさった二本は最初から一本だったと思えるほどに洗練された剣となって姿を現わした。




