第43話 清らかな刀姫
クッシーロへ帰還した僕たちは診療所にォショウさんを任せてスミワから事情を聞くことにした。
擬刀化を解いたスミワがソファの上に正座して咳払いする。
「剣の勇者と接触したせいでシムカが十刀姫である事実が皇帝に知られてしまったのです。皇帝はあなた様が持つ五本とォショウの持つじぶん、レィジーンの持つアイシャ、そしてハクアとシムカを手に入れようと目論み、それを阻止するためにシムカは逃げたのです」
「シムカさんはこれからどうなるの?」
「あまり口にはしたくないのです」
なんて卑怯な手を使うんだ。
これがこの帝国支配者のやり方か。
僕は憤りを隠せず、拳を握り締めていた。
「ハクアとシムカさんで『刃』っていうのが作れるんだよね?」
「その通りなのです。二つが揃った場合、使い方次第では世界が崩壊するのです」
「それはどうやって作るか知ってる?」
「分からないのです。ただ、剣の勇者が鍵になるはずです」
ナガリの『従属』で十一本目の刀を従わせるつもりか。
いや、待てよ。僕は大きな勘違いしている。
「スキルだ。ナガリのスキルを使うんだ!」
僕が二つのスキルを持っているようにナガリもスキルを二つ持っている可能性が高い。
僕は『契約』でヴィオラとライハの奥義を使えるようになり、もう一つのスキル『作成』で彼女たちの鞘を作った。
ナガリのスキル『従属』は僕のスキル『契約』と対になっている。それなら、もう一つは『作成』と同じか対になっていると考えるのが自然だ。
「選択肢が増えたよ。剣の勇者を皇帝から引き離せば『刃』は完成しない。ナガリは今どこにいるか分かる?」
「エイヒメ領へ向かうように命令を受けています」
「だから『レィジーン卿を助けろ』なのか」
十個の鞘を固定しているベルトを締め直す。
「エイヒメ領に向かう。行こうヴィオラ、ライハ」
「待って欲しいのです。じぶんも一緒に行くのです。ォショウではなく、鞘を持つあなた様にしかじぶんを正しく扱えないのです」
彼女の熱い気持ちが伝わってくる。
この感覚はヴィオラやライハのときと同じだった。
スミワが擬刀化し、初めて刀身をまじまじと見た。
その切っ先はまるでペン先のような造形をしている。
核刀『澄和』を左腰にあるキラキラパウダーをまぶしたような模様が施されている鞘に納める。
スキル『契約』を発動させるとスミワとの間に縁が生まれ、僕の左人差し指に『澄和』の鍔と同じ形の指輪が嵌められた。
その後、脳内に情報が開示される。
核刀『澄和』
救うことに主眼を置いて創られ、"安楽死"を象徴としている。
対象者の過去と未来を書き換えることが可能な刀。苦痛から解放するために死期を早めて死に至らしめる。
「これがスミワの能力。これってガラスペン?」
ォショウさんから聞いた話と解離している。ォショウさんは心を斬ると言っていたけど、実際には書き換えるらしい。
抜刀すると切っ先部分には黒いインクが付着していた。
ォショウさんでも核刀『澄和』を完璧には使いこなせていなかったのか。
左腰にある三つの鞘に刀を納め、残った三人にクッシーロを任せようとしていると扉が開いた。
「水くさいじゃないですか! ここは任せて、みんなで行ってきて下さいよ!」
「トゥリョウさん」
他にも元門番のおじさんや町人や施設利用者が沢山集まっている。
彼らが大丈夫というのなら、僕はその言葉を信じるだけだ。
「トゥリョウさんに任せて正解でした。これからも領主としてクッシーロを更に発展させてください。おじさんにはこのクッシーロ更生施設の施設長を引き継いで欲しいです」
「おい、ボウズ。そんなこと」
「お願いします」
僕が頭を下げると周囲がざわめきだした。
でも、それはすぐに落ち着き、トゥリョウさんは僕の肩を掴みながら白い歯を見せる。
「必ず帰って来て下さい。ここは大将の土地なんだから!」
改めて頷き、擬刀化したヒワタたちを右腰の鞘に納めていく。
僕は左右に三本ずつ帯刀し、エイヒメ領へ急いだ。
核刀『澄和』、収集完了。




