第40話 ゼィニク、成り上がりを狙う
【ゼィニク視点】
王宮の閑散とした廊下を進むと謁見の間の扉が自動的に開いた。
レッドカーペットの先では巨大な玉座に座る皇帝陛下が待ち構え、その脇にはナイトオブハートが控えている。
わしは背後にナガリを控えさせ、ひざまずいた。
「よく来たな、ゼィニク。そして剣の勇者よ。得物はどうした? 閃刀『雷覇』と葬刀『紅縞』を所有していたはずだ」
「ライハにもクシマにも裏切られた」
相変わらずの世間知らずよ。皇帝陛下にずけずけと。
「裏切られた? おかしなことを言う。貴様は最初から信用も信頼もしていなかったではないか。スキル『従属』によって縛りつけていただけに過ぎぬ」
「くっ!」
「では鞘の勇者はどうだ? スキル『作成』で十本の鞘を作り、『契約』で十刀姫たちとの絆を育んでいる。貴様とは大違いだ」
小言を終えた皇帝陛下の視線がわしへと降り注ぐ。
「ゼィニクよ。貴様は『刀の書』を持っているな。絢刀の在処に目星はあるのか?」
「はっ。恐れながら皇帝陛下、絢刀の正体はナイトオブパワーではないかと愚考致します」
「……なんだと? いや、そういうことか」
やはりそうか。皇帝陛下は全ての十刀姫の名前と所在を把握しておられない。
これは好都合だ。
「爛刀『珀亜』を所有しているシムカは行方を眩ませた。なるほど、身分を偽っていたのか」
「ご命令とあらば、このゼィニクと剣の勇者が絢刀の回収に向かいます」
「分かった。ナイトオブハートと共に絢刀の回収を命じる」
騎士服の上から法衣を羽織るナイトオブハートは言い淀むことなく進言する。
「恐れながら陛下。ナイトオブクワットロ間の争いは禁止のはずです」
「シムカはすでにナイトオブクワットロにあらず。余の刀を持ち逃げし、身分を偽っていた裏切り者だ」
「それでは伝統あるナイトオブクワットロに空席ができてしまいます」
「貴様の目の前に適任者がおるではないか」
これは願ってもない話だ。
「……行き先に見当はついているのでしょうか」
「シムカはガッター二ィ領だろう。抵抗する場合は『珀亜』を引き合いに出せ。余の刀を取り戻して来い」
「はっ。仰せのままに」
大袈裟に片膝をついて頭を下げたナイトオブハートに続き、わしも頭を下げた。
「剣の勇者はエイヒメ領へ向かえ」
「はぁ!? なんでそんな田舎に行くんだよ」
「ナイトオブラバーを始末してこい」
なっ!?
自分に忠誠を誓っている騎士を殺めろというのか。
ドクタャブのときもそうだが、やはり容赦のないお方だ。
「結刀『愛紗』も使い方次第では強力な刀だ。ナイトオブクワットロに入るのならば十刀姫がいる。まずは余の元へ持ってこい」
この世界が弱肉強食だとは認識しているが、こうもナイトオブクワットロが入れ替わると恐ろしくなる。
何の目的があって十本の刀を欲しているのか知らんが、用がなくなったらわしやナガリも消されるだろうな。
だが、そう簡単にはいかん。最後まで抗ってみせるぞ。
「好きな剣を持っていけ。貴様は十刀姫の恐ろしさを誰よりも知っているだろう?」
ナガリが武器庫へ案内され玉座の間から出ていく。
「皇帝陛下。私めにも刀を授けていただけないでしょうか」
「つまり絢刀を持つということか?」
「許されるのであれば」
「ふむ。アリサには何度もしてやられたそうではないか。小娘にやられっぱなしでは辛かろう。自分の手で一矢報いてみるがよい。アリサと鞘の勇者は必ず来る」
さすがは皇帝陛下だ。
自分の娘でさえもこの世界のルールから逃れさせないというわけか。
「はっ! ありがたき幸せ!」
ここまでは上々だ。
あとは『刀の書 其の弐』に書かれている『刃』について尋ねるかどうか。
下手なことを言って不審がられる危険を冒すべきか。
「ゼィニクよ。『刃』についても知っておるな」
そちらから聞いてくれるとはありがたい。
わしは素直に肯定した。
「余は『刃』は求めておらん。十一本目の刀などに興味はない。とにかく十本あれば良いのだ」
「左様ですか。十本の刀を集めて何をなさるおつもりですか」
おそるおそる問うてみたが、答えは返ってこなかった。
「申し訳ありません」
わしはこれ以上の詮索を諦めて、絢刀を回収する為にナイトオブハートを追った。




