第39話 血の契約
「それではお嬢さんの交際を認めるつもりはないということですね」
「その通りです。うちの娘は貴族と結婚させます。ただの平民の元へ嫁がせることはありません」
いかにも頑固親父といった様相の領主と直接話をするレィジーンさんには何か秘策があるのだろうか。
いきなり、刀で切りつけることはないと思うけど。
「ダメね~。どうする~?」
この人、考えなしのくせにアポなしで領主に面会したのか。
ヒコシは落ち込んでいるし、彼の想い人と会うことは叶わないし、踏んだり蹴ったりじゃないか。
「末席くん、あの女の子を連れ出せる~?」
「その気になればできますけど、僕に犯罪者になれと言うのですか?」
「仕方ないでしょ~。どうしても欲しいのなら力づくよ~。それがこの世界のやり方だもの~」
ヒコシの方を見ると彼の目にはまだ闘志が宿っている。
そこまでの覚悟があるのなら僕も腹を括ろう。
ヒワタに手伝ってもらい、領主官邸からオリメを連れ出すことに成功した。
レィジーンさんは二人を前にして見たこともない真剣な表情で説明を行う。
「二人がどうしても結ばれたいのであれば、その願いを叶えてあげる。でも代償を払うことになるわ。それでいいのならこの書類にサインをしてちょうだい」
顔を見合わせたヒコシとオリメは懐から取り出された書類を熟読しサインを書き終えた。
「腕を出して」
結刀『愛紗』を構えたレィジーンさんはヒコシの腕を薄く切った。
刀身に付着した血液が伸びて、そのままオリメの腕を切ると二人の血液が混ざり合い、互いの体内に戻って行く。
傷からの出血はすぐに治まり、二人は何事も無かったかのように顔を見合わせた。
「これでいいわ~。じゃあ、依頼達成ということでお幸せにね~」
「え!? これでいいんですか!? 本当に!?」
「いいのいいの~。二人も納得していることだしね~」
レィジーンさんに背中を押されて逃げるようにエイヒメ領へ続く道へ向かう。
「一体何をしたんですか?」
「結刀『愛紗』は男女を結びつけるの~。切ってお互いの血液を混ぜ合うことで強制的に永遠を誓わせることができる。文字通り血縁関係を結べるってわけ~」
なんて能力なんだ。
恋愛経験のない僕からすればとんでもない刀なんだけど。
「ただし、デメリットもあるわ~。お互いの心が離れて少しでも別れたいと思った瞬間、二人の混ざり合った血液が体内で爆発するの~。仲良く心中しちゃうってわけよ~。だから結刀『愛紗』を使うときはちゃんと説明してサインを貰うようにしているの~」
なんて恐ろしいんだ。
真面目なアイシャの能力と言われれば納得してしまうけど、絶対にやられたくない。
レィジーンさんが刀を持ったときには近付かないようにしようと心に決めた。
「勇者様。この度はご同行していただき、ありがとうございました。こなたの力を知っていただけたようで嬉しい限りです。今後ともレィジーン様と仲良くしていただければ幸いです」
「ど、どうもありがとうございます。お世話になりました」
「ヴィオラから契約を結んでいるとお聞きしました。お二人の仲がいつまでも続くことを心よりお祈りいたします」
なんか嫌な予感がするけど、さすがのヴィオラも寝込みを襲ったりなんてことはないだろう。
「そうそう。もしものことがあったらアイシャちゃんをお願いしてもいいかしら~?」
「構いませんが、あまり不吉なことを言わないで下さいよ。ォショウさんからもスミワを頼むと言われていますし。ナイトオブクワットロのお二人がやられることなんてありえるのですか?」
「この世に絶対はないからね~。末席くんと同じで私たちも偶然、今日まで生き残っているだけよ~。ドクタャブを見てればよく分かるでしょ~」
確かにそうだ。
僕はドクタャブに勝ってこの地位を獲得した。
別の誰かと戦っていた可能性だってあるんだ。
「分かりました。もしものときはアイシャは僕が保護します」
「ありがと~。じゃあ、次の会合でね~」
ご機嫌に腰を振りながら帰って行くレィジーンさんを見送る。
僕が鞘を持っているからォショウさんもレィジーンさんも僕に十刀姫を任せようとしているのか。
それともなにか別の理由があるのか。
「余計なお世話かもしれませんが、スミワもアイシャもいずれはサヤ様の鞘に納まりますよ」
「それは、つまり……」
「ずっと耐えていたアリサが動き出し、隠していたヴィオラを解き放つ。次々と十刀姫の居場所を突き止めてサヤ様に接触させる。このタイミングでナイトオブクワットロの二人と接触させる。全てアリサが仕組んだ可能性が高いと愚考します」
聡明なヒワタがそう感じて、考えているなら間違いないだろう。
これから何かが起きるんだ。
この世界の人たちも十刀姫たちも知らないような何かが。
それを知っているのは皇帝陛下だけなのか、それとも彼女たちのお父様だけか。
どうなったとしても僕の目的は変わらない。
残り五本の刀を集めて、元の世界に帰る。




