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第38話 恋愛成就の旅

 ホウリュージー領訪問を終えた僕の元に一人の男性が駆け込んできた。


「勇者様に聞いて欲しいことがあります! 実は好きな人がいるんですけど」


 ここは恋愛相談室じゃないんだけどな。

 でも、真剣な顔だし真面目そうだからちゃんと聞こう。


「相手が領主の娘なんです。いわゆる箱入り娘ってやつで、親に内緒で会うようになってもうずいぶん経ちます。交際したいんですけど身分の差がありまして」


 話を聞くことくらいはできるけど、それは僕に相談しても解決できないことだ。

 この世界は身分の差が激しい。

 僕は騎士の称号と爵位を賜っているから生きていくことに困ってはいないけど、ゼィニクに追放されてアリサ皇女やヴィオラと出会わなければ間違いなく浮浪者になっていただろう。


「恋の問題は鞘の勇者様には早いと思いますわ」


 いつも通り突然現れたアリサは優雅にティーカップを傾けていた。


「この案件には適任者がいますよ。少々問題もありますが、そこはお二人の愛の力で乗り越えて下さいね」


 アリサ皇女の登場に平伏している男性の名前はヒコシという。

 彼の好きな子がオリメというらしい。


「では、エイヒメ領へ向かって下さい。人選はヴィオラとヒワタでお願いします」


 今回の仕事は面倒になりそうだ。

 でも、アリサ皇女が仕切るといつもの誰がお供するか問題が勃発しないからさっさと出立できていいかも。


 エイヒメ領はナイトオブクワットロの三席であるレィジーンさんが治めている土地だ。

 彼女については会合で話しただけでどんな人なのか全く分からない。

 それに彼女が所有している刀についても情報がなかった。


 ヴィオラたちに聞いても答えを濁されるし、とんでなく変な子だったらどうしよう。

 不安もあるけど、僕たちはアリサ皇女の転移魔方陣によってエイヒメ領へ移動した。


「このエイヒメ領は少し変わっていますから鞘の勇者様もお気をつけ下さい」


 警告を聞きながら入国した直後、男たちの野太い声が町中から聞こえてきた。


「うおぉぉぉおぉぉぉ。よっしゃいくぞぉぉぉぉぉぉ!」


「なんだ、これ。まるでライブじゃないか」


 市街地の中心にあるステージではアイドルさながらのプロポーションを持つ美女たちが歌って踊っている。

 そのライブを特等席で観覧しているのがレィジーンさんだった。


「レィジーンさん、お久しぶりです」


「あら~! 末席くんじゃな~い。このイベントが終わるまで待ってね~」


 このライブを成功させることが領主としての仕事のようだ。

 確かに集客力は凄まじいし、出店も多いから儲かっているんだろうな。


 相変わらず豊満な胸を隠そうともしないレィジーンさんはライブの成功を見届け、関係各所に挨拶回りをしていた。

 結局、直接お話できたのは夜になってからだった。


「待たせちゃってごめんね~」


 僕の目の前で胸が揺れる。

 大きさはヒワタと同じくらいだろうか。

 でもヒワタは着物で帯を巻いているから、レィジーンさんと比べると印象が大きく異なる。


「いでででででっ」


 この感じが懐かしい。

 他の子に対しては何を考えていても叱られなくなったけど、他所の女性に対しては容赦ないな。

 鼻を鳴らすヴィオラを微笑ましそう眺めているヒワタの胸を見てしまった。やっぱりレィジーンさんの方が大きいか?


「ごめん! ごめんってば!」


 すねをさすりながら涙を流す僕を見て爆笑しているレィジーンさんが「それで~?」と話を聞く態勢を取ってくれたので本題に入ることにしよう。


「実はご相談がありまして――」


 事情を説明すると意外にも真剣に聞いてくれた。

 昼間の様子を見ていても仕事はきっちりとこなすタイプらしい。


「それならうちのアイシャちゃんが役に立てるわ~。でも、その子と苦楽を共にする覚悟があるのならね」


 含みのある言い方が気になるけど、ヒコシは確固たる決意を持って頷いた。

 執務室の扉が開き、艶のある黒髪の女性が入ってくる。


「お初にお目にかかります。十刀姫が一人、結刀けっとうのアイシャと申します。この度は長旅、大変お疲れ様でした。宿をご用意してあります。そちらにご宿泊いただき、この件につきましては明日から――」


「アイシャちゃん、ストップ~。ごめんね~。うちのアイシャちゃんって馬鹿真面目なのよ~」


 真面目で恋に強い十刀姫か。ここにきて意外な子が出てきたな。


 食後、そんなに疲れていないつもりだけど、強烈な睡魔に襲われた僕はすぐに眠ってしまった。

 まどろみの中でヴィオラとアイシャの声が聞こえた気がするけど、あれは夢だったのだろうか。


 翌日、剥き出しの結刀けっとう愛紗あいしゃ』を帯刀したレィジーンさんと響刀きょうとう美蘭ヴィオラ』、寒刀かんとう氷綿ひわた』を帯刀した僕はヒコシと一緒に隣の領地へと向かった。


 気まずい。

 なんでヴィオラたちは出て来てくれないんだ。


「末席くんはけっこう強いそうね~」


「そんなことはありません。僕は刀を抜けなくて召喚主のゼィニクから追放されたんです。偶然、通りかかったアリサ皇女に救われて、ヴィオラたちが手を貸してくれるから今日まで生き残れてこれました」


「謙遜しちゃって~。皇帝陛下も刀集めを楽しみにしているみたいだし、もっと自信を持てばいいじゃな~い」


 そんな風に言われると余計に緊張してしまう。


「ナイトオブクワットロの中で一番強いのはォショウさんですか?」


「どうかしらね~。シムカちゃんも古くからいるメンバーだから強いかもね~」


 実際に戦ったことがないから、互いの力を測り合えないのだろうか。


「あぁ! オリメだ!」


 ヒコシが声を上げる。

 彼の視線の先を見るとお城のバルコニーから手を振る女性がいた。

 この構図からすでに身分差を感じるけど、この二人をくっつけることなんて本当に可能なのか?


 それよりも僕の指に小さな切り傷があるのはなんだろう。

 寝込みを襲われたりしてないよね。

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