第36話 新事実の発覚
夜、刀の手入れをしていると順番待ちしているクシマがあくびをした。
「サヤちん、これって意味あるのー? そんな頻繁にしなくてよくない?」
当初は僕のことを「おにいちゃん」と呼んでいたけど、格上げされたのか名前で呼んでくれるようになった。
「毎晩毎晩、よく飽きないねー。クシマ的には刀身の手入れよりも体の手入れの時間を増やして欲しいかもー」
僕は口に懐紙を咥えているから返事ができない。
彼女の言う通りで日本刀の手入れの頻度は少なくていいのかな?
「お父様だってまともに手入れしてなかったじゃん。なんでサヤちんにはやらせてんのー? クシマ的には鞘の中で回復できたから病気力も全快したしー。体を洗ってくれればそれでいいんだけどー」
とんでない発言に懐紙を落としてしまった。
「それってどういうこと?」
「知らないのー? サヤちんの鞘に入れば、錆も汚れも刃こぼれも能力も全部元通りになるよー」
そんなことは四人とも教えてくれなかった。
クシマが嘘を言っている可能性もあるけど、他の四人が必死にクシマを黙らせようとしているから彼女が正しいのだろう。
「なんだ、それなら早く教えてよ」
「だって教えたら手入れをしてくれなくなるでしょ」
ヴィオラたちはそんな心配をしていたのか。
「大丈夫だよ。みんなが嫌がらないなら、これまで通り毎日続けるよ。クシマも別に嫌だったら列に並ばないで先に寝てていいからね。あ、鞘に入っててもいいし」
「別にー。嫌とは言ってないしー。ライハが終わったなら早く次やってよー」
素直じゃないクシマにも慣れ始めたな。
僕としては試し斬りが上手くできず、閃刀『雷覇』が傷ついていないか心配だったけど、鞘に回復効果があるなら一安心だ。
全員分の手入れが終わると全員でベッドに入る。
大所帯になってしまったからベッドをキングサイズに変えた。
この調子でいくと更に大きいベッドが必要になっちゃうな。
「明日はホウリュージー領への訪問ですから、しっかりとお休みください」
ォショウさんに呼び出された僕は明日一番でクッシーロ領を出立することになっている。
今回のメンバーはどうしようか。
ライハは必須だけど、他には誰が適任かな。
そんなことを考えているうちに強い睡魔に襲われ、眠ってしまった。
次の日の朝、僕は二人の女の子が口喧嘩する声で目を覚ました。
「わたしが一緒に行くのは当然なのよ。わたしが一番最初に契約して、手入れの仕方も教えたのよ。わたしを奏でられるのは主人だけなのだから、一緒に行動して当然よね」
「姑感丸出しでうっざ! 新参者に譲りなよ、お局様ー」
「うるさいわね、爪楊枝の分際で」
「はぁ? ヴィオラなんて音を出すことしかできない鈍のくせにー」
「ふ、二人ともやめるでござるよぉ」
「「うっさい、タコ糸!」」
たまらず体を起こすと涙目になったセンナが抱きついてきた。
「サヤ殿ぉぉ。ヴィオ殿とシマ殿がセンナのことをタコ糸って言ったでござるぅ」
「ちゃんと聞いてたから大丈夫だよ。じゃあ、センナと一緒に行こう」
「あなた!?」
「サヤちん!?」
二人が猛抗議してくるけど、僕はもう決めたんだ。
変更するつもりはない。
「警備はヴィオラ、警護はクシマ、管理はヒワタ。これでいい
でしょ。ヒワタが大変だと思うけどお願いしますね」
「あらあら。この二人のじゃれ合いは慣れっこですのでお気になさらないで下さいね」
あぁ、ヒワタはいつでも女神のようだ。
彼女がいてくれないとうちの陣営は成り立たないよ。
あとをヒワタに任せて出立するといつになくご機嫌なセンナが過去を語り始めた。
「後宮に仕えていた頃からヴィオ殿とシマ殿は仲が悪かったでござるからなぁ」
「へぇ、その話は少しだけヴィオラから聞いたよ。センナはふともも、ライハは足首に刺青があるよね。これが十刀姫の証だって」
「忌々しい。あのクソジジイの顔を忘れた日は一日たりともない」
センナは体中を切り刻まれ、ライハは体中に電気を流され続けたらしい。
救命する為にお父様のスキルによって刀となり各地に散らばった彼女たちがこうして再会できたのも何かの縁だろう。
「ゼィニクって奴が十本の刀を集めようとしているんだけど、何故だか分かる?」
「変態なんじゃない」
うん。否定はできない。
「お父様からは何も聞いてないでござるが……。あ、もしかして『刃』でござるか?」
「『刃』ってなに?」
これまでに何も有力な情報が得られなかったのにセンナの口から意味深な言葉が発せられた。
「ある条件下で作成できるって言ってたはず。詳しくはシム殿とハク殿が知っているでござるよ」
「シム殿? シム……シムカ。シムカって、ナイトオブクワットロのシムカさん!?」
「そうでござる。あの二人は双子だからいつも一緒でござるよ」
どういうことだ。
十刀姫の一人がナイトオブクワットロとして皇帝陛下に忠誠を誓っているのか?
今の陛下のご先祖様に身体を痛めつけられ、刺青まで刻まれたのに?
「ハクアのことはアリサ皇女も何か隠し事があるみたいだった」
「リサ殿には申し訳ないことをしてしまったでござるよ。ねぇ、ライ殿?」
「その話はしないって言ったよ。ヒワタに言いつけるからね」
「あぁ! しまったでござるぅ。サヤ殿、今の話は忘れて欲しいでござるよぉ」
良くも悪くも素直なセンナなら口を滑らせてくれるかもしれないと思ったよ。
でもさ、こう上手くいくと悪いことをしたみたいで心が痛むな。
「アリサ皇女がどうしたって?」
「うぅぅ。ライ殿ぉ」
「知らないよ。自分でどうにかしなさい」
ライハはドライな面もあるから、こういうときは絶対に助けてくれない。
頭を振りながら葛藤していたセンナは観念したように呟き始めた。
「リサ殿は皇女なんかじゃないでござる。あの子は最後まで当時の皇帝に抗い続け、本当に命を落としかけたでござる。だから、お父様のスキルでもリサ殿を刀として完璧に鍛えられなかったでござるよ。リサ殿は刀としては使い物にならないと言って、自ら皇室に身を置いたのでござる」
アリサ皇女も十刀姫の一人!?
じゃあ、スパイとして皇帝やゼィニクやナイトオブクワットロの動向を探り、響刀『美蘭』を隠していたのか。
それで、僕たちが召喚されたことで動き出した?
「アリサ皇女とも話さないといけないね」
「サヤ殿、このことはくれぐれも……ごにょごにょ」
「分かっているよ。ライハも見逃してあげてね」
「いいけど。これ以上の失言をしないように」
「分かったでござるぅ」
不安だけど、この三人で行くと決めたのは僕だ。
きっちりと仕事をこなして、早く家に帰ろう。




