第33話 三度目の戦い
新品の騎士服に着替えてベルトを腰に巻く。
帝都に行けばすぐに気づかれてしまうかもしれないけど、先日の番組でクシマが名指しで呼びかけているから今更だろう。
念のためにヴィオラとライハにはついてきて貰った。
この二人のペアも強いんだけど、ヒワタとセンナ以上に留守を任せられる存在はいないだろう。
「お気をつけて、大将!」
「はい。ありがとうございます。留守をお願いしますね」
元気よく手を振るトゥリョウさんに頭を下げているとライハが僕とヴィオラの手を握った。
「行くよ」
バチバチバチ!
あっという間に帝都の前に着いた僕たちは入国手続きをして町の中に入る。
本当に便利な能力だな。
「こんな大金を持っていると緊張するね」
「大丈夫よ、あなた。盗んだ直後に丸焼けにするから。ね、ライハ?」
「当たり前だけど」
この二人の仲は悪くないけど、どこか張り合っている節があるんだよな。
僕、なにかしたかな?
何はともあれ、奴隷オークションだ。
擬刀化した二人を鞘に納めて堂々と入室すると会場中が沸いた。
「ナイトオブシースだ。本当に来たぞ」
「様をつけろ馬鹿野郎! 気付くと死んでるぞ!」
なにそれ怖い。
そんな物騒なことはしたことないんだけどな。
根も葉もない噂が流れているようだけど、気にしないでステージ前の椅子に着席すると袖からクシマが手を振っていた。
思わず立ち上がりそうになるとクシマは「しーっ」とジェスチャーをして暗闇の中に消えた。
まだナガリは来ていないようだ。
それからしばらくしてオークションが始まり、順番に奴隷たちが落札されていく。
ほとんどが女の子でまれに男の子も混ざっていた。
もっと安値で買われているのかと思ったけど、周りを見ても貴族しかいないようで大金が飛び交う異様な空間だった。
「次が最後の競売となります」
来た!
他の奴隷たちとは比べ物にならないくらいの高値から始まったにもかかわらず、鼻息を荒くしている連中が入札していく。クシマって人気なんだな。
初めてだけど、見学していたから要領は分かったぞ。
小さく金額を上げていく連中が「おぉっ!」とざわめく中、僕は遠慮がちに手を挙げた。
「1000万で」
会場が静寂に包まれ、ヒソヒソ声があちこちから聞こえてくる。
「い、いっせんまん!? ほ、他には……」
脳内にヴィオラの声が響く。
どうやら、ナガリが来たらしい。
「1050万!」
クシマを諦めきれない様子の男が僕を睨みながら叫ぶ。
「1100万」
しかし、彼を無視するようにナガリが冷たく言い放った。
あと一声は出せるけど、それ以上は無理だぞ。
「1200万!」
僕は有り金の全てをはたいた。これ以上は出さないでくれ。
周囲の期待を込めた空気を振り払うように僕は後ろの席を振り返る。
ナガリは不敵に笑っていた。
「1400万だ」
「1400万が出ました! 他にはいらっしゃいませんか!?」
ダメだ。これ以上は出せない。
施設の修繕費でけっこう持っていかれし、どこにも余裕がないんだぞ。
「落札! 過去最高金額での落札となりました。おめでとうございます!」
象牙のハンマーが叩かれ、クシマの競売が終わった。
「いやーんっ。剣のおにいちゃんに買われちゃったーん」
他の奴隷たちと異なり、拘束されていないクシマはナガリの元へ歩いて行き、現金を受けると落札金の全額を競売人に渡した。
「ほ、本当によろしいのですか、クシマ様」
「いいって言ってるじゃん。おじさん、耳遠いの~?」
会場中が注目する中、クシマはナガリの隣まで移動し、いやらしく笑う。
しかし、一向に出て行く様子はなかった。
「ヴィオラ、二人の会話が聞きたい」
脳内にナガリとクシマの会話内容が聞こえてきた。
ハッとして大声で叫ぶ。
「みんな逃げろ!」
擬刀化した葬刀『紅縞』を持ったナガリが身近にいる紳士を次々と突き刺しながら僕の方へ走ってくる。
右腰に装備したまだら模様を施された鞘を手にして、葬刀『紅縞』を受け止めた。
「止めろ、ナガリ! 無抵抗の人たちだぞ!」
「うるせぇ! 俺には後がねぇんだよ! 今日は二本だけか。残りの二本はお前を病気にしてからいただくぜ」
場所が悪すぎる。
葬刀『紅縞』は細剣で刺突攻撃がメインだから有利に立ち回れるだろうけど、こっちは演奏準備も火打ち準備もできていない。
今はライハとの特訓のおかげで対応できているだけにすぎない。
せめて客達の避難が終われば。
「このゲスが!」
擬刀化を解いたライハがナガリに突進してくれた隙に『紅縞』に刺された紳士たちに鞘を突き刺して病気を治療していく。
同時に左手で『美蘭』を持ち、左腰に装備したままの鞘で適当に演奏を始めた。
自分でも嫌になる音が会場中に響き、ナガリだけでなく取り残された客たちも耳を塞ぐ。
ライハとヴィオラに手伝ってもらい、二人の紳士を外に連れ出すことには成功した。
会場の外なら『雷覇』も使える!
左手に鞘を右手に閃刀『雷覇』を持って待ち構えていると、オークション会場の扉から出てきたナガリが一気に距離を詰めた。
刺突が来る! 間に合うか!?
光を認識させてしまえば僕の勝ちだ。
鞘の火打ち石に刀の峰を擦り合わせる直前、葬刀『紅縞』が視界から消えた。
「痛ッ!?」
右足の甲の痛みを知覚した瞬間に強烈な胸の痛みに襲われる。
心臓を握りつぶされるような痛みに耐えて体を丸めていると少女の姿に戻ったヴィオラとライハが右腰にある『紅縞』の鞘を抜いて渡してくれた。
しかし、今の僕に鞘を掴む力はない。
「あ……くっ、あっ」
息をすることもできずにもがき苦しむ。
霞む視界の端には僕と同じように倒れているナガリが映った。
僕たち二人を見下ろし、恍惚とした笑みを浮かべているクシマが何よりも恨めしい。




