第32話 恐ろしい刀姫たち
「ふん! ふん! ふん!」
スキル『契約』で新しく扱えるようになった閃刀『雷覇』の格式奥義は想像以上にダメージ大きく、連発なんてするものではないと身を以て知ることになった。
少しでもライハとの絆を強くする為に、そして刀を振るうことができるようになる為に素振りを日課に取り入れた。
今日も鍛錬をしている間、ヴィオラは頬杖をつきながら遠くの空を眺めていた。
僕が他の十刀姫と話していたりすると、ふてくされていることが多かったけど最近は温かい目で見ているような気がする。
「ライハ、少し休憩しよう」
金髪ボーイッシュな女の子の姿に戻ったライハは華麗に着地した。
「そろそろ試し斬りをしてもいいけど」
「そうか。やってみようかな。ライハって刀の中でも軽い方?」
「うん。あたしより軽いのはスミワくらいかな」
スミワはォショウさんと一緒にいた子だな。
確か、心を斬るって言ってたっけ。
「じゃあ、明日から試し斬り! 丁度良いものを用意しておくから。それで、その……」
歯切れの悪いライハは目を泳がせながら恥ずかしそうに告げた。
「あたしの手入れをして欲しい。きっと初めは刃が傷つくと思うから」
「なんだ、そんなことか! もちろんするよ。あっ」
いつもならこのタイミングでヴィオラがすねを蹴ってくるんだけど、今日は黙って微笑んでいるだけだった。
「ヴィオラ?」
「ん? わたしのことは気にしないで。他の子たちが終わってからでもいいわ。だってわたしとあなたは誰よりも強く繋がっているもの」
頬を赤らめるヴィオラが何を言っているのか思い当たる節がある。
きっと、クッシーロ更生施設襲撃の際にキスしたことを言っているのだろう。
「なにそれ?」
「思う存分、手入れしてもらいなさい。遠慮は無用よ」
今夜の予定が決まりつつあるとき、センナが息を切らしながら走ってきた。
「大変でござるよ! サヤ殿、早く来て欲しいでござる!」
何事かと施設長室に向かうと六人の大男がソファでくつろいでいた。
テーブルに足を乗せる輩を前にしても笑顔のヒワタだが、彼女のこめかみには青筋が浮かんでいる。
「僕がこの施設の責任者です。何かご用でしょうか?」
「こんなガキが仕切ってるなんて聞いてないっすよ」
「小僧、一つ頼まれてくれよ。命が惜しいだろ?」
その言葉をそっくりそのままお返ししたい。
僕の仲間たちは既に臨戦態勢で合図をしなくても飛び掛かりそうな雰囲気だ。
「みんな、ダメだよ、まずは話を聞いてみよう」
「はぁ!? お前は黙って言う通りにすればいいんだよ」
立ち上がった男の手が僕に触れる直前、センナが擬刀化して糸状になった刀身が部屋中に張り巡らされた。
「いてっ!」
「なにしやがっ――」
「動くなッ!!」
いつになく大声を張り上げる。
僕が必死の形相だったから本当に驚いたのか、直感的にそう判断したのか、誰一人として動こうとしなかったから事なきを得た。
「クズなんて救わなければよかったのに。あんたってお人好しだね」
「は、はぁ? なに言ってんだ!?」
「うちの主人の言うことを聞いていなければ全員の首が落ちていたわよ」
「なっ!?」
男たちがぎこちない動きで首元を確認すると彼らの顔色が真っ青に染まった。
「あらあら。お優しいサヤ様に感謝しなくてはいけませんね。それで一人当たりいくら支払っていただけるのでしょうか」
「いくらって?」
「お前たちの命の金額でござるよ。それともその首置いて帰るでござるか?」
えぇー。ヒワタ姉さんが施設の修繕費を捻出しようとしている。
僕の部屋を血染めにしないで欲しいし、目の前で恐喝もしないで欲しいな。
改めて僕が名乗ると背筋を伸ばした男たちは深々と頭を下げた。
なんだ、意外と話が通じる人たちじゃないか。
もっとも僕の後ろに鬼姫が四人もいるからかもしれないけど。
「俺たちはずっと南の領地から来たんだ。領主同士の抗争に巻き込まれて命を狙われてんだよ。ここは難攻不落のクッシーロ監獄だろ。匿ってくれ」
いったい何をしたら命を狙われるんだろう。
怖くて聞けない。
「お断りします。今は監獄ではなく、更生施設と名を改めていますし、施設も修理中です。それに自ら監獄の中に入りたがる人を入れるつもりはありません」
「おい、ガキ!」
「動くな、でござる」
今、語尾をつけ忘れそうになったな。彼女の語尾はお父様の影響を受けているらしい。
それにしてもセンナは用心棒として最適な人材だよな。本人は無自覚かもしれないけど。
「サヤ様のご意見を聞けたことですし、お引き取り下さい。あ、お金は置いて行って下さいね」
「はぁ!? 交渉不成立でなんで金を払うんだよ」
「あらあら。では凍死、斬死、心臓死、震死の中からお選び下さい」
やる気満々の四人をなだめようとしたとき、勢いよく扉を開けた元門番のおじさんがホログラムを映し出すアイテムを起動させた。
「すまねぇなボウズ。でもよ、これを見てくれよ」
映っているのは有名な奴隷オークション番組だった。
僕も何度か番組を見たことはあるけど、現代人に馴染みのない奴隷に興味はない。
『最後は次回の競売予告となります。年齢不詳、見た目は幼いですが、女としては成熟している。ということです。名前は、えー、えっと。そうとう――』
『葬刀『紅縞』だってクシマ的に言ってんじゃん。一回で覚えられないのー、おじさん?』
テレビに映し出されたのはまさかのクシマだった。
なんで奴隷落ちしてるんだよ。まさかドクタャブが売り払った!?
いや、あの人にそんな時間があったとは思えない。
『いやーん』
照れているふりをするクシマは服を持ち上げて腹部を露出する。
へその下にはヴィオラたちと同じ刺青が刻まれていた。
『鞘のおにいちゃん、剣のおにいちゃん、みってるー? クシマが欲しかったらお金を出してねー!』
言いたいことを言ってクシマはオークション会場の袖に消えて行った。
僕たち五人は顔を見合わせる。
「サヤ様、いかがなさいますか?」
「申し訳ありませんが急ぎの用事ができました。お引き取りください」
ネットオークションすらもやったことない僕が競り勝てるとは思えない。
でも、ナガリが来るなら僕も行かないと。この前の一戦で黒焦げになっているとはいえ、次の刀を求めているはずだ。
僕は奴隷オークションが行われている会場に向かう為の支度を始めた。




