第29話 リベンジ
最年長と思われるヒワタとの旅は実にゆったりとしていた。
「では、賊の討伐は終わっているのですね」
「さようです。剣の勇者様が見事に達成してくださいましたが、お礼の品を受け取られてすぐに出立されました」
「そうですか。あの山がブリッツマウンテンですね」
そびえ立つ山には分厚い雲が覆い被さり、豪雨と雷が降り注いでいる。
「それにしてもすごい嵐ですね」
「元々、あの山は雷様の社でしたので雷鳴は日常茶飯事だったのですが、わしが子供の頃に鳴り止みましてな。めっきり静かな地域になってしまったのです。しかし、剣の勇者様がいらっしゃってからこの有様です」
不思議と領地全域ではなく、ブリッツマウンテンの山頂だけに豪雨と落雷が発生しているのだ。
風で雨が流されてくるが傘をさすほどではない。
「まるで泣いているみたいだ。早く行かなきゃ」
「……サヤ様はお優しいです」
何か言われた気がするけど、夢中になって山を登る僕は聞き漏らしてしまった。
山頂に近づくと雨、風、雷が激しさを増し、足元がおぼつかなくなっていく。
こんな状況でもヒワタは涼しい顔で息一つ切らさないんだもんな。
こういうときには十刀姫が人間じゃないって痛感させられてしまう。
「サヤ様、大丈夫ですか? 山頂に着きましたよ」
「大丈夫だよ、ありがとう。ライハ、ここにいたんだね」
巨大な岩に突き刺さる閃刀『雷覇』はずっと独りぼっちだったんだ。
この嵐はライハの怒りと悲しみと寂しさと必死の抵抗なのかもしれない。
「今後こそ、きみを抜いてみせる」
閃刀『雷覇』の柄を掴んで必死に力を込めてもビクともせず、ぬかるんだ地面に足を取られてしまった。
「サヤ様っ!」
ヒワタが作ってくれた氷の屋根のお陰で雨には打たれないけど代償として一気に体温を奪われていく。
「ライハッ! そのまま抗い続けろ!」
ドゴォォォォン!
まるで返事をしてくれているような雷光と雷鳴を頭上に受けながら腰の鞘を抜き取る。
雷の模様が施されている鞘で柄を打ちつけると黒雲から紫電が落ちてきた。
「サヤ様、こちらはお気になさらずに!」
ヒワタが氷で防いでくれているおかげで集中できる。
今回の人選は彼女で正解だったな。……ジャンケンだけど。
「いや、この氷の屋根を崩してヒワタは下がって!」
「そんな!? 危険すぎます!」
「声が聞こえたんだ! きっとライハが上手くやってくれる!」
氷の屋根がなくなったことで落雷が閃刀『雷覇』へ直撃する。
鞘のおかげで側撃雷からも守ってくれるけど、その衝撃は半端なものではなかった。
そして遂に岩に切れ目が入った。
隙間に鞘を突き立てて、梃子のように裂け目を広げていく。
「ライハ!」
これが最後だと言わんばかりの稲妻が刀に落ちて、岩は粉々に砕け散った。
「うわっ! ライハ!?」
岩から刀が抜け落ちた直後、擬刀化が解けてライハは女の子の姿に戻った。
咄嗟に抱きかかえると彼女の瞳からは止めどない涙が流れていた。
「……鞘の勇者」
「よく頑張ったね。きみを迎えに来たんだ」
意識を失ったライハを背負って下山する体力は残っていないけど、なんとしてでも連れて帰りたかった。
「サヤ様もよく頑張りましたね。あとはお任せください」
ヒワタの声が遠くなっていく。
次に目を覚ますと見たことのない部屋だった。
隣のベッドには首輪を付けられたままのライハが寝かされており、ヒワタは灯りの下で読書をしていた。
「まだ深夜ですからもうひと眠りしてください」
「でも……」
本を閉じたヒワタがベッドの中へ潜り込んでくる。
「今日は聞かん坊さんの甘えん坊さんですね」
どうして寝るときに優しくトントンされると安心するんだろうか。
僕はヒワタの手のぬくもりを感じながら瞼を閉じた。




