第28話 嵐の訪れ
いやぁ、なんていうか。センナもすごかったな。
「あなた、ぼーっとしないで」
「ごめんなさい」
「あらあら。サヤ様も男の子ですからね」
相変わらず他人を褒めると不機嫌になるヴィオラといつもニコニコしているヒワタと一緒にクッシーロ領の入り口へと向かう。
境界線に立つセンナが今から能力を見せてくれるらしい。
「いくでござる!」
掛け声と共に擬刀化したセンナは柄の部分を地面に突き刺した。
反射する太陽に目を細めていると一直線だった刀身がまるで糸のように解れ始め、やがて絹のような細さへと変化した。
更にピアノ線のような硬度を兼ね備え、目視できないレベルまで薄く長くなっていく。
元々の刀身の長さを優に超える無数の糸は木々や岩に巻きつき、クッシーロ領を全包囲してしまった。
「やっぱりすごい。これなら誰も近づけないよ。通常形態でこれなら格式奥義はどんな風になっちゃうんだろ」
目を凝らせばどのようにワイヤートラップが張り巡らされているのか分かるけど、初見でこの罠をかいくぐることは不可能だろう。
「でも、この技を使っているときのセンナは動けないね」
展開していた刀身が元通り一本の刀へと戻り、擬刀化を解いたセンナが隣に立つ。
「基本的にセンナは動かないことが前提でござるからな。所有者が動いた時点で既に負けているのでござるよ」
『美蘭』にも『氷綿』にもメリットとデメリットが存在するように『繊那』も同じってことか。
「確かに警備は完璧になるけど、センナを地面に突き刺したままにするのはちょっとな」
「サヤ殿ぉ。そんなことを言われたのも初めてでござるぅ」
泣きついてくるセンナをヨシヨシしながら考える。
ヴィオラの警戒レベルは最高峰だと思うけど、センナがいれば警備面も万全になるだろう。
「攻撃しなくてよいなら、糸状の物からの感覚で侵入者は特定できるでござるよ。それならセンナはこの姿を維持できるでござる」
なんて優秀な子なんだ。
しかも自己申告してくれるなんて。
ヴィオラなんかエコーロケーションの能力を黙って使用していたのに。
そうなると張り巡らされた糸からの感覚と、音による振動の感覚で侵入者を把握して場所が特定できれば、その箇所だけ吹雪と氷塊を発生させることができる。
僕の理想としている防衛と生産業を両立できるシステムが構築されようとしてた。
「もう少し雨が降ればいいかな」
このクッシーロ領は降水量が少ない地域らしく、基本的に晴れているけど気温が低い。
そんな気候の土地を凍土にしていたのが僕の隣でニコニコしているお姉さんだ。
「先日はご苦労さまでした。トゥリョウの件は皇帝陛下に事情を説明してあります。多少の小言は言われましたが問題ありません。これでまた自由に動けるようになりましたね」
いつも神出鬼没なアリサ皇女はお辞儀したままの姿勢で長いセリフを述べ終えた。
「さて、四本目となる刀の所在が分かりました。場所はムツデワ領です。イガイガ領よりもここから近いですね」
「ほんとに!?」
「ただ喜ばしい話ばかりではございません。そこにいるのはライハです」
重苦しい空気が漂い始める。
「どうしてライハが?」
「詳細は不明です。突如激しい暴風が吹き荒れ、雷をまとった刀が岩に刺さっていると報告がありました。調べさせた結果がライハだったということです」
「負け犬が捨てたのではなくて?」
本当にそうなのかな。
刀集めを依頼されているはずのナガリが捨てるとは思えないけど。
それにスキル『従属』で縛りつけていたから、あの首輪がどうなっているのかも気になる。
「罠かもしれませんが、お願いできますか?」
「もちろんです」
こうして、ムツデワ領にあるブリッツマウンテンと呼ばれる山へ向かうことになったのだが……。
「ヴィオラちゃんは先日一緒にお出かけしたでしょ」
「わたしと一緒が楽しかったって言ってたのを忘れたのかしら」
「センナも初めてのお出かけしたいでござるよぉ」
「わたくしという選択肢もあるのですよ」
誰が僕と一緒にライハを探すのかという議論が始まって既に三十分が経とうとしている。
誰でもいいよって言った三十分前の自分を呪いたい。
結局、ジャンケンをして今回はヒワタとご一緒することになった。
最後までふてくされているヴィオラが可哀想だったけど、センナとは仲が良さそうだし、二人で残しても大丈夫だろう。




