第23話 皇女様には敵わない
南下を続けるヴィオラは久々の二人旅を満喫しているようだ。
「そんなに日は経っていないのに、すごく久しぶりな感じがする」
「そうね。ヒワタも一緒に過ごすようになったし、図々しくアリサまで家に来ちゃうし」
安い宿屋に泊まり、ベッドに横たわっているとヴィオラが腕枕を要求してきた。
ヒワタが左側にいないのが少し寂しいけど、元々はこの体勢で寝てたんだよな。
「この先、センナも一緒に住むかもしれないでしょ?」
「そうだね。嫌なの?」
「嫌というわけではないけど。わたしだけを見てくれなくなる」
薄々気づいていたけど、ヴィオラは独占欲が強い。
僕と出会う前はアリサ皇女としか一緒にいなかったみたいだし、誰にも触れられたことがなかったから、彼女を扱える僕を手放したくないのかもしれない。
そんな彼女の想いを汲み取ったかのようにヒワタとは契約できず、未だに僕の左薬指には響刀『美蘭』の鍔と同じ形の指輪のみが嵌まっている。
「僕はこれから全ての十刀姫と出会って鞘に納めるかもしれないけど、ヴィオラだけは特別だと思うよ。僕の命の恩人だし、現時点で僕と契約しているのはヴィオラだけだからね」
「……あなた」
ピンク色に頬を染めるヴィオラが目を閉じて唇をつきだす。
僕も同じように目を閉じると唇に少し固いものが触れた。
「しっ。宿の下に変なのがいるわ。二人かしら」
いい雰囲気だったのに。誰だ、僕たちの邪魔する奴は。
ん? それよりもヴィオラはなんで人の気配を察知できたんだ?
「そんなことが分かるの?」
「えぇ。じゃないと500年も誰にも見つからずに引きこもれないもの」
あれ、この子がいればクッシーロの防衛システムは完璧なのではないか?
センナって子が不要になる未来が見えた気がした。
「それってエコーロケーションってやつ?」
「なにそれ?」
「いや、知らないならいいんだ。どうすればいい?」
「わたしを帯刀して出て行きましょう。この足音は悪い人じゃないと思う」
言われた通りに擬刀化したヴィオラを鞘に納めて宿の外に出ると物陰から二人組の男性の気配を感じた。
この感覚もヴィオラから送られてくる情報なのだろう。
「僕に何かご用ですか?」
「お、おい。本当に十個の鞘をぶら下げてるぞ」
「この方がナイトオブシースで間違いないな」
今更だけど空っぽの鞘を九個も腰に巻き付けている僕は変人以外の何者でもないよね。
と言っても鞘を消すことはできないんだけど。
「ナイトオブクワットロである貴方様にお願いがございます! どうか、お力を貸してください」
いきなり土下座されて、僕は慌てて駆け寄った。
「お話はちゃんと聞きますから頭を上げてください!」
夜でも営業している店に入ると男性二人はまたしても頭を下げた。
男性の一人はイガイガ領の領主であり、もう一人は町長だと自己紹介した。
「実はこのイガイガ領の端にあるニンジャムーラ地域に蜘蛛の化け物が棲み着いてしまいまして、困り果てております」
色々つっこみたいけど我慢だ。
「その蜘蛛は何か悪さをしているのですか?」
「悪さと言いますか。そこら中に蜘蛛の糸を張っているです。これでもかと! 町人は怖がってしまって近づかなくなってしまいました」
「帝都には討伐依頼を出していたのですが、なかなか返答はなく途方に暮れていたときアリサ皇女殿下からお返事をいただけたのです!」
すっごい嫌な予感がするなぁ。
聞きたくないなぁ。
「それは、もしかして」
おそるおそる人差し指で自分の顔をさすと、領主と町長は同時に頷いた。
そっかー。最初からアリサ皇女の手のひらの上だったかー。
「まさか、ナイトオブクワットロのお一人を派遣してくださるとは思ってもみませんでした」
「そ、そうですよね。僕もまさか化け物退治を兼ねているとは思ってもみませんでした」
「はぁ?」
「あ、いえ。気にしないでください。では、明日にでもニンジャムーラ地方に向かいます」
イガイガ領の地図を貰い、宿屋に戻ると擬人化を解いたヴィオラが鼻を鳴らした。
「アリサにしてやられたわね。刀集めと依頼を同時にこなさせるなんて」
「ん? 蜘蛛の化け物はセンナって子なの?」
「多分ね。さぁ、明日に備えてぐっすり寝ましょうね」
案の定、抱き枕にされた僕はヴィオラの香りに包まれて眠りに落ちた。




