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第22話 領主の役目

 クッシーロ領に戻った僕を待っていたのは領主の仕事だった。


 クッシーロ更生施設の施設長室ではなく、官邸に案内された僕は元領主であるドクタャブが使用していた執務室に通された。

 大きめのデスクには書類が大量に積まれていて目を背けたくなる。


「これ、僕の仕事?」


「あらあら。こんなものでは済みませんよ」


 どこからともなく書類が溢れてくるけど、これ以上はデスクに積むことができない状態だった。


「と言ってもこちらはさほど重要ではない書類です。私が分別しておきましたので、サヤ様は重要書類に目を通して印鑑を押すだけですよ。私がやりました。他でもない私が」


 さすがにそこまでアピールされると褒めないわけにはいかない。


「ありがとうね、ヒワタ」


 僕の秘書を買って出てくれたけど、彼女にはクッシーロ領の気候調節も任せているから負担が大きい気がする。

 でも、ヴィオラに秘書は難しいと思うし。


「なによ?」


「ううん。なんでもないよ。ヴィオラの仕事は進んでる?」


「もちろん! ま、お年寄りばっかりだけどね」


 ヴィオラにお願いしているのは、ドクタャブに騙されて大金を払わされた人たちのリストアップだ。

 未だに現実を受け止められない町人もいる為、彼らのメンタルケアも僕の仕事の一つになった。


「ただの高校生に領主なんて無理だよ」


「四回目の演奏会が始まるから広場に行くわよ」


 弱音を吐いていても仕方ない。

 まずは目の前の仕事をこなすしかないとヴィオラに背中を押された僕は今日も音楽を奏でる。

 僕とヴィオラの音色で少しでも人々の心を癒やせるのならいいけど。


「お辛いならナイトオブハートの申し出を受ければよろしかったのではないですか?」


 その日の入浴時、湯船に浸かってブクブクと息を吹いているとヒワタがそんなことを言い出した。

 ォショウさんからは核刀かくとう澄和すみわ』の能力で病んだ人の心を斬ってやると申し出を受けている。

 それが最も簡単で確実な方法なのは間違いないと思うけど、なんとなく受け入れられなかった。


 僕も響刀きょうとう美蘭ヴィオラ』の能力で心を癒やしているのだからそんなに変わりないのかもしれない。でも過去を無かったことにするのは違うと思う。


 そんな僕の考えはアリサ皇女もォショウさんも聞き入れてくれたからできることを全力でやっているのだけど、そんなに容易たやすい道のりではない。


「なるべく頼りたくないかな。ヴィオラも頑張ってくれているし、こっちは二人でなんとかするよ」


「さすがです、サヤ様」


 くっつかれると胸が当たるから。

 いや、今は真面目な話をしているんだ。しっかりしろ、僕。


「あとは領地の防衛を強固にしたいよね」


「具体的なイメージがあるのですか?」


「ん~。侵入者をすぐに察知できるとか。警告できるとか。それが分かればヒワタが吹雪を起こして、このクッシーロ全体を覆い隠すこともできるよね。少しでも無駄な争いを避けたいんだ」


 この世界は弱肉強食ということもあり、領主になったばかりの僕を闇討ちする輩が出現するようになった。

 ヴィオラがいるから負けることはないけど演奏に、戦闘に、政務となると疲労感が半端ない。


 ヒワタの吹雪があるからこそ、このクッシーロは極寒の地であり攻め難く、農作物が育ちにくいとされていた。

 今では吹雪を自在に操作できるようになったことで作物の自給率が上がったけど、その反面攻められ易くなった。

 どうやらクッシーロ監獄がなくなったことで権威も下がってしまったらしい。


「そんな鞘の勇者様に朗報です」


「ぶっ!? アリサ皇女ッ!?」


 いるはずのない人物がかけ湯をしている。

 湯浴み着を身につけているとはいえ、それが逆に色っぽかったりするわけで。


「三本目となる刀の所在が分かりました。場所はここからずっと南にあるイガイガ領です」


「へぇ。変わった地名ですね」


 そこに向かうのは構わないけど、政務はどうすればいいのだろう。


「領地はわたくしが、施設はヒワタにお任せください。鞘の勇者様はヴィオラと共にイガイガ領へ向かい、刀の収集を終え次第直帰してください」


 皇女様が一領地の統治をするなんてまずいんじゃないの?

 変な争いが起こらなければいいけど。


「基本的にはヒワタにやらせます。わたくしは影からアドバイスをする程度に留めますのでご安心ください」


「でも、それだとヒワタの負担が大きすぎます」


「あらあら。ご心配いただきありがとうございます。そうですねぇ。戻ったら一番にお手入れをしていただけるなら頑張れちゃうかもですよ」


 湯船をちゃぷんと揺らしながらヒワタがより密着する。

 慣れたとはいえ、この状況はありえないよな。


「約束します。留守をお願いしますね。ヴィオラもそれで良いよね?」


「まぁ、仕方ないわよね。そこには誰がいるのよ?」


 少し不機嫌なヴィオラが訊ねる。


糸刀しとう繊那せんな』です」


「センナか」


「ね? ヴィオラが適任でしょう?」


 ヒワタも頷いているし、三人の中では糸刀『繊那』を攻略する方法が共有できているだろう。


「いいわ。久々に二人旅をしましょ。きっと楽しい旅になるわ」


「向かうのは構いませんがシムカさんの件はどうなりました?」


「お気になさらないでください。きっと全て上手くいきますわ」


 満面の笑みが逆に不安になるけど、命令とあっては断れない。

 こうして僕とヴィオラは拠点を離れ、本来の目的である刀集めを再開することになった。

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