第21話 女の子たちの秘密
帰り支度をしているヒワタの隣でヴィオラとアリサ皇女が紅茶を飲んでいる。
会合を終えた僕は思い切って二人に聞いてみることにした。
「僕はどうすれば元の世界に戻れますか?」
ヴィオラが目配せするとアリサ皇女は観念したかのように息を吐いた。
「正直にお答えしますが、現時点で帰る方法はありません。ゼィニクの一族は勇者の召喚だけが可能だと聞いています。あの男は鞘の勇者様を引き留める為に口からでまかせを言っています」
「ヴィオラやヒワタのお父様は!? 刀の勇者はどうなったの?」
「お父様はわたしたちを完成させて死んだのよ。だから元の世界には戻っていないわ」
そんな……。
僕も彼女たちのお父様と同じようにこの世界で一生を終えることになるのかな。
後悔しても仕方ないことは分かっているけど堪えきれずに涙が流れた。
「ちょ、ちょっと泣かないでよ。わたしがいるでしょ」
「いいんですよ、サヤ様。辛いときは我慢せずに涙を流してください」
「わたくしの騎士様ですから、わたくしの胸で泣いてください」
誰が僕に胸を貸すのか、というつまらないことでバチバチと火花を散らしあう彼女たちを見ていると涙が引っ込んでしまった。
ヒワタの言う通り、少しでも想いをぶちまけた方が気持ちが楽になるのかもしれない。
冷静になると解明されていない謎を思い出した。
「そうだ。ゼィニクはナガリに十本の刀を集めるように指示をしているけど、あれは何か意味があるんじゃないの!?」
「それは皇帝陛下の命令だからです。特に意味があるわけではありません」
アリサ皇女は興味なさげに答える。
「そうでしょうか。案外、この帝国を支配するとか考えていたりしませんか?」
ヒワタの発言には僕もアリサ皇女も目を丸くした。
全ての刀の所在さえ分かればナガリのスキル『従属』で収集可能なはずだ。
「あの男が皇帝に!? 絶対にありえてはいけません! あんな男に体を……」
震えるアリサ皇女を初めて見た僕は言葉を失ってしまった。
「鞘の勇者様、絶対にゼィニクに刀を渡してはなりません。これは命令です」
「は、はい」
「帰還方法はわたくしの方で探っていますので、もう少々お待ちください」
アリサ皇女の剣幕に気圧されていると僕の指を弄んでいたヴィオラが唸っていた。
「できることならあなたの願いを叶えてあげたいわ。そのゼィニクってのはどうやって勇者を召喚するのかしら」
「世界の狭間に亀裂を入れてどうのこうのと言ってましたが忘れてしまいました」
全然、ゼィニクに興味がないんだな。
「亀裂……爆発」
恐ろしいことを呟き続けるヴィオラはパァッと顔を綻ばせた。
「ハクアよ! ハクアならなんとかできない?」
新キャラが登場してしまった。
「あらあら。確かにハクアちゃんなら世界の一つや二つは消せるでしょうね」
消しちゃダメなんだよ、ヒワタ。
「ハクアですか」
興奮気味のヴィオラと異なり、アリサ皇女は眉間に皺を寄せている。
「それは最終手段になりそうです。ハクアは危険だと聞いていますし」
「誰にですか?」
僕の何気ない質問にアリサ皇女は即答した。
「皇帝陛下です」
でも、僕はそれがアリサ皇女らしくないと思ってしまった。
なんとなく、ぎこちないような。嘘をついているような気がしてならない。
「じゃあ、そのハクアは皇帝陛下が所有しているんですね。あ、陛下は刀を持っていないって言ってたから、ナイトオブクワットロの誰か。レィジーンさんかシムカさんのどちらかが持っているのか」
「鞘の勇者様、わたくしはこの辺りで失礼いたします。ハクアの話はまた後日に。次の刀の所在が分かり次第お伝えしますので、それまではクッシーロ領主としての仕事をなさってください」
逃げるように客間から出て行くアリサ皇女の背中に向かって叫ぶ。
「待って下さい! シムカさんには刀を一ヶ所に集めるなって言われました。僕はこのまま集めて良いのですか?」
「シムカがそんなことを? 分かりました。それもわたくしの方で確認をいたします」
やはり逃げようとするアリサ皇女を訝しんでいると、ヴィオラに腕を引っ張られた。
「女の子には聞かれたくないことの一つや二つあるものよ。それでいつになったらわたしの手入れをしてくれるのかしら?」
「あ、あぁ。色々あったからすっかりご無沙汰だったね。じゃあ、始めようか」
久々にヴィオラとヒワタの体と刀身を清めた僕は朝一番でクッシーロへ戻る為に早めに就寝することにした。




