第17話 入れ替わり制度
「なんでここにいる!?」
ナガリは勢いよく顔を上げて取り乱した。
「剣の勇者様には不審な点がありましたので監視をさせていただきました。それにドクタャブについて調査するように勅命を受けています」
擬刀化を解いたヴィオラは地面にうなだれ、僕の左手から滴る血液が血だまりをつくっていた。
「この場を立ち去りなさい。ゼィニクのもとへ戻り、王宮へ参上するように伝言を。これは皇帝陛下のご命令です。拒否するようであれば、今ここで」
アリサ皇女の雰囲気が一気に変わる。
僕の前では天使のような笑顔を見せてくれる彼女からはドス黒いオーラが溢れ出ているようだった。
「チッ。鞘野郎、俺はまだ負けてねぇぞ。絶対にお前を倒してこの世界で唯一の勇者になってやる!」
負け犬の遠吠えのような台詞を吐きながら、ナガリは閃刀『雷覇』を杖代わりにして歩き出した。
その事に文句を言う元気もない僕はヴィオラの隣に倒れ込み、黒雲の晴れた空を見上げる。
「ごめん、ヴィオラ。ちゃんと手入れするから」
「ん。あたりまえよ」
クッシーロ更生施設へと戻った僕たちはヒワタの手当てを受けて、事の顛末をアリサ皇女に伝えた。
この施設を駆け込み寺のように使用している一部の人々も領主ドクタャブの悪行を暴露し始め、その全貌が明るみとなる。
どうやらドクタャブは葬刀『紅縞』で町人を罹患させ、医師として高額な治療を行っていたらしい。
不信感を抱く者もいたようだけど、お年寄りたちはドクタャブの言いつけを守り、子供たちに薬代を稼がせていた。
その影響で心身ともに病んでしまった者たちがこのクッシーロ更生施設を憩いの場としていたのだ。
「それはひどい話です。わたくしもドクタャブがここまでのことをしているとは知りませんでした。申し訳ありません」
この世界を支配する皇帝の娘であるアリサ皇女が頭を下げたことに驚き、人々が平伏する。
「弱肉強食である帝国の制度に則り、クッシーロ領主の座はドクタャブから鞘の勇者様へ譲渡されることになります」
「えぇ!? 僕はここの人たちの助けになりたいだけですし、さっきもナガリを助けただけで領主を倒すつもりなんてなかったのに」
「仕方のないことです。併せてナイトオブクワットロの末席も入れ替わることになるでしょう」
この前も聞いたけど僕はナイトオブクワットロについては何も知らない。
そんな謎の役職に就くなんて嫌だ
「ナイトオブクワットロは皇帝直属の騎士四名で構成される最強の騎士団です。鞘の勇者様にも純白の騎士服が支給されます。きっとお似合いでしょう」
ォショウさんとドクタャブが着ていた白い服のことか。
アリサ皇女は満面の笑みだけど、僕は不安でいっぱいだった。
「任命式の準備が整い次第、鞘の勇者様には帝都へお越しいただき、皇帝陛下とご対面していただきます」
「えぇ!? 僕はナイトオブクワットロの地位に興味はありませんよ」
「それでも拒否することはできません。鞘の勇者様が拝命しなければナイトオブクワットロの末席は空席となり、このクッシーロ領は荒廃するでしょう」
可愛い顔をしているけど、やっぱり強かな女性だ。
僕は究極の二択を迫られている。
「サヤ様、アリサは一筋縄ではいかない子です。ここは保留という形で逃げてもよい局面と存じます」
「でも……」
ヒワタは僕の左手を軽く持ち上げて優しく包み込む。
ヴィオラが鞘の中で眠っている今、頼りになるのはヒワタだけだ。
「まずは体を休めてください。お目覚めになるまでこの施設は私が守ります。吹雪を起こす許可をください」
僕はアリサ皇女、ヒワタ、施設職員や利用者を見回し、ゆっくりと頷いた。
「クッシーロ更生施設を一時閉鎖し、あとの事はヒワタに一任します。アリサ皇女殿下、この話は保留とさせてください」
「もちろんです。お体をご自愛ください。では、わたくしはこれで失礼いたします。騎士服に身を包んだ鞘の勇者様のお姿を楽しみにしております」
赤紫のドレスを軽く持ち上げてお辞儀したアリサ皇女はヒールを鳴らしながら施設をあとにした。
この短時間で多くのことが起こりすぎて、すでに僕のキャパシティを越えている。
施設長室に戻った僕は泥のように眠り始めた。




