第16話 勇者同士の戦い
「助けてもらったのにお礼の一つも言えないわけ?」
ヴィオラが冷酷な視線と言葉を浴びせている。
「これから俺の大逆転劇が始まるところだったんだよ! お前の刀を寄越せよ、鞘野郎!」
どう見てもボロ負けしていたけどなぁ。
クシマのおかげで回復したナガリは閃刀『雷覇』を支えにして立ち上がった。
「元々、岩に刺さっていた刀だけど、そういう使い方はよくないと思う」
「はぁ? 調子に乗るなよ。ライハをどう使おうが俺の自由だろ!」
ナガリが刀を放り投げるとボーイッシュな女の子の姿となって着地した。
その細い首には分厚い首輪が巻かれていて、ジャラジャラと音を鳴らす鎖がナガリの手に握られている。
「ライハ!?」
「なんてことを」
ヴィオラとヒワタが声を上げる。
僕も穏やかではいられなかった。
「それが剣の勇者のスキルか」
「おうよ。スキル『従属』を使ってこいつを使役している。お前も一緒だろ?」
「そんなわけないでしょ! いい加減にしなさいよ!」
僕が否定する前にヴィオラが声を荒げていた。
その姿に感動して少し涙が出たのは内緒だ。
「僕はこの子たちの友達だ。困っていたら力を貸してくれるし、僕も力を貸す」
「笑えるぜ。俺はお前の持つ刀を奪って残りの刀も集めて世界最強の男になる! そもそも、お前は刀を集める理由がねぇだろ」
ヒワタは呆れ返って目頭を押さえているし、ヴィオラは地団駄を踏んでいる。
ライハは黙って僕を見つめていた。
「僕は離ればなれになったヴィオラたちを再会させて、それぞれの苦しみから解放したい。そして、元の世界に帰るんだ!」
「あんな世界に未練があるのかよ。この世界は強い奴が正義なんだ。ライハ! 奴らを破壊しろ!」
悲痛な叫び声を上げるライハが僕たちに襲いかかる。
僕を庇うように立ったヴィオラとヒワタがライハの拳を受け止めていた。
「ダメだ、姉妹同士が争うなんて間違ってる! ライハを止めろ、ナガリ!」
「俺に命令するな!」
頭に血が上っているナガリには何を言っても無駄のようだ。
「ライハ!、これがきみの鞘だろ!」
僕は左腰に装備している一本の鞘を抜き取り、ライハの前に突き出す。
その鞘は漆塗りの上から稲妻の模様が施されていた。
「ッ!?」
「てめぇ、裏切りは許さねぇぞ!」
更にスキル『従属』の力が強くなったのか、ライハは人型から刀の姿を変えてナガリの手に渡る。
その瞬間、空を黒雲が覆った。
「マズいです、サヤ様。避難しないと落雷に撃たれます」
「でも、ライハが。ヴィオラなら遠距離からナガリに攻撃できるよね!?」
期待の眼差しを向けるもヴィオラは申し訳なさそうに眉をひそめて首を振った。
「音速では光速に敵わないわ。わたしではライハに勝てない」
「そんな……」
二人に手を引かれ、走り出す。
僕はナガリが天空に掲げる閃刀『雷覇』を見上げながら足を動かした。
ゴロゴロゴローーッ!!
雷鳴はどんどん近づき、稲光も強さを増していく。
「これが力だ。恐れ戦け! 震えて逃げろーっ!」
稲妻は僕を狙って落ちてくる。
足を止めることが自殺行為だということは分かっているけど、どうしてもそうせずにはいられなかった。
一つの可能性に賭けて鞘を頭上に掲げながら叫ぶ。
「ライハ、絶対にきみを助け出す! だから、きみも頑張って抗え!」
ドゴォォォンッ!
より一層、大きな音が鳴り響き、僕の頭上を目がけて雷が落ちた。
「あなたぁぁあぁぁ!?」
「サヤ様ぁぁあぁぁ!?」
稲妻が落ちる速さに対抗することなんて不可能だ。
しかし、『雷覇』の鞘は同じ威力で放電し、僕を守ってくれた。
「僕は死なない。最後まで抗ってみせるぞ。ヴィオラ、力を貸して!」
スキル『契約』が発動し、僕の左指に嵌められた指輪が光を放つ。
擬刀化したヴィオラを鞘から抜き、演奏の構えをとる。
一日に連戦するのは初めてだけど、そんなことを言っている余裕はなかった。
「ヴィオラ、自信を持って。ナガリはライハの本来の力を発揮できていないはずだよ。雷光には勝てないけど、雷鳴には対抗できるよね」
肩の上に置いた鞘に刀の峰をあてがい、首を傾ける。
ヒワタにライハの鞘を掲げてもらって右手でボウイングを始めた。
この間も雷光が放たれているけど、ライハの鞘があれば問題はない。
あとは雷鳴に負けない速度でナガリの耳に音を届ければいいだけだ。
「響刀『美蘭』、格式奥義――剥牙絶弦」
高速で鞘の穴を押える左指の豆が潰れ、痛みが走り、出血する。
それでも僕は演奏を止めなかった。
「ぐっ。ぐあぁ!?」
効いてる!
このまま押し切れば勝てる。
「サ、サヤ様……?」
勝てる、勝てる、勝てる、勝てる。
このまま一気にいく。
「ぐあぁぁぁあぁぁぁ」
ナガリが膝から崩れ落ち、僕は勝利を確信した。
それでも指先は止められなかった。
「そこまでです。もう勝負はついていますよ」
鈴を転がすような声が聞こえ、僕は両腕を降ろす。
気づくとナガリは耳から血を流しているし、僕の指の皮はずる剥けになっていた。
「アリサ皇女」
「勇者同士の争いは何も生みません。この戦いは鞘の勇者様の勝ちですのでどうか怒りを鎮め、響刀『美蘭』を納めてください」
天使のように微笑むアリサ皇女に従い、僕は刀を鞘に納めた。




