第15話 わがままな刀姫
「上手くいって良かった」
ドクタャブが息をしていることを確認して、僕は安堵の息を吐いた。
買い物に出たところで雷は鳴り始めるし、人が倒れているし、何事かと思い慌てて来てみれば倒れているのは同じ勇者のナガリだった。
最初はヒワタに任せるつもりだったけど、ドクタャブの刀が近接戦闘用だと知ってヴィオラにお願いしたのは正解だったようだ。
まさかナガリが来ているとは思わなかった。
確か、あの刀は雷を操れるんじゃなかったっけ?
負ける要素がないはずなんだけどな。
さっきは格式奥義の楽譜と癒しの音源の楽譜が脳内に浮かび上がり、勝手に指が動いていた。
ヴィオラが手伝ってくれたんだろうけど、こんなに滑らかに指が動いたのは初めての感覚だ。
「あ、あ、あなたぁああ!? 今のはどうやったの!?」
擬刀化を解いたヴィオラが僕に詰め寄る。
「どうって言われても。ヴィオラが手伝ってくれたんでしょ?」
「い、いや、不可能よ! 伴奏じゃないのよ!? 全く別の曲を同時に弾くなんて絶対に不可能よ!」
ヴィオラの驚きようは僕以上だった。
「サヤ様、すごいです! ナイトオブクワットロの一人を倒してしまうなんて、さすが私のご主人様です」
ヒワタまでもが感嘆の声を上げる。
可愛い女の子に褒められると照れるけど、照れてる場合じゃない。
「ヒワタ、ナガリの手当てをできますか?」
「ふとももの傷は塞げますけど、今の症状までは……」
「ムリだよー」
レイピアだったツインテールの女の子はケラケラと笑いながら僕を見上げて首を傾ける。
「クシマ的治療じゃないと治せないよー」
「じゃあ、お願いできるかな」
「いいけど。一回だけ、おにいちゃんが持ってる鞘の中に入れてよ。一回だけ」
「ずっと入っててくれて構わないよ。僕としてはきみも収集対象だからね」
「それは嫌ー。クシマ的には自由でありたいのー」
見た目通りの幼さというか、わがままな女の子は僕の右腰にあるまだら模様を施された鞘を指先でなぞる。
「ムリならいいよー。あと少しで死ぬしー」
ナガリに良い印象はないけど、このまま放置してしまえば人殺しと同じになってしまう。
僕はクシマと目線を合わせて小指を突き出した。
「これ知ってる。お父様もやってた。じゃあ、嘘ついたらクシマ的な針千本のーます」
クシマは擬刀化して鞘の中へ納まるとすぐに飛び出して少女の姿に戻った。
「んー! 中は窮屈だけど、リフレッシュかんりょー」
クシマがナガリのふとももに手を当てるだけで彼の呼吸が落ち着き、痙攣もなくなった。
「ありがとね、鞘のおにいちゃん。また来るかもー。クシマ的な鞘を大切にしてねー。誰にも負けちゃダメだよー」
クシマは僕の腰に手を回して抱きついてきた。
体に目立つ凹凸がないからドギマギすることはなかったけど、鞘をなぞられると背筋がゾクゾクしてしまう。
「うぶな反応が可愛いー。おにいちゃんがザコじゃないなら、クシマ的に好きになっちゃうかもー」
「ク、クシマ。ドクタャブをどうするつもり?」
僕は慌ててクシマを引き剥がした。
「連れて帰るよー。クッシーロはおにいちゃんの好きにすればいいよー。どうせ、アリサが来ると思うしー」
クシマもアリサと知り合いなのか。彼女たちの交友関係は広いんだな。
「じゃあねー、バイバーイ」
小さな体で成人している男を引きずりながら歩き出す。
僕は顎が外れるほどビックリしていたけど、二人はそうでもないようだ。
「ほんと嫌い」
「あらあら。相変わらずクシマちゃんは自由ね。後宮仕えをしていたときから、なぜか多くの人に可愛がられるんですよ」
ヴィオラと相性が悪いのもなんとなく分かるし、ヒワタが言っていることも分かる気がする。
何をされてもある程度のことは許してしまいそうになる不思議な魅力を持っているのがクシマという女の子なのだろう。
「サヤ様、こちらの方はどなたです?」
「もう一人の勇者で、僕を追放した男とつるんでいる」
僕は目の前の問題を解決するために寝そべるナガリへと視線を向けた。
「まぁ! ではサヤ様はクシマの収集よりも敵の命を重んじたということですね。なんて御心の広い方でしょう」
緊迫した場面でもマイペースなヒワタが僕の腕に絡みついてくる。
この光景を見上げるナガリは苦虫を噛み締めたような表情となって拳を地面に叩きつけた。




