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第14話 剣の勇者、敗北の味を知る

【ナガリ視点】


「ちょっと目を離すとすぐこれだよ。領主としての面目丸つぶれだからさ、そこを退いてくれよ少年」


 町から伸びる道で目的の人物と接触した俺は先制攻撃を仕掛けた。

 しかし雷鳴を轟かせる一振りをいとも簡単にかわされ、優男が優雅に隣を通り過ぎる。


「もうすこし楽しみたかったな。まさか典獄がやられるとは思ってなかったし。これじゃ、実験も続けられないな」


 純白の服の上から白衣を着ている男が持っている武器は到底、刀とは呼べないものだった。


「なんだよそれ。まるでレイピアじゃねぇか」


「あー、これ? 葬刀そうとう紅縞くしま』、ボクの助手さ。きみの刀も特殊だねー」


 こいつが最北端のクッシーロの領主、ドクタャブか。

 絶対にクッシーロ監獄には行かせねぇぞ!


「おい、その刀を置いていけよ」


「大切な助手だからダメだよ。そうだ。きみもボクの患者になってよ」


 ハイライトのない瞳が向けられ、背筋が凍るような感覚に襲われる。

 こいつはやべぇ。

 病院なんて片手で数えるほどしか行ってねぇが、白衣を着てる奴の目じゃねぇな。


「あら、先生! こんなところで何をしているんです?」


 通りがかった老婆が親しげにドクタャブに話しかけると奴は一瞬にして表情を変えて応対した。


「こんにちはー。新患さんですよ。また変な病気が流行りそうですねー」


「あら、怖いわね。あ、そうだ。先生にいただいたお薬がなくなりそうで、また診療所に行ってもいいかしら?」


「もちろんです。いつでもどうぞ」


「最近は一番上の孫も働き始めたから、先生のところに何度も行けるようになって嬉しいわね」


「ハハッ。ボクも嬉しいですよ。皆さんの健康がボクの幸せですからね」


 会釈をして町へ向かっていく老婆の背に手を振り終えたドクタャブはまた冷酷な表情になって口角を吊り上げた。


「ということで、新患さんを迎えよう」


 目にも止まらぬ速度で突き出されたレイピアが俺のふとももを掠める。


「……てめぇ、なに……しやがった」


「葬刀『紅縞』は触れた相手にランダムで病気を発症させる。まだ生きているなら即死系の疾患ではなかったみたいだねー。さて、診察を始めよう」


 冷や汗は止まらず、手足の痙攣が強くなっていく。

 意識が朦朧となり始めたとき、尋常ではない寒気に襲われた。


「ドクター、クシマ的に好きじゃない子がきちゃうかも」


 生意気そうなガキの姿になったレイピアが俺の手元を一瞥して、視線を元に戻す。

 クソッ。なんで俺は勝てねぇんだ!


 声を出せずに凍えている俺の頬に冷たいものが触れた。

 病気のせいで極限まで体が冷えたのかと思ったが、それは思い違いだったらしい。

 この地域一帯の気温が急激に低下して、雪が降り始めていた。


「ヒワタはその人を守ってください。白衣の人は僕が抑えます」


「あらあら。随分とたくましくなられて。でも、気をつけてくださいね。その人はクッシーロの領主、ドクタャブです」


「この人が!?」


 俺を庇うようにしゃがんだ雪女の手の甲にはライハと同じ刺青が彫ってあった。


「そうか。お前がクッシーロ監獄の経営理念をねじ曲げた少年かー。クシマ、新患だよ」


「んー、クシマ的には、おにいちゃんとは戦いたくないかなー。ドクターとは相性が悪いよ?」


「そんなわけないだろ。さぁ、診察を始めよう」


 渋々といった様子でクシマと呼ばれた女がレイピアへと姿を変えた。

 残念だったな、鞘野郎。お前も一瞬で病気にされるだろうよ。


響刀きょうとう美蘭ヴィオラ』、格式奥義――剥牙絶弦」


「なっ!? なんだ、そのふざけた構えはっ!」


 鞘野郎が鞘と刀で音を奏で始めた直後、ドクタャブはレイピアを落として両耳を塞ぎながら地面を転がり始めた。

 遂には耳からは血を、口からは涎を垂らしながら絶叫している。


 分からねぇ。

 俺には心地よい音色にしか聞こえないのに、ドクタャブにはどう聞こえてるんだ!?


「あぁー。だから言ったのに。泣き叫ぶことしかできないヴィオラと喧嘩するなんて絶対に嫌ー」


 クシマは女の姿に戻って、鞘野郎へと歩み寄る。


「ドクターは意外と脆いからこれ以上やると本当に死んじゃうよー?」


「そっか。じゃあ、この辺りで止めよう」


 演奏が止むと刀は拘束具のような服装の女の姿になった。


 おいおいおいおいおいおい。

 どうなってやがる!?


 なんで鞘野郎の周りに女が三人もいるんだよ!?


「ふん。みっともない。このクズ」


 うるせぇ、うるせぇぞ、ライハ!

 なんで、あんな奴に助けられねぇといけないんだぁぁぁ!

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