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第13話 早すぎた同盟の申し出

 ヒワタのおかげで僕たちは拠点を手に入れた。


 クッシーロ監獄は無事に更生施設として機能し始め、元囚人たちも日常生活復帰のために日々頑張っている。

 閉ざされ続けた門を開き、吹雪を止めた甲斐あってか一般の人が多く利用するようになった。


 暖房完備、掛け流しの温泉を入り放題にした恩恵は大きいみたいだ。


 噂が噂を呼び、ただの温泉施設になっている状態だけど、僕にできることがあるなら少しでも役に立ちたい。

 そんな思いを持って今日もステージに立つ。


 響刀きょうとう美蘭ヴィオラ』には心を癒す効果もあるので一日三回の演奏を行い、それだけを聴いて帰って行く人もいる。


「サヤ様みたいな人がクッシーロの領主になってくれればいいのに」


「確かになぁ。でも、そんなに頻回に領主が変わるのもなぁ」


「ドクタャブ様は病気はすぐに診てくれるし、罪人はすぐに懲らしめてくれるけど、医療費がな」


 ここ最近そんな話を多く耳にするようになった。

 クッシーロ監獄もドクタャブって人の管理下だったのなら、僕はマズイことをしてしまったのかもしれない。


「いっそのこと、サヤ様がクッシーロ領を治めて、ナイトオブクワットロになってしまえばいいんだ!」


「ナイトオブクワットロ?」


「皇帝陛下に忠誠を誓う最強の騎士たちさ」


「僕はそんなに強くないですよ。それに忠誠を誓うっていうのもよく分かりませんし」


 本日二回目の公演を終え、利用者たちと雑談をしていると一人の男性が駆け込んで来た。


「まずいことになったぞ、ボウズ! 今すぐ来てくれ!」


 元門番のおじさんは僕の腕を掴んで施設長室へと向かう。


「きみがクッシーロ監獄、おっと、失礼。クッシーロ更正施設の管理者だね。我はォショウと言う者でこの施設の見学に来た」


 純白の服の上から法衣を着ている壮年の男性が強者なのはすぐに察しがついた。

 ソファに座る彼の隣にはおかっぱ髪の女の子がちょこんと正座している。

 間違いない、十刀姫だ。

 僕の直感がそう告げている。


「佐山 冴也と申します。この施設は関わってくれている全ての人のおかげで運営できています。僕は見守っているだけです」


「そうかそうか。さて、腹を割って話そうか、鞘の勇者殿」


 さっきまでなかった鋭さに背筋が伸びる。

 思わず臨戦態勢に入ってしまいそうになる気持ちを抑えていると、遅れて入室したヴィオラとヒワタが僕の両サイドから手を握ってくれた。


「あ、ヴィオラ。それにヒワタ」


「ん? スミワじゃない」


 これで確信を得た。ォショウと名乗る男性も刀の所有者だ。


「ほぉ。それが行方知れずだった響刀『美蘭』と盗まれたという寒刀かんとう氷綿ひわた』か」


 バンッ!


 思いっきり机を叩き、睨みつける。


「それ? 僕の友達をそれ呼ばわりですか?」


「……ほぉ」


 彼らは微動だにしなかった。

 僕が熱くなっていると隣のヴィオラとヒワタもやる気満々の様子だ。


「あ、あのよ、ボウズ。その方に喧嘩を売らない方がいい。ナイトオブクワットロの首席、ォショウ様だ」


「あなたがナイトオブクワットロ?」


「いかにも! といってもそれは肩書きだけで普段は小さい寺院で孤児たちの相手をしている。今日はクッシーロ監獄が変わったと聞いて見学に来たまでよ」


 ソファに座り直すとスミワと呼ばれた女の子が僕の腰をぼーっと眺めていた。


「あれがスミワの鞘か?」


「はい。間違いないのです」


 僕の左腰に装備された一本の鞘は漆塗りの上からキラキラパウダーをまぶしたような模様が施されている。


「鞘の勇者殿よ、その鞘を譲ってはくれないか?」


「お断りします。僕はォショウさんの隣にいるスミワさんと友達になりたいですね」


「……友達」


 スミワはボソッと呟いたあとでォショウさんの服の袖を引っ張る。


「それは叶えられるかもしれん。同じ弱き者に助力する男として同盟の話を持ちかけたい」


「同盟!? このクッシーロ領は僕の所有地ではありませんよ!」


「いずれはそうなるだろう。そのときには仲良くしてくれよ」


 ォショウさんは出口へと向かって歩き出し、その後ろをスミワがついて行く。

 僕たちも大門まで見送っていると、一人の元囚人とすれ違う際にスミワが擬刀化して、ォショウさんの手の中に収まった。


「なにを!?」


 確実に斬られたはずなのに元囚人は何事もなかったかのように自室へと向かい歩き出す。


「な、なんで……?」


核刀かくとう澄和すみわ』は人の心を斬って浄化する。あの者で最後のはずだ。少しでも冤罪の罪滅ぼしになれば良いのだが」


「知っていたのですね」


「それがクッシーロのやり方だと言われれば逆らうことはできない。もしも鞘の勇者殿がこのクッシーロ全体を変える気なら我はその考えに賛同しよう」


 そんなことを言われても僕はただの高校生で、領地を管理する力なんてない。

 これまでもリーダーなんて役割は他の人に譲ってきた人生だったんだから。


「この事態にドクタャブは黙っていないと思うが自分の信じる道をゆけ。皇帝陛下には鞘の勇者は信用に値すると進言しておこう」


 擬刀化を解いたスミワが無表情のままでこちらに手を振っている。

 僕が手を振り返すとヴィオラが手を無理矢理に下ろし、渾身のあっかんべーを披露し始めた。

 義理とはいえ姉妹なら仲良くしようよ。


「もしも、我の身に何かあればスミワを頼む」


「それは願ってもないお話です」


 小さくなる背中を見届けると黙っていた元門番のおじさんたちが歓声を上げた。


「ボウズ! やったな!」


「え、え!? なんですか!?」


「ナイトオブクワットロだよ! 本当に世代交代があるかもしれねぇ! クッシーロが変わる日も近いぞ!」


 僕だけを置き去りにして周囲の人たちだけが大いに盛り上がっていた。

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