第11話 二人よりも三人で入浴する方が水かさは増す
翌日。起床するとヒワタはどこかに消えていて、猛吹雪もおさまっていた。
「す、すげぇ。ここの吹雪が止むなんてありえるんだな」
長年勤めている看守たちですらも驚く出来事らしい。
寒いのが苦手な僕としてはありがたい。
それにしても、この監獄は室内でも寒すぎる。
もっと防寒対策をしても良いと思うけど。
「サヤ様、こちらをお受け取り下さい」
ヒワタがクッシーロに戻ると同時に雪が降り始めて、吹雪が発生した。
どうやら、この土地の気象は彼女に依存しているみたいだ。
「これは?」
「皇帝陛下からの勅令です。クッシーロ監獄はサヤ様の好きにして良いとのご命令です」
「え? ヒワタって何者なの!?」
満面の笑みだけど決して口を開けて笑わない彼女は常にお姉さんの雰囲気をまとっている。
「アリサに頼みました。これで一つ罪を償えたでしょうか」
えぇ……。
アリサ皇女殿下って本当にすごい人だったんだ。
そんなすごい人にコンタクトを取れるヒワタも十分すごいと思うけど。
「やってくれたな、小僧! 小娘ども! これでもう終わりだ。こうなったら!」
激昂した典獄は全ての牢屋の扉を壊して周り、囚人たちが我先にと門へ向かう。
「な、なんてことを!」
ヒワタと看守たちが顔色を真っ青にする中、ヴィオラだけは冷静に僕の服の袖を掴んだ。
「あなたはここの新しい長になるのよね? だったら、誰が支配者か教えてあげないと」
擬刀化した『美蘭』と鞘を持ち、演奏を始める。
その音色は聞く者全ての意思を操り、服従させる恐ろしいものだ。
「一瞬で囚人たちを牢に戻すなんて!? すごすぎます、サヤ様!」
べた褒めしてくれるヒワタに照れていると人の姿に戻ったヴィオラがすねを蹴っ飛ばしてくる。
もう少し、可愛い拗ね方をして欲しいなぁ。
「あなたはわたしだけの主なのよ。昨日の台詞もわたしは納得していないわ」
「ごめんって、ヴィオラ」
その後、典獄は懲戒免職となり僕が代わってクッシーロ監獄の責任者となった。
勅令とはいえ、ただの高校生にそんな重役を任せてしまってよいのだろうか。
看守たちや今さら外の世界に放り出されても生活を営めない冤罪の囚人たちは、希望者のみこの監獄で暮らしてもらうことにした。
日常生活復帰の為の訓練所や更生施設になれば良いなと思っていたりする。
さしあたって、暖房設備を整えたい。
「サヤ様、私を正式な所有ぶ――」
ヒワタの言葉を遮るようにヴィオラが腕を叩いた。
本当は頭を叩きたかったみたいだけど、身長差があって諦めたみたいだ。
「それ禁句だから。次、言ったら壊すわよ」
「あらあら。引っ込み思案なヴィオラちゃんがこんなに熱くなるなんて、本当にサヤ様は良いご主人様なのですね」
スキル『契約』は何度やっても発動できず、ヒワタとの間に縁が生まれなかった。
「あ、あれ? おかしいな。ヴィオラのときはすんなりできたのに」
「あらあら。困りましたね。でも鞘には納めてくださいますよね」
雪の結晶の模様を施された鞘を取り出して、擬刀化した寒刀『氷綿』を納める。
「これで元鞘ってね」
直後、脳内に情報が開示された。
寒刀『氷綿』
美しさに主眼を置いて創られ、"凍死"を象徴としている。
突き刺した瞬間から体温調節機能が限界を迎えるまで体を冷やし、循環機能や神経機能を麻痺させて死に至らしめる。
「ヒワタも大概だね」
「私の能力が分かるのですか!?」
「ごめんね。勝手に見ちゃって」
何度やっても僕の意思では刀を抜けなかったけど、ヒワタの意思では刀と人の姿になれるらしい。
体育の授業で剣道をやったときも突きなんてできなかったから格式奥義は使えなくて良かったかもしれない。
「ヒワタはクッシーロの気象を操れるみたいだから僕たちの家の守りを任せてもいいかな?」
「もちろんです。精一杯勤めさせていただきます」
「僕がここから出るときは吹雪を止めてね」
ヒワタは薄手の着物姿で僕の腕に体を密着させる。
「少し寒い方がこうしたときに温かいですよ。ねぇ、サヤ様?」
なっ!?
ヴィオラとは全然違う!?
「全部、聞こえてるからね」
凍死を象徴とする刀と同じくらいの冷気を放つヴィオラをなだめる為に頭を撫でていると、上目遣いで猫なで声を上げる。
「さっさと終わらせて暖かいお風呂に入るのでしょう? わたしの手入れを忘れないでね」
「そうだった。今回は雪で濡れちゃったから念入りに刀身を手入れするよ」
「それは当たり前。こっちもね」
相変わらず小悪魔の笑みで新設した浴場へと手を引かれる。
その反対側にはずっとヒワタがくっついているわけで……。
「あらあら。体のお手入れまでしていただけるのですか? それはありがたいです。是非、私もお願い致しますね」
気合いを入れないと鼻血が止まらなくなりそうだ。
僕は覚悟を決めて、脱衣所へ足を踏み入れた。
寒刀『氷綿』、収集完了。




