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97ページ目 再戦

 ──刹那、闇魔法と炎、風が同時に打ち出された。それを虚無の境地は跳び上がって避け、空気を蹴って文字通り飛躍する。


「飛行魔法を使わずに空が飛べるのか」


「ああ。結構簡単だぜ? 音速以上で空気を蹴って足踏みすりゃ浮けるんだ。自由はあんま利かねェけど」


「そうか」

「ハッ、遠距離を詰められる魔法にゃ意味もねェな」


 返し、闇魔法の槍を複数虚無の境地へ打ち出す。それに続くよう、炎魔法と風魔法が放たれた。

 それら全てを最小限の動きでかわし、ホムラの眼前に迫る。


「ほら、間合いに入っちまった。ま、攻撃するのは少し調整が必要だけどよ」


「……相変わらず敵意を向けずに仕掛けられるのか」


「応ともよ。けど今はあんまし戦う気はねェから、今のお前らの力を見たらテキトーに終わらせる」


「余裕の態度もそのままか……!」


 迫ったは迫ったが虚無の境地は特に仕掛けず、ホムラは無数の闇魔法を鞭のように叩き付ける。

 その一つ一つは凄まじい速度であり、音速は遥かに超越している。一つ一つはソニックブームによって周囲を切り裂き、周りの地形を変えて行く。が、虚無の境地には掠りもしなかった。


「かなりの速度。狙いも正確だ。そしてある程度の予測をして仕掛けている。なのに当たらない。何故か分かるか?」


「さあな。単純に速さの問題だろ。アンタは軽く動くだけで音速を越えているからな。俺の闇魔法なんかスローに見えている筈だ」


 ホムラの闇魔法を称賛はするが、当たらない。皮肉にしか聞こえないがどうやらそうではない様子。

 ホムラはテキトーに返し、変わらず闇魔法にて仕掛け続けた。

 虚無の境地はそれも避けながら話す。


「ハッ、それはそうだ。だが、例え光の速度でもお前の闇魔法は俺にゃ当たらんよ」


「……流石に光は避けられないだろ」


「避けられるさ。だって俺だからな。俺が出来るって言や出来るんだよ」


 曰く、やれると思えばやれるとの事。

 それが虚無の境地の能力……ではないにせよ、妙な信憑性はあった。

 虚無の境地は更に言葉を続ける。


「テメェも闇魔法を使ってみてある程度は理解したろ? 闇魔法は自由自在に形を変えられる。意のままにな。つまり、俺に当てるイメージをすりゃ良いだけだ」


「アンタに?」


 それは当てるイメージをするだけと言う。

 正直何を言っているのかは分からない。故に聞き返し、虚無の境地は笑った。


「魔法……つまり魔力はイメージの解釈によって変化する。それは知ってるだろ? 詠唱って言うのは自分がそれをやれると言い聞かせる事が真髄だからな。言葉に出す事で力はより高まる。それが真実になる。テメェの闇魔法は更に特殊。多分攻撃以外にも色々使えんだろ? だったらその応用で俺を狙えりゃ良い」


「成る程な。果たしてそれを俺に言って良いのか気になるけど、アンタの事だ。その方が面白いとでも考えているんだろ?」


「ご名答。心の許せる仲間や共に高め合えるライバルは人生に必須だ。それがなきゃ下らねェ人生を歩む事になる。他の王族や貴族みてェにな。だからこそ、俺様はテメェと高め合うって訳よ」


「そうかい」


 闇魔法を一斉に放出。虚無の境地はその全てを紙一重で避け、ホムラの意図を理解して距離を置いた。


「魔力の解釈を広げる。それでアンタを確実に仕留めるイメージか」


「「…………」」


「クク……」


 イメージを高め、魔力を広げる。セイカとフウはその様子を神妙に見つめ、虚無の境地は不敵な笑みを浮かべていた。

 魔力を展開したホムラは口を開く。


「──闇よ、万物を飲み込みし闇よ、その力を解放し、制御不能の破壊を与えん」


 闇が広がり、セイカ、フウ、ガルムの近くで止まる。

 虚無の境地は片手に力を込めて笑い掛け、ホムラは目を見開いた。


「破滅、死滅、絶滅。世の破壊をその闇に宿し、敵を討て──“闇の通り道(ダークネスライン)”」


 ──瞬間、一筋の闇魔法が虚無の境地目掛けて放たれた。

 それだけならば今までの闇と同じ。今回はただ一つの線。そんな、たった一つの線に含まれた破壊の余波は凄まじく、線の触れた空間が削れて歪んでいた。

 試しにそれを避けてみるが、避けた先にも闇が迫る。それを確認した虚無の境地は笑う。


「クハハ! そうだ。これこそ俺が望んだ攻撃。……ちとマズイかもな……!」


 高らかに笑い上げる虚無の境地だが、即座に冷静になって力を込め直す。

 本人曰くマズイとの事だが、まだある程度の余裕は持っていた。


「ハッハァ! 受けて立──」


 同時に拳を突き出し、闇の線に打ち付けた。威力はかなりのもの。山くらいなら吹き飛ばせる破壊力。

 拳と闇。それによって生じた衝撃波で闇が広がり、元々暗い“星の裏側”が更に黒く染まった。



*****



「ハッ、期待通りだ。満足したぜ」


「成る程な。これでようやくアンタにかすり傷を与えられるようになった訳か」


「ああ。悪くねェ攻撃だった。炎の四宝者の次くらいの威力だ」


「本当に凄いな。ゴウのアニキは」


 闇が晴れ、かすり傷と土汚れを負った虚無の境地が満足そうに笑っており、ホムラはその力を実感した。

 そして改め、この様な虚無の境地に“熱っ”と思わせられるゴウの炎魔法の凄さを理解する。


「結果だけで言えば俺の片腕を斬り落とした時の方がダメージになったが、その時は俺も力を使わなかったからな。滅茶苦茶言い訳しまくるが、今の力を使ってたら俺の左手落ちてねェからな? マジだかんな? 実際今の闇魔法の方が強かったしよ!」


「そうかい。ま、アンタの能力。魔法か魔術か、ゼッちゃん達みたいな特殊能力かは分からないけどそれは知らないから何も言えないな」


「ゼッちゃん? ハッ、テメェ、アイツに会ったのか。大変だったろ? すぐ駄々こねるしよ」


「それは否定しないけど、アンタの能力って何だよ。……そうだな。せっかくだ。ダメージ与えた記念として教えてくれ」


 “人類の敵”のうち、虚無の境地の力だけは分からない。なのでホムラは聞いてみた。

 虚無の境地は少し考え、白い歯を見せて笑う。


「っし、良いぜ。楽しませて貰った。これからも楽しませて貰う予定だからな。教えてやるよ。テメェの力が分かってるのに俺だけ隠すのはフェアじゃない」


 前置きをし、教えてくれると話した。

 それならとホムラは特に返さず、虚無の境地は説明する。


「なに、簡単な事だ。俺は魔力の操作で肉体を強化している。簡単に言えば身体強化パワーアップってところだな。魔力による強化。だからこそ同じように魔力をぶつける事で相手の力を実質的に無効化出来ている」


「成る程な。全部は魔力による強化って訳か。あの馬鹿げた耐久力と速度に攻撃。合点がいく。それと同時にアンタの魔力量が底無しってのも分かった」


 能力は単純な身体能力の強化。それによって魔法の無効化などもしているが、常にあの身体能力を維持しているとなると凄まじい魔力量となる。

 だが、「いや」と虚無の境地は一蹴した。


「別に底無しって程じゃねェよ。前任四宝者の爺さん婆さんとった時は相手の魔法を防ぐ時以外に使ってねェからな。大体素の身体能力だ」


「その方がヤバイと思うけどな。つまるところ、防御以外素で戦って前任四宝者に勝利した訳か」


 無尽蔵ではない。無尽蔵ではないからこそ素の力のみで前任四宝者を倒した。

 然り気無く言い放った言葉だが、それは虚無の境地の異常性をより一層表している。


 前四宝者の攻撃に防御が間に合う反射速度。あの時ホムラが見た、目にも止まらぬ攻防戦は全て小細工無しの素の身体能力だけでやったと言うのは更に倒す事の難易度を跳ね上げている発言だろう。

 強敵なのは元々理解していたが、思った以上に手強い事を実感するハメになった。

 それだけではなく、


「ま、取り敢えず、やられっぱしってのも問題だ。──俺が(・・)テメェと(・・・・)戦える(・・・)って事も証明しねェとな?」


「……!」

「ホムラ様!」

「ホムラ!?」


 ──瞬間、虚無の境地はホムラの眼前に立った。

 ホムラが反応を示し、セイカとフウがその名を呼ぶ。

 虚無の境地の顔が視界に入った時ホムラの身体には闇魔法が纏い、知らない場所に飛ばされていた。


(空間移動……? いや、これは……!)


 同時に強い衝撃がホムラの全身に叩き付けられる。気付いたその刹那に激しい痛みが走った。


「……ッ! 成る程……な。空間移動じゃなくて……普通に殴りか蹴りか、飛ばされただけか……」


 遠方にうっすらと見える拓けた場所。そこに赤い果実の生っている木がある。それからするに八〇〇メートル程吹き飛ばされたようだ。

 見れば背後の崖が崩れ落ちている。崖が緩衝材になったのかもしれない。

 しかも闇魔法が発動している事からするに、


(敵意を剥き出して攻撃した。にも関わらず攻撃が通った……。魔力によって相殺された形跡も無し……単純に闇ごと吹き飛ばされたか。だから生きている)


 瓦礫の中で自分の状態を確認。 口に出すと痛むので脳内で。

 闇魔法の防御自体は、おそらくギリギリ間に合った。だからこそ今のホムラが生きていられる。その上で吹き飛ばされた事も分かった。

 改めて虚無の境地の強さを実感し、目の前にやって来ていたその存在に視線を向ける。


「これで五分五分。俺様の片手の件とさっきのかすり傷はチャラだ。シラヌイ・ホムラ」


「対価が大きいな。アンタ側の。片腕の分をこれだけで済せたのか」


「ああ。何より重要なのは面白ェ事だ。テメェは面白い。だからもう終わりだ。テメェが持ってる片手は……ま、一先ず預けておくか。また会う為には必要だ」


「そうかよ。そりゃ親切な事で」

「……! ハッ、やっぱりテメェは面白ェ……!」


 闇魔法を展開し、虚無の境地を弾き飛ばす。

 全体への壁。それを広範囲に張った事で虚無の境地でも避ける事が出来ずに弾かれたのだ。

 ホムラは痛む身体を動かして向き合い、虚無の境地はニッと笑った。


「だが、今日は終りだ終わり。まだ敵討ちはあんだろ? だったら今度は大きく広く、派手な場所でやろうぜ!」


「逃がすかよ!」

「その気概、良いな。最高だ」


 無数の闇魔法を放出。帰りたい虚無の境地はそれらを見切ってかわし、手を振った。


「んじゃな」

「チッ、逃がしたか」


 このままやっても勝てたかは分からない。しかしまんまと逃げられてしまった事に舌打ちする。

 ホムラは一度セイカとフウの元に戻る事にした。

 ホムラと虚無の境地。久々の再開と戦闘。それはまた決着が付かずに終わった。

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