96ページ目 邂逅
──“翌日”。
「じゃ、今日の分のクエストは任せた。俺はガルムと一緒に虚無の境地を探してみるよ」
『バウル!』
次の日、朝食などを終えたホムラがガルムと共に虚無の境地捜索に乗り出した時、セイカ達が声を掛けた。
「待ってください。ホムラ様。私も同行致します。私はいつでもホムラ様と共に……」
「ホムラ。私も……。虚無の境地はゴウお兄ちゃんの仇。私は行く資格があると思う……!」
「あ、私も行きたーい! ホムラと一緒に居たいもんねぇ!」
「ボクもボクも!」
「私も……」
それはホムラに同行したい者達の発言。
セイカは関係的に理解出来、フウの言い分はもっとも。しかしトキ、ゼッちゃん、サチの三人には特に関連性も無い。強いて言えばゼッちゃんとサチが知り合いという事くらいだろう。
そう考えた上でホムラは言葉を発する。
「セイカとフウは虚無の境地と敵として会ってるし、その意見は分かる。……トキ、ゼッちゃん、サチは特に因縁もないからな。戦力は多いに越した事も無いし因縁も必ず必要って訳じゃない。けど、今回は来なくていいよ。戦うって決まった訳でもない。あくまで今回は探索だからな。確定したら何とかして連絡するから、トキ達は今日のクエストを受けていてくれ。いや、連日で受けてるからたまには休むのも良いかもな」
「「そんなぁ」」
「残念……」
諸々の理由から同行は拒否。三人は肩を落とすが意外にもすんなりと引き下がった。
それはおそらくホムラ、セイカ、フウの真剣な面持ちから判断したのだろう。
三人プラス執事、メランとも別れ、ホムラ達はガルムと共に虚無の境地捜索に乗り出した。
*****
「分かるか?」
『バウ!』
「お、歩き出した」
虚無の境地の腕を嗅がせ、ガルムは歩き出す。
ホムラ、セイカ、フウの三人はガルムの横を歩いて進み、向かう先へ行く。
「けど、虚無の境地がこの辺りに現れたと言う情報はありませんし、果たして匂いで追えるのでしょうか……」
「どうだろうな。取り敢えず付いて行って……」
「……?」
ガルムが虚無の境地を追えるのかは分からない。それについて聞かれたホムラは途中で言葉を止め、そのまま一つの事を考えた。
「いや、“星の裏側”から探した方が良さそうだな。虚無の境地は割と頻繁に出入りしていたらしいし、痕跡は残っているかもしれない」
「あ、そうですね。今まで目撃証言が少なかったのも“星の裏側”に居たからと考えれば合点がいきます」
「傭兵的な役割って考えたら表側にもよく出ているんだろうけど、“星の裏側”は人が少ないからな。表側より探しやすさはある」
ホムラの考えはガルムの嗅覚を用いて“星の裏側”を探すというもの。
単純だが、単純だからこそやり易さも出てくる。
早速鍵を使い、ホムラ達は表側から消え去った。
『バウワン!』
「さっきより反応が良いな。じゃ、セイカ。フウ。乗れ」
「は、はい!」
「うん!」
居場所を探知したのか、ガルムは大きく吠える。走り出したのを見計らってホムラは背に乗り、手と闇魔法を伸ばして二人も乗せた。
三人は振り落とされぬようにしがみつき、ガルムは“星の裏側”を疾走する。
「凄い速さだな。真っ直ぐ目的地に向かっているって感じだ」
「それに伴う空気圧も相応ですね……!」
「“風の中和空間”……! これで空気圧は少しマシになりましたよ……!」
「あ、ありがとうございます。フウさん」
ガルムの速度は馬以上。なので風圧は凄まじいが、フウが風の膜を作る事で外部からの圧力を和らげた。
本当に真っ直ぐ進んでいる。匂いがあったとしてもこの勢いは少し普通じゃなかった。
「一体何があるんだ? 虚無の境地の腕には何か仕込んであるのか?」
「さあ……しかし、確実に何かはありますよね……」
「意外と好物の何かがあるとか……」
「「いや、流石にそんな訳──」」
フウの言葉に返した瞬間、ガルムはとある場所に立ち止まった。
そこにあったのは、全てが黒い“星の裏側”にしては珍しく赤い木の実が生った木。
ガルムはハッハツと舌を出してその木を見ていた。
「……。もしかして、そう言う事か?」
「この様子……それっぽいですね……」
「アハハ……まさか本当にそうだったなんて」
ホムラと、セイカですら否定した事柄。それが本当にそうであるとは思えなかった。
三人は肩を落とし、ガルムも近付いた木の方へ──
「お、テメェらも来たのか。良いよな。この木の実。食うだけで魔力を増幅させる事が出来る」
「アナタは……!」
「「……っ」」
──標的が居た。
隻腕で右手に果実を持ち、果汁を飛ばしてかぶり付く存在。
その存在を見た瞬間、刹那にホムラは闇魔法を展開。間髪入れず自身の出せる最速で打ち出した。
「随分なご挨拶だな。相変わらず。けど、前より速くなってやがる。狙いも正確。成長したな!」
「……!」
「「……!?」」
次の瞬間、ホムラ、セイカ、フウの三人の背後に回り込み、ホムラの肩をポンッと叩いた。
機嫌は良さそうであり、ホムラは背後に闇魔法の槍を打ち付ける。
「背面にも対応出来るか。見ずに正確な狙いをして来やがる。ハッハ! 流石だな!」
「テメェ……! 虚無の境地!」
「よっ!」
ホムラの口調は荒いがその者、虚無の境地は何でもないように軽く返す。
その近くでは炎と風が展開されていた。
「“トルネードストーム”!」
「“ファイアライジング”!」
「無詠唱で即興の組み合わせ。風魔法使いの奴は就任式の会場で見たな。んで、ホムラのお嫁さんか。炎と風、互いに高め合う良い仲間じゃねェかよ!」
「「……っ!」」
無詠唱とは言え、上級魔法の組み合わせによる轟炎の竜巻。それを虚無の境地は片手で払い除け、そんな二人を称賛した。
『ガウ?』
「そいつはペットか。けど、此方から何もしなけりゃ襲っては来ない。かなりの力を秘めているが、理由無く暴力は振りたくねェな。特に犬とか猫にはマジで無理だ。その辺の人間全滅させろって方が得意だな。俺。別に愛護団体じゃねェけど。何なら愛護団体の連中の方が殺しやすい」
虚無の境地に敵意は無い。故にガルムは何故主人達が攻撃をしているのだろうと小首を傾げていた。
虚無の境地はガルムの顎を撫で、そんなガルムが近くに居るからこそ攻撃が出来なくなったホムラは闇魔法を展開したまま話し掛けた。
「まさかこんな所で会えるとはな。確かに目撃情報はあったけど、それでも意外だよ」
「そう殺気立てんな。見ての通り俺様は食事中だ。さっきも言ったように魔力も補給出来るから良いぜ。この果実。しかも魔物の肉と違って不味くねェのがもう最高よ!」
「五月蝿ぇ……!」
「ヒデー言い様。ま、しゃーねーか。大事な兄貴分を殺したのは事実だしな。トドメは俺でも、俺の仲間でもねェ野盗が刺しちまったけど」
先程から変わらず果実を食しつつ、淡々と話す。
しかし虚無の境地からもホムラとまた会えた事に対する歓喜の気持ちは伝わってきた。
「俺の仲間達はお前の手によって全滅しちまったし、おあいこと行こうや。俺の仲間になれよ。シラヌイ・ホムラ。何ならお嫁さんと友達もどうだ? おっと心配すんな。他の奴の女に手を出す程落ちぶれちゃいねェ。俺様は根っからの純愛主義者だ。寝取られは寝取った奴も取られた意気地無しも寝返ったビッチも全員殺してやりてェくらい嫌いだからな」
「何を一人で進めているのですか……!」
「誰も貴方なんかに靡かないよ……!」
そして、まだホムラを仲間にしたがっているのは変わらない様子。更に意外と一途な純情派である事も分かった。
どうでも良い事であるが。
何はともあれ、再び相対する事になった存在、虚無の境地。
虚無の境地は片手の果実を放り、口でキャッチ。芯まで残さず完食した。
「で、返答は?」
「断るに決まってるだろ!」
「だよな」
ガルムと虚無の境地の間に闇魔法を挟み、引き離す。
いや、虚無の境地ならば別方向に避ける事も出来た筈。単純にホムラの力を更に見て置きたいから戦いやすい場所に移動したのだろう。
「相変わらず痺れるな。その容赦の無さ。徹底振り。マジで仲間になってくんねェか? 最近は仕事も来ねェから持ち合わせは少ねェけど、小遣いくらいならやれるぜ?」
「何度も言うが断る。金で懐柔出来ると思うなよ? 俺は始めからテメェを殺すつもりなんだからな。約束通り、一瞬で……痛いのが嫌ならさっさと殺されろ……!」
「とんでもねー理論だな。そこも気に入ってるけどよ。んじゃ、食後の運動とでも行きますか」
「さっさと消化しておけ。バラバラにした時、胃に胃液以外が残っていると食事の時にフラッシュバックして気分が悪くなる」
「心配すんな。お前の手によって俺が解体される事はねェ」
虚無の境地は軽く伸脚運動をして足を伸ばし、軽く跳ねて片手をブラブラ。一呼吸終え、向き直る。
ホムラ、セイカ、フウの三人は先程から既に臨戦態勢に入っている。ガルムは木の実を食べていた。
片腕を頼りに捜索していたホムラ達は、その目的である虚無の境地と出会った。




