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95ページ目

 ──“火の系統・居住区跡地”。


「改めて……酷い有り様だな。死体は放置されていて悪臭が漂っている。建物の大半が破壊されているか、そのままの形で廃墟になっている。火事場泥棒の形跡しかない」


「……悲惨です。つい二ヶ月前は皆様に活気があり、賑わっていましたのに……」


「そうだな」


 フウが帰宅してから戻って来るまでの間、ホムラとセイカは二人で見慣れた筈の見慣れない光景を前に歩んでいた。

 歩廊は案外問題無い。本当に建物か人しか被害には遭っていない。流石に全てを埋葬するとキリが無いのでホムラは自分が非情であると理解しつつ先を行く。

 そしてそれとは別に気掛かりもあった。

 ボソッと聞こえないような声で呟く。


「先生は無事かな……」

「先生……? ホムラ様の担当の教師ですか?」


「……っと、聞こえていたか。……学生の頃お世話になった火の系統の教師だ。珍しくまともな感性をしていて、何度も助けられた」


「その様な方がいらっしゃったんですね」

「ああ」


 ホムラの気掛かり。それは担当教師だったアカネ先生。

 よく居る性格の教師達によって弱者の味方をするアカネ先生は学校を辞めさせられてしまったが、ホムラには確かな恩義がある。死んで欲しくないと思える方の人間だ。

 火の系統が全滅したなら漏れなく殺されている筈。しかし辞めてからはこの街ですら会った事が無く、最後に会ったのは励ましの言葉を貰った切り株の場所。

 それ以降行方が知れていないので一抹の期待もあった。

 もっとも、未来への期待など高確率で裏切られるだけの無駄な行為という事も経験から理解しているが。

 二人は居住区を進む。


「何も残っていないな。何でだ?」

「……。確かに……此処だけ不自然に何も残っていませんね」


 その先にて、おかしな光景が映り込んだ。

 今見ている区画だけ何もないのだ。

 “何もない”を幅広く捉えれば廃墟になった此処に違和感は無いが、おかしいと思える理由は急に(・・)何も(・・)なくなった(・・・・・)事である。

 此処まで来るまで屋敷などは多くあった。しかし此処から不自然に消えているのだ。


「この場所は何があったかな」

「特に何もないかと……おそらく誰かの屋敷でしょう」

「という事は、屋敷一邸が丸々無くなった訳か」


 屋敷一邸の消失。ただ破壊されただけならまだしも丸ごと消えている。それが疑問だった。

 どんなに綺麗に破壊されても必ず何かは残る。それすら無いとなると検討も付かないだろう。


「かなりの大きさの屋敷を丸ごと持って行ける力……魔法でも腕力でも凄まじい物だな」


「魔法はまだ分かりますけど……腕力ですか? そんな事有り得るのでしょうか」


「無いとは言い切れないさ。ま、虚無の境地が全人類や他種族の中で一番身体能力が高いって考えたら十中八九魔法か魔術の力だろうけど」


 考えられる線は魔法や魔術。しかしこれ程の力なら上級魔法以上は確定。

 何故わざわざ壊滅した火の系統の区画から屋敷を一つ消し去ったのかは謎だが、あまり良い事では無さそうだ。

 そう思える事には他の確信もあった。


「綺麗なまでにこの一帯だけ死体も無くなっているな。親切な人が埋葬してくれたのか、それとも屋敷ごと持ち去って利用しようと言うのか」


 それは、この一帯だけ死体が無いという事。

 ホムラが言うように親切な人が埋葬してくれたなら良いが、他の死体を放置している事からその線は無い。その事は理解している。

 ホムラの言葉を聞いたセイカは怪訝そうに話した。


「……っ。縁起でもないですけど、信憑性は高いですもんね……。野盗及び虚無の境地の襲来後、何かあったのは確定です……」


「悪どい事を考えるならこの広い廃墟は打ってつけだからな。誰の邪魔も入らず事を遂行出来る」


 この場所は、言ってしまえば誰も来ない広場。建物の類いは多く残っており、微量な魔力を含んだ死体も豊富。

 魔法によって何かしらの実験をするならかなり適正だろう。


「一体何を企んで誰が……」


「それについての手掛かりはないな。けどまあ、それが何者であっても俺と敵対する事があったら容赦なく潰すけど」


 魔法使いの死体。それには利用価値が色々ある。

 一般的な知識として人間には魔法などを扱う“魔力”を温存する器官が体内にはあり、そこから血液のように魔力が流れる。それが魔法使いの身体構造。

 要するに心臓のようなポンプの役割をその器官が果たして魔力を肉体に流しているのだ。


 それもあり、魔力の温存器官には死後も暫く魔力が残る。魔物を食すと魔力が高まるのはそれが理由。

 つまり、今の状況は魔力の豊富な死体が回収されたという事。

 単純に魔力の多さはそのまま力に繋がるので魔法使いの死体は世界的に重宝されている。

 それでもこの区画に魔法使いの死体が多く残っていた理由は、この街の上流階級的に利用するのも面倒だからと言う単純なもの。そこに着目した誰かが魔法使い達の死体を持ち去ったと考えるのが妥当だ。


「こうなってくると、もう少し調べてみた方が良いかもな。実際、今まで闇魔法が単純な力押しで破られた事はないけど、それを凌駕する魔法が生み出されてもおかしくないからな」


「そうですね……。警戒するに越した事はありません。ホムラ様の言うように、私達の脅威になる可能性は十分にありますから……!」


 何者の仕業かは分からずとも、魔法の研究をしている誰かの仕業という事はほぼ確定。

 それを踏まえた上でホムラ達は虚無の境地と全世界以外の新たな敵を想定して考える。


「取り敢えずこれで火の区画はある程度見て回ったな。フウが戻って来るにはまだ早いし、何する?」


「私はこのままホムラ様と一緒に散歩出来るなら多くは望みません。やりたい事は無い訳ではなく、それこそ心地好い草原とかなら考えますけど……多くの方が亡くなられた此処でホムラ様と交わる訳にはいきませんからね」


「そうだな。それは失礼に当たる。謂わば此処は大きな墓標。墓標で命を生み出す行為に及ぶのは死者への冒涜だ」


 セイカ的にはホムラとしたい事はある。だが、場所が場所なのでそれは避けた。

 それについてホムラも尤もな理論で同意し、一先ず二人はまだ暫く散歩をする事にした。



*****



「お待たせ。ホムラ、セイカ様」

「お帰りなさい。フウさん」

「おじさん達は元気してたか?」

「うん。お父さんやお母さんもホムラの事は信じてるってさ。あ、一緒に行動している事は念の為に言っていないけどね」


 それから数時間後、そろそろ日も暮れるという頃合いにフウが戻って来た。

 フウの両親はホムラを信用しているようだが、ホムラの事については話していないらしい。

 実際、フウ、スイ、リクの両親は信用している。まともな方の貴族と知っているからだ。

 しかしホムラの存在は世界的に知られているが、このパーティの中では機密事項。共に行動していると知っているのは四宝者とフウ達。そして親切な街の人だけ。それをフウは配慮してくれたのだろう。

 やはり空気の読める風の系統である。


「それじゃ帰るか。手掛かりになる虚無の境地の腕も見つけたし、それとは別に気になる事もあったし」


「気になる事?」

「それについては戻ってからまとめて話すよ」

「うん、分かったよ。ホムラ」


 虚無の境地の手掛かりと、火の区画にて見つけた気になる事。後者についてはこの三人だけの問題でもなさそうなので拠点の屋敷に戻ってから考える事にした。

 周りに人の気配が無いのを確認したホムラは“星の裏側”への鍵を使い、表側。“エレメンタリー・アトリビュート”から姿を消し去り、そのまま自分達の屋敷に向かった。



 ──“屋敷”。


「ただいま」

「ただいま帰りました」

「ただいまー」


「あ、ホムラ! セイカ! フウ! お帰りー!」


「っと、ただいま。ゼッちゃん」


 屋敷に戻るや否や、玄関にてゼッちゃんが飛び掛かり、ホムラは少し揺らぎながらも受け止める。

 その後ろからトキ。執事。サチ。そして今日一日手伝ってくれていたメランがやって来た。


「「お帰りなさいませ。御三方」」

「お帰り~」

「おかえり……」


 礼儀正しく執事とメランが頭を下げ、軽い感じでトキ。静かにサチが告げる。

 時間やトキ達の様子を見る限り、四人も今さっき帰って来たところらしい。やり遂げたと言った面持ちで快く迎え入れている。


「今日のクエストも大成功だったみたいだな。ゼッちゃん」


「うん! 今日はつまんないクエストだったけど、みんなにありがとうって言われたよ!」


「偉いな。ゼッちゃん」

「えへへへ~」


 クエストの報告を聞き、ホムラはゼッちゃんの頭を撫でる。

 ゼッちゃんは嬉しそうに笑い、ホムラからピョンっと離れた。


「ホムラ達は?」

「ああ、ボチボチ……じゃ分からないか。結構良い収穫があったよ」

「野菜採ってきたの?」

「野菜じゃないけど、欲しかった物かもな」

「へえ~」


 ボケなどではなく純粋に訊ねるゼッちゃんに話す。ホムラ達も屋敷に上がり、いつも通りテーブルとソファーのある大広間に入った。

 そこのソファーに座ってホムラは入れ物から例のアレを取り出す。


「一先ず今日の収穫だ。食べ物じゃないけどな」


「何コレー? 手?」

「誰かの腕みたいだねぇ」

「手……何となく見覚えある……」


 虚無の境地の片腕。

 それを見せた反応は予想通り。ちょっと困惑した感じ。しかしサチだけは何となく思い当たる節がある様子。

 ホムラは更に続けた。


「これは虚無の境地の腕だ。拾ってきた」

「……!?」

「へぇ~。キョーちゃんの手なんだー!」

「どおりで見たことあると思った……」


 トキは目を見開き、瞬きをして驚愕する。

 ゼッちゃんとサチは本体の無い腕程度に驚きなども無く、虚無の境地の腕と聞いて逆に懐かしんでいた。……二人ともまだ幼いが。


「これがあれば虚無の境地の居場所を特定出来るかもしれない。俺の目的に一気に迫れる可能性がある」


「かもしれなくて、可能性がある。かぁ。全部曖昧だねぇ」


「確信ではないからな。まずはガルムに頼んで匂いを追ってみる」


「臭くないの?」


「意外にも無臭だ。強いて言えば土の匂いかな。地面に落ちてたし。とにかく明日辺りガルムと一緒に探してみるよ」


「そっか。誰と行くの?」

「その時決める。今は帰って来たばかりで少し疲れたしな」


 一先ず試すならガルムの嗅覚に頼る。それはさっきも言っていた通り。ホムラの言葉にセイカ達はピクリと反応を示すが、まだ立候補しない。

 手掛かりを掴んだホムラは明日、またクエストとは別の行動を起こすのだった。

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